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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第七章 クゥドル神復活
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十六話 第一の試練④

 俺はディンイーターの体液に塗れながら、魔術で作った土の器の上に、必死にディンイーターの骸を集めていた。

 集めさえすれば、後はある程度ならばオーテムで運べる。

 だが、ディンイーターの骸は、意外に一体一体がずっしりと重いのだ。


 魔術も交えて運んでいたが、俺一人ではちょっと手が足りない。

 それに背後からはクゥドル像によるタイムリミットが近づいてきている。

 そのため、メア、ペテロ、ペテロの部下のミュンヒにも、ディンイーター運びを手伝ってもらっていた。


 俺は風の魔術で丁寧にディンイーターを土の器に乗せた後、ちらりとペテロの方を振り返る。

 ペテロも俺と同様に風の魔術でディンイーターを運んでいたが、動きが遅い。

 もうちょっと、ぱぱっとできないものだろうか。丁寧に運びすぎている。

 普段ならそれでもいいのだが……今は、クゥドル像のことがある。


 ミュンヒは魔力を余計に使いたくないと言って担いで運んでいたが、クゥドル像をチラチラと見てばかりで、まったく作業が進んでいない。


「す……すいませんペテロさん、ミュンヒさん、あの、言い辛いんですけど、もうちょっと、もうちょっとだけでいいので急いでください。本当に、もうちょっとでいいので」


 俺が言うと、ミュンヒが担いでいたディンイーターを床へと背負い投げした。

 綺麗な円を描き、ディンイーターが背から叩きつけられる。


「あの、確かにディンイーターは頑丈ですけど、一応貴重品なので、不用意に傷つけるような真似は……!」


「どれだけペテロ様を侮辱すれば気が済むのですか!? きさっ……貴方方は、ペテロ様を低く見過ぎている。ペテロ様がどれだけ尊きお方なのかを理解し、自らの愚行を悔いるべ……」


 ヒステリックに騒ぎ始めたミュンヒの口を、ペテロの両腕が塞いだ。


「……お願いだから、余計なことはしないでちょうだいミュンヒ。アナタは馬鹿ではないと、ワタシは信じているわよ」


「むぐっ、ペ、ペテロ様……! しかし、しかし……! あいつはよりによって、ペテロ様にクゥドル神の眷属の死骸の回収など……」


「彼の機嫌を損ねたらどうなるのか、本気でわかっていないみたいね。とにかく今は言うことに従いなさい!」


「は、はい……」


 ペテロの説得あって、ミュンヒも床に投げつけたディンイーターを再び背負い直す。

 これが人徳という奴か。やっぱり、人の上に立つ人は凄い。

 俺は感謝の意を込めて苦笑いしながら、小さく頭を下げた。

 ペテロは口許をやや引き攣らせて曖昧に頷き、俺から目を離した。


 そうこうしている間にも、像の触手を軋ませてカクカクと動きながら、クゥドル像が俺達の元へと近づいて来る。

 ミュンヒが心配げにペテロへ目をやる。

 ペテロはクゥドル像を見た後、俺とクゥドル像を見比べ、頭を抱えた。

 嘆いている暇があったら一体でも多くディンイーターを運んでほしい。


「アベル……そろそろ、限界じゃないですか? もう、あの化けも……神様の像が、こっちに来ちゃいます。この先に何があるのかもわかりませんし、そろそろ先に進んだ方が……」


