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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第七章 クゥドル神復活
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三十一話 大神クゥドル⑤

『マーレンよ、どうやら貴様が、ヨハナンの試練を突破した魔術師らしいな。先程のディンイーターを遠ざけた魔術を見ればわかる』


 クゥドルはそう告げた後、単眼の目先を俺の背後、ペテロへと向ける。


「ひ、ひぃっ!」


 ペテロが小さな悲鳴を上げて身体を大きく跳ねさせた。


『貴様は、試練を超えられる器ではない』


 それだけ言うと、再び単眼の視線を俺へと戻す。


『ヨハナンの保険が本当に意味を成すとはな。さて、マーレンよ、願うがよい。我の機嫌を損ねぬ範囲で、なんでも叶えてやろう』


「……えっ?」


 クゥドルの唐突の言葉に、俺は戸惑った。

 ね、願い……? え、なんで?


『我が眠りについてから、夥しい年月が流れておるようだが……その間に我の事も、ただ伝承に名を残すのみの、古ぼけたものと成り果てておるだろう。そんな我を捜し当て、あの加減を知らぬ聡明な愚者の用意した試練をも乗り越え、ここまで足を運んだのであろう? 並大抵の覚悟では、できることではない。何か、相応の悲願があるのか、大きな使命感の許に、ここへと訪れたのであろう。申せ、我には、貴様が何を願おうともそれを叶える力がある。実際に動くかどうかは、我次第であるがな』


「……えっ?」


『えっ、ではないが』


 俺とクゥドルの間に、気まずい沈黙が広がる。

 どうしよう。

 クゥドルは意外にも理知的であるようだが、自らの眷属であるディンイーターへの容赦のない振る舞いを見るに、気が長い方とは思えない。

 流れで人助けのつもりでついて来て、騙されて退くに退けなくなって気が付いたらここにいましたとは、口が裂けても言えない雰囲気だ。


『まさか……まさか、そんなことはあり得ぬとは思うが、貴様、そっちの男に乗せられて、何となくここまでやってきただけではなかろうな……?』


 筒抜けであった。

 黙っていても意味がなかった。


「え、えっと……」


 何か、何か、適当にでっち上げておいた方がいいのだろうか。

 そ、そうだ、本物の大神クゥドルならば、俺の知らない魔術や、高価な魔法具、超高位悪魔の召喚紋も持っているはずだ。


 クゥドルが眠りについたのが神話時代ならば、遥か昔だ。

 悪魔が死ぬか契約が切れるかしていてもおかしくはないが、俺は地神ガルージャに仕えていることを自称する高位悪魔、大精霊ダンタリオンと出会ったことがある。

 ダンタリオンはやや残念だったが、クゥドルに仕える高位悪魔ならば、そんなこともないだろう。


 急変する事態に戸惑ってばかりであったが、冷静に考えると途端にテンションが上がってきた。

 クゥドルの持つ魔術も魔法具も使役する悪魔も、神話級の最上位のものだ。

 現代において、クゥドルに会える魔術師は、果たして何人に一人の幸運か。

 天文学的な数値になるだろう。


 俺の背の衣服を握りしめていた、ペテロの手が離れた。

 また何かペテロが企んでいるのかもしれないと考え、杖を構えて振り返った。


 ペテロは、地に頭をつけて土下座していた。


「……こんなことを頼める立場じゃないのは、わかっているわ。けれど、けれど……どうか、どうかワタシに、クゥドル神への願い事を、譲ってもらえないかしら? ワタシ、こう見えてお金ならいくらでもあるの! 他の貴族の名義で土地も持っているし、隠れ家には貴重な魔法具や歴史書に芸術品も置いてある! 好きなだけ持って行ってくれて構わないわ! 王族にも顔が利くから、適当な理由を付けさせて、爵位を上げることもできるの!」


