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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第七章 クゥドル神復活
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十三話 第一の試練①

 俺はメアとペテロ、ぺテロの部下の女の人の四人で、クゥドル教古代聖堂へと乗り込んだ。

 ペテロの部下は被り物で顔を隠しているので確証は持てないが、声から察するに、恐らくパルガス村にペテロが来た際にも来ていた人物だ。

 名をミュンヒというらしい。


 四人の他に、ペテロの持っている大杖に封じられている、知恵と破滅の悪魔ゾロモニアも付いて来ている。

 ゾロモニアはペテロの横をちょこちょこと歩いているかと思えば、いつの間にか姿を消していたり、ぷかぷか宙に浮いていたりしている。

 大抵ペテロの背を楽しそうに眺めているが、時折俺の方をじぃっと恨めし気に見ていることもある。

 とはいえ俺から視線を返せば、プイッとわざとらしく顔を逸らされる。

 その他には、特にこちらへ干渉してくる様子はない。


 クゥドル教古代聖堂は、青の壁に青の絨毯、そして青い灯火……と、どうにも落ち着けない内装が続く。


「ペテロ様……よろしいのですか? あの男、明らかに真っ当ではありませんよ。それに、前だって……」


「他に手があったら、ワタシだってそうするわよ! アレだけは、絶対外部の人間に持ち出されるわけにはいかないの。わかるでしょう?」


 ペテロとその部下は、俺のやや後方を歩き、口許を隠して何かをこそこそと話し合っている。

 メアが尻目でそれを見て、不安げに零す。


「あのペテロって人、なんだか怪しくないですか? メア、見てて不安になるんですけど……」


「そう? 前に会ったときも、別に普通にいい人そうだったじゃないか」


 俺は以前、パルガス村でペテロと顔を合わせたときのことを思い出す。

 あの時もペテロは、勝手に荒ぶって俺に難癖を付けて来た部下達を止めてくれていた。


「……でも、間違いなく禁魔術使ってるだとか、アベルも言ってませんでした?」


 メアが、ペテロを見る目を細める。


「禁魔術を使う人に悪い人はいない。ちょっと趣味に真摯で自分に正直なだけだ」


 アルタミアも百年の研究成果を無に帰されてもグーパンで許してくれた聖人だが、討伐依頼された化け物をこっそりペット化しようとした前科を持つ。

 ちょっと基準が人とずれているだけなのだ。

 きっとペテロさんもそう悪い人ではあるまい。


「メアには難しいことはわからないですけど、度が過ぎれば話が変わってくることも色々とあると思うんです……」


 古代聖堂内をしばらく進んだところで、通路に大きな扉があった。

 そこを潜れば、入ってすぐの所の両脇に、二つの大きな台座がある。

 片方の台座は空であったが、もう一つの台座には、圧倒的な存在感を誇る巨大な像が飾られていた。


 そのモデルは、ディンラート王国の国教の神。

 太古に四大創造神を全員滅ぼして神話時代に終止符を打った、クゥドル神の石像である。

 五メートル近くあり、なかなかに圧巻である。


 クゥドル像は大きいだけではなく、病的に精巧だ。

 触手の質感と人の上半身の質感を比べれば、それは如実にわかる。

 触手の曲がっている部分や、指の節目に僅かに浮かぶ骨なんかからも、作り手の執念が窺える。


 ペテロもクゥドルの像に関心があるのか、正面で足を止めて顔を上げている。


「クゥドル神の像ですね。俺、ディンラート王国でも、ここまで見事なものは見たことがありません」


 この像一つで、計り知れない値が付くだろう。

 教会関係者らしいペテロの前で、そんな俗な話をする勇気はないが。


 しかし、こうして改めてみると、なかなか不気味だ。

 ごつごつとした肉塊からひょろりと伸びる華奢な身体が、あまりに不釣り合いで見る者の不安を煽る。