「……そうだな。もう形の残っていた三十体の内、十四体はアシュラ5000に持たせてあるし……」


 アシュラ5000は六本の腕にそれぞれ大きな土製の器を持ち、その上に二体、三体のディンイーターを乗せていた。

 あれ以上、アシュラ5000に持たせるのは難しい。

 ここまでにしておくか。


 クゥドル像は、神代最強の魔術師といわれるクゥドル神を召喚した神官ヨハナンが、逃げることを前提に作ったギミックだ。

 まともに戦ってどうにかなる相手だとは思えない。


 ミュンヒがふらふらとディンイーターを担ぎながら歩いてきた。


「……これ、最後のディンイーターに……」


「ええ、わかってます。そろそろ動かないと、クゥドル像が気掛かりですもんね。ちょっと、そこに置いといてください」


 地面においてほしいというつもりで言ったのだが、ミュンヒはフラフラとアシュラ5000に近寄っていき、構えられた手の上の器へと、ディンイーターを置いた。

 そこまではよかったのだが、ふらつく足取りでそのままアシュラ5000の腕へと凭れ掛かり、足を滑らせて全体重を器へと掛ける。


「あっ……」


 器がアシュラ5000の手許から次々に落ちて、地面へと叩きつけられる。

 アシュラ5000は当然ミュンヒが凭れ掛かった程度で動くほどヤワではないが、器は手で軽く握らせているだけだったのだ。

 思いっきり掴ませれば握り潰すので、時間がないので調整の時間をケチって緩めにしてしまっていたのだ。

 まぁ大丈夫だろう精神の手抜きが招いたことだった。


「いやぁぁぁぁあっ!」


 ミュンヒの身体が、ディンイーターの死骸に埋もれていく。

 死骸の合間から、腕が伸ばされる。


「ミュンヒィッ!? アナタ、アナッ……!」


 ペテロが悲鳴に近い叫び声を上げる。

 前に出した両腕を、ワナワナと震わせている。


「ミュッ、ミュンヒさん!? ちょっ、ちょっと、退けてあげて、退けて……!」


 俺はアシュラ5000を動かし、ディンイーターを除けさせてミュンヒを救出させた。

 ところどろこから出血していたが、辛うじてミュンヒは軽傷であった。


 ペテロの部下が顔を隠すために被っている被り物がディンイーターの骸に巻き込まれて駄目になったらしく、素顔を露出させていた。

 ややヒステリック気味の印象が強かったのだが、意外にも地味な美人といった顔立ちだった。

 ディンイーターの骸に身体のあちこちに負荷を掛けられたせいか、意識がやや朦朧としているようであった。


「だ、大丈夫ですかミュンヒさん? メアの指の数、わかります? アベル、一回あの像から距離を取ってから、ちょっと見てあげた方が……」


「あ、ああ、そうだな……」


 俺もミュンヒは心配していたが、頭の中で必死にクゥドル像がこっちに来るまでに何体拾い直せるかを計算していた。

 俺もミュンヒは心配だ。

 心配だけど、これは別というか、仕方のないことなのだ。


 ディンイーターの皮は、さっき簡単に解析してみただけだが、はっきりと有用であるとの判断を俺は下していた。

 俺が今まで目にしてきた魔獣や精霊と加えても、頭一つ抜けた頑丈さを誇る。

 伸縮性にも優れており、着心地は最高だろう。また熱さ寒さにも強く、熱に左右されない。

 ローブの布生地としては最適だ。


 すぐにでもディンイーターを集め直したかったが、焦りすぎるのは禁物だ。

 変な乗せ方をすれば、また崩れてしまいかねない。

 アシュラ5000に六体だけがっちりと掴ませて、とっとと逃走するのが一番か……?


「ミュンヒィイッ! このっ、バカ! なんてことしてくれてるのよぉおっ!」


 ペテロがミュンヒの首元を掴む。

 指は、首の肉に食い込んでいた。かなり強い力で掴まれている。

 呼吸が苦しいのか、ミュンヒが苦し気に喘ぐ。

 俺が呆然と見ている中、そのままペテロはミュンヒの頭部を床に叩きつけた。

 息を荒くし、肩を上下させる。


「わ、わ、悪かったわ……ワタシの部下が、こんな失態を……。この埋め合わせは、後でどうにかしてみせるわ。だから……命だけは、見逃してあげてちょうだい。こんなのでも、ワタシの一番の部下なのよ」


「い、いえ、そこまでしなくとも……!」


 ペテロは俺が今ので機嫌を損ねると思ったらしく、平謝りであった。

 とはいえ、ディンイーターを収集する器をやや不安定な状態で妥協したのは、焦った俺の判断ミスだ。


 確かに床においてくださいと頼んだのにミュンヒが余計なことをした挙句、アシュラ5000にタックルかまして器を叩き落したときには胸倉を掴んで揺さぶりながら『これがどれだけ価値があるものなのかわかっているんですか、これは歴史的損失ですよミュンヒさん!?』と詰め寄りたい衝動に駆られたが、俺だって空気は読める。

 それに、俺にだって非がないわけではなかった。

 ミュンヒもわざとやったはずがない。


「……あの、ペテロさん……埋め合わせっていうか……別に、そういうつもりじゃあないんですけど……その、ディンイーターを一体……あ、いや、二体担いで走ることってできますか?」


「……はい?」


 ペテロは目に見えて動揺した後、身体中の力を絞って近くにあるディンイーターを一体背負った。


「うっ、うぐ……で、でで、できないことはないはず……よ。ワタシの上にもう一体乗せてちょうだい……」


 ……これ、やっぱり、一体も無理そう。

 俺が言うのもなんだけど、ペテロ、あんまり身体能力は高くなさそうだな。

 どう見ても苦しそうだ。

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