 俺はしばし考える。

 俺を殺すと宣言した舌の根が乾かぬ間によく言えるものだが、そのことは本人も理解しているようだ。

 だが、今までのペテロの行動や俺の覚えた違和感から考えるに、ペテロは何らかの切羽詰まった事情があり、クゥドルの力を借りようしていた様に見える。

 そこには一考の余地があるかもしれない。


 それに、ペテロの言っていることが本当ならば、ペテロはそこらの大貴族よりもよほど影響力のある人物の様だ。

 ペテロの正体が、禁忌魔術で延命し、そのせいで表に立てなくなった元教皇というのならば、そのことにも納得がいく。

 恩を売れれば見返りが大きい事には間違いない。

 辺境領主ラルクとは比べ物にならない資産を抱えているはずだ。

 クゥドル騒動が終わった翌日には、俺が金銭的理由で先延ばしにしていた魔術研究や開発を押し進められるだけの富が得られるようになるだろう。


 脳内で算盤を弾く、答えはすぐに出た。

 俺は姿勢を低くし、ペテロへと腕を伸ばし、肩に手を置いた。


「アベルちゃん……!」


 ペテロの顔は、鼻水と涙に汚れていた。


「やっぱりクゥドルの魔法具の方が欲しいです」


「アベルちゃん!?」


 ぶっちゃけ考えるまでもなかった。

 神話時代の最高位魔法具である。今を逃せば、二度と手に入らないであろう。


 それに引き換え金銭はファージ領で復興を進めていれば、俺が自由に扱える金銭も増えていくはずだ。

 実際、ファージ領は日々急速に経済成長を進めている。

 ペテロの集めた品々も、クゥドルの魔法具に敵うわけがない。

 爵位も土地もまったく興味がわかない。


 俺は振り返り、触手の蠢く青白く輝く肉塊、クゥドルへと顔を向け、手をワキワキとさせる。


「クゥドル様! その、何か、魔法具をください! なんでもいいですけど、高価であれば高価であるほど嬉しいです! あ、無論売りませんよ! 絶対に大事にしますから!」


『……我の想定していた願いと違う。もっと、大いなる災いの回避だとか……大悪魔の排除だとか……』


「え……ダメ、ですか。あの、高位悪魔の召喚紋や、魔術式でもいいんですが……!」


『……ヨハナンよ、貴様の保険も、どうやら意味がなかったぞ。愚かで聡明なる貴様も、こればかりは読み違えたらしい』


 クゥドルの輝きに翳りが差し、触手がだらんと床に垂らされた。

 よくはわからないが、落胆しているようであった。

 クゥドルの背後に立つ六体のディンイーターの内、一体のディンイーターが腹を抱えて笑っていた。

 クゥドルの触手の鞭が、笑っていたディンイーターの身体を打つ。轟音と共に床ごと陥没させた。

 ディンイーターの目玉や牙が飛び散る。しばらくピクピクと痙攣していたが、姿が薄れていく。

 精霊への分解が始まったのだ。


 六体のディンイーターは五体のディンイーターになった。

 五体のディンイーターは、ピンと背筋を伸ばす。


 床にうつ伏せに蹲っていたペテロが、俺の足首を掴んだ。


「なんですか! 絶対譲りませんよ俺は!」


「し、神話を知らないの!? クゥドル神は、憤怒と狂気の破壊神よ!? きっ、機嫌損ねたら、ワタシ達、今度こそ皆殺しにされるわよ!?」


「だ、だって、好きなことを願えって言われたから……!」


 しかし、確かにさすがに態度がまずかったか。

 いかん、熱くなり過ぎた。

 クゥドルは思ったより話の通じる相手ではあったが、かなりプライドが高そうだ。

 今の俺の不用意な発言が怒りの琴線に触れないとも限らない。


『……まぁ、よかろう、マーレン。好きなものを選べ。貴様の欲しがりそうなもの……『破壊の杖』は、今更か。勝手に持って帰るがいい。『セフィロトの審判杖』か、『終わりの鐘』か、『黄昏の衣』か……『黄金髑髏』もあるが、これはできれば我が手許に残しておきたいものだな。おすすめはせぬが、『災厄の指輪』や『色欲竜の瞳』もあるぞ。『暴食竜の魔臓器』の一部もあるが、防腐術式を組み込んでおるだけであるため、道具袋として扱うには魔術式を組み込んで加工する必要があるぞ』