 伸びる無数の触手は今にも動き出しそうだ。

 こんな化け物が本当に存在していたのだろうかと考えると、それだけで背筋が冷たくなる。


 メアがぶるりと身震いし、俺の背後へと隠れる。


「メ、メア、今、目が合った気がします」


 俺はちらりとクゥドル像の目へと顔を向ける。

 無感情な表情をしている。

 確かに左右どこから見てもなんとなく目があった気になってしまいそうな、異様な雰囲気を醸し出している。


「……ん?」


 俺の像への関心は、すぐにクゥドル像から、壁に刻まれている術式へと移った。


 なかなか見事な術式だ。

 古代の術式らしいが、俺はつい最近まで『大神宝典』を死ぬ気で解読していたばかりであったので、だいたいは見ただけで理解できる。

 暗号化が少々複雑だが、戦闘中に使われる魔法陣と違い、止まっている壁に刻まれている術式は、見てゆっくりと考えることができる。


 ノイズを取っ払えば、精霊獣や悪魔を呼び出すための召喚紋に構造が近い。

 恐らく、それに類する現象を引き超すためのものだろう。

 なかなか凝った造りになっており、見ていてハッとさせられる部分もちょくちょくとある。

 さすがは神々が実在し、悪魔が人々に精霊語を教えていたという魔術全盛期時代の産物だ。

 なるほど、こういう形式にすれば、疑似召喚紋の条件付け発動の様なものができるのか。


 俺は通路の先へと目を向けて、壁に刻まれている術式を端から端まで目で追っていく。

 この術式と構造と規模からいって、だいたいこの通路の先の左右に二十六体ずつ、合わせて五十二体といったところか。

 何かきっかけがあれば、連鎖的に五十二体の悪魔が召喚される仕掛けだと見て間違いないだろう。

 侵入者を阻む仕掛けの様なものということか。


 通路は先は所々、壁や地面が抉れており、血の跡も窺える。

 まだ渇いていないところを見るに、ついさっき悪魔が召喚され、侵入者と激しい戦いを繰り広げていたらしかった。

 恐らくペテロを叩き伏せた連中だろう。


「ペテロさん。連鎖型の悪魔召喚魔術式らしきものが刻まれているみたいです。警戒しておいてください」


 クゥドル像を見上げていたペテロが、俺を振り返った。


「……どうして、そんなことがわかるのかしら?」


「いえ、術式を読んだので。最近、この時代の魔術式に関する本を読んだばかりでして……」


 俺がそこまで言ったところで、ペテロの雰囲気が変わった。


「……神話時代の、魔術式に関する本? そんなものが、真っ当に残っているはずがないのだけど……」


 しまった、口が滑った。

 大神宝典は、クゥドル教の連中が血眼になって探し求めている書物である。

 収集家の話によれば土神信仰のガルシャード王国が隠し持っていたそうだが、ペテロにバレれば下手したら没収、投獄になりかねない。

 そもそも一部なれども読み解いたとなれば、口封じに殺されかねない。

 これはそれだけ危うい書物なのだ。


「え、えっと……」


 俺が口ごもっていると、通路の先から足音が聞こえて来た。

 足音の主は、褐色肌の男だった。

 鼻筋が通っておりくっきりとした二重瞼である。顎の先はしゅっと細い。

 顔つきは整っているが、無表情なためか冷酷な印象を受ける。


 服装は、大神宝典の挿絵として描かれていた、クゥドルを召喚した神官の服装に似ている。

 とはいえ大神宝典で見たのは、かなり簡略された大雑把なものだったので、あまり確証は持てない。


 てっきりペテロと対立した相手なのかと早とちりしかけたが……魔力の作った幻影の様なものらしいと、すぐにわかった。

 ペテロはその男を目にし、口を押えながら後ずさりした。


「ま、まさか、ヨハナン神官……」


 ヨハナンの名前は、大神宝典で見た、クゥドルを召喚した神官の名である。

 どうやらペテロも、幻影の人物がクゥドルを召喚した神官であると考えているらしかった。


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