「お、おお……!」


 『終わりの鐘』と『災厄の指輪』はわからないが、『セフィロトの審判杖』や『黄昏の衣』、『色欲竜の瞳』は神話や伝承で聞いたことがある。

 実在するものだとは初めて知った。

 『暴食竜の魔臓器』は俺が欲して止まないものだったが、 ここに並べられる他のものからは大きく落ちる。

 『暴食竜の道具袋』をとっておきの宝にしていた収集家には悪いが、とてもとても比べられるものではない。

 確かに『暴食竜の道具袋』の利便性は高い。

 しかし、それでもここから一つを選べというのであれば、『暴食竜の魔臓器』はあまりに勿体なさすぎる。


 なんだこの大判振る舞い。

 神か? 神だった……。


「あの、どこにあるんです!? その身体の中に埋もれてるんですか!?」


『……貴様を見ておると、ヨハナンの愚か者を思い出すわ。どうやら無駄な目覚めではあったようだが、無意味な邂逅ではなかったらしい』


 クゥドル神が呆れた様に言い、肉塊を左右に揺らす。


「ど、どうやら、助かったみたいね……」


 ペテロはうつ伏せの姿勢のまま、安堵の息を漏らしていたが……唐突に、口許に恐怖を浮かべた。

 ペテロの目線の示す方を見れば、メアが、怒りの形相でこちらへと歩み寄ってきた。

 手にはゾロモニアの杖がある。

 重いためか、先端を床に引きずっている。


 ゾロモニアの幻影の姿は見当たらない。

 ペテロと派手に心中する目的が果たせそうにないと見て、拗ねているのかもしれない。

 いや、悪魔の妄執は、拗ねるなんて言葉が似あうほど可愛いものではないが。


「メア、何を……」


「アベル、とりあえずそいつ殺しましょう」


 メアが、冷え切った目でペテロを睨んでいた。

 ゾロモニアの杖を何に使うつもりなのか疑問だったが、ペテロの頭部を破壊する鈍器として用いるつもりだったらしい。

 メアが腕に力を込め、ゾロモニアの杖を持ち上げた。

 ペテロが大口を開けて、振り上げられた杖の先端を見上げる。


「お、落ち着いて! 気持ちはわかるけど、一応生かしておこう!」


 俺はメアの身体を抑える。


「放してください! そいつ、アベル殺そうとしてたんですよ! アベルに助けられてたのに……! 次にいつアベルに武器を向けるかわかりませんもん!」


「それは内々で事情を聴いてから、納得できなければファージ領の衛兵に引き渡して、他都市の監獄送りにしてもらえばいいだけの話だから! メアが手を汚す必要なんてないから落ち着いてくれ! ちょっと、クゥドル様、触手一本貸してください! あ、これはノーカンですよね!?」


 クゥドルの単眼は呆れた様に俺達を眺めていた。

 俺、ペテロへと目線を移動させてから、メアへと向け、クゥドルの単眼の動きが止まった。


『……なんだ、貴様?』


 ピクリと、クゥドルの単眼が震える。


『……すまぬな、マーレンよ。事情が変わったようだ。納得しろとは言わん、恨むがいい』


 言葉と共に、クゥドルの単眼が大きく開く。

 辺りを強烈な殺気が支配した。


「え……?」


 クゥドルを覆う無数の触手が、唐突に持ち上がり始めた。

呪族転生第四巻の発売日となりましたっ!(2017/11/15)

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