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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第七章 クゥドル神復活
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十一話 天秤を背負う者①(side:ルーペル)

 破滅の魔術師ルインを除いた『刻の天秤(バランサー)』の二人、鉄仮面の大男ダーラスと、三人のリーダーでもある眼鏡の優男ルーペルは、クゥドル大神殿の内部へと侵入していた。

 大神殿の内装は、外装と変わらず病的なまでに青一色である。

 壁には青の煉瓦が積まれており、床には青い絨毯がどこまでも続いているかのように敷かれている。

 燭台の灯す炎も青い輝きを放っている。進んでいるだけで感覚が狂いそうになる。


 通路は広く、少し中を進み、大きな扉を超えたところの両脇には、五メートル近い全長を持つ巨大な石像が二体置かれていた。


 二体の石像はどちらも同じ形をしている。

 いくつもの触手が生えた歪な形状の巨大な球体より、触手を掻き分けるようにして、或いは触手の一つであるかのように、長い髪の女の上半身が伸びている。

 石像のモデルは明らかにクゥドル神であった。

 神々しさというよりは、不気味さが先立つ。


 通路の壁には、様々な魔術式が刻まれていた。

 魔術式は太古のものであり、今用いられている魔術式と根本的に型が異なる上に、複雑な暗号化が何重にもなされているようであった。

 ルーペルは手を触れて魔力を流し、魔術式の解析を行った。

 だが、プロテクトが厳重過ぎるのか、すぐに弾かれてしまい、何も掴めなかった。

 ルーペルはすぐに諦め、手を引いた。


「……これほど異様な魔力場は、この私とて初めて味わう。ダーラス、気を付けておけ。悪魔が潜んでいても、これだけノイズがあっては感知も遅れることだろう。何があってもおかしくない。私は、お前の力は高く買っている」 


 ダーラスは黙ったまま、こくりと頷く。


 ダーラスは元々、火神信仰の根強いマハラウン王国の生まれであった。

 ダーラスはマハラウン王国のごく一部の者にだけ伝えられる、魔力で身体能力を底上げする秘伝の武術『剛魔』を継承していた。


 ダーラスは所謂天才であり、幼少時に『剛魔』の基礎を身に着け、その影響で身体が異常発達した結果、現在の普通のノークスではありえない大柄の身体を有するに至ったのである。

 しかしダーラス自身の反則染みた強さは、彼にとって、むしろ余計な諍いごとの種にしかならなかった。

 散々利用され、疎まれた結果、果てには冤罪を着せられ死罪となった。


 ダーラスの鉄仮面は、その折に拷問を受けた際に着けられたものである。

 熱せられた鉄仮面を顔に押し付けられ、焼け付いた皮膚のために外れなくなっている。


 牢獄で死を待っていたところへ手を差し伸べたのがルーペルであり、『刻の天秤(バランサー)』であったのだ。

 『刻の天秤(バランサー)』は、とにかく強い人間を欲していた。


 廊下を進んでいる最中、ぴくり、ルーペルの片瞼が痙攣する。

 

「…………?」


 ダーラスがルーペルを見やる。

 ルーペルは小さく首を振った。


「……どうやらルインが、十割の力を出したらしい。やはりクゥドルを嗅ぎつけて、我々以外にも動き出していたものがいたのだな。ルインを追い込めるものなど、そう多くはいないはずだが。リーヴァラス国の自称教皇サーテリアか、お前の故郷のマハラウン王国の五大老ジームか……それとも、伝説の冒険者収集家か、伯爵か、ハイエルフの連中か……」


「……ルイン、死んだか?」


 ダーラスがぽつりと呟き、ルーペルの言葉を遮る。


「恐らく、敵と相討ちだろう。ルインは、魔力の制御が効かない。コントロールできる範囲は、厳しく見て三割、甘めに見て四割といったところだ。しかし念のため、先を急ぐとしようか……ん? あれは……」


 ダーラスの行く先に、褐色肌の美青年が立っていた。

 目の下や頬には様々な模様のメイクがが施されており、左の手には大きな杖を握っている。

 鼻は高く、憂い気な独特の目には、見たものの心を引き付ける奇妙な魅力があった。


「まさか……クゥドルを召喚したという、神官か?」


 ルーペルが、手の上で魔導書を開き、臨戦態勢になった。

 ダーラスも拳を握りながら、ルーペルの前へと出て腰を落とし、攻撃に備える。

 やや接近してきたところで、ルーペルは神官が、この神殿の術式が造り出した幻影であることに気が付いき、ダーラスに態勢を解くように目で促した。


 神官はルーペル達の目前にまで来て、口を開く。


「永き時代を経て、再び神へ救済を乞う者共よ」


 その言語は、古い型の精霊語であった

 恐らく、長い時が経っても残っている言語と考え、精霊語へと行き着いたのであろう。


 精霊語は精霊体が用いる、世の理の様なものである。

 人間の受け方が変わり、多少の差異が出るにしても、時代によって大きく変化することがない。


 優れた魔術師は精霊語を用いて会話を行うこともできる。

 それに『刻の天秤(バランサー)』では古文書を読み解く機会も多い。

 ルーペルには神官の精霊語を理解することができた。


「我、三つの試練を以て、汝らを選定せん」


 神官の喋った内容は、要約すれば、力が欲しくば、この大神殿にて三つの試練を乗り越えよ、というものであった。

 ルーペルが開いた魔導書を閉じる。


「この神殿を作ったのは、先の神官か。それにしても、三つの試練とは……また、面倒な……」


 ルーペルが開いた魔導書を閉じたのとほぼ同時に、神官が杖を大きく振り上げた。


「第一の試験を始める。荒ぶる神の像より逃れながら先へと進み、道を遮る月屠りの獣共を打ち倒せ」


 辺りを魔力の光が覆う。神官をただの幻影と捉えていたルーペルは、その動作に対応して通路に強い光が走ったことに、やや面食らった。

 光が消えたとき、神官の姿はすでになかった。


「今……何が……」


 そのとき、ルーペルの背後から、大きな岩が動くような音がした。

 振り返れば、通路の両脇に飾ってあった、二体の巨大なクゥドルの像の片割れが、動き出したところであった。

 石の触手が軋みを上げながら蠢き、角張った動きでクゥドル神を台座より降ろす。


 クゥドル神の石像の、本体から伸びる人間の上半身が、石とは思えぬ艶めかしい動きで身体をくねらせ、細い両手で自身の頭を押さえる。

 それから天井へと顔を向け、顔に罅が入るほどに大口を変えて表情を醜悪に歪ませ、咆哮を上げた。


「アァァァァァァァァアアアァァァァッッ!」


 それが産声であったかの様に、球根の様な歪な本体の中央にある、大きな一つ目が見開かれた。

 その瞳だけは石ではなく生身であり、その不釣り合いさが一層と不気味であった。


 これまで様々な強敵を仕留めて来たルーペルであったが、クゥドル像のあまりの不気味さと、その底知れない濃密な魔力に、ただ口を開けて呆然としていた。


 普段ならこういう場面になれば、ダーラスに即座に破壊を命じるところである。

 だが、本能が理解していた。

 あれは、どうにもならない。神官の幻影が告げた様に、身を守りながら先へと逃げるしかない。


「とにかく、先へ向かうぞダーラス! 奴の動きは鈍い! これが試練だというのならば、突破できないようには作られていないはずだ!」 


 だが、それと同時に、壁に刻まれていた魔術式が手前から順に次々と光を放ち、連動する様に通路の両端に、魔法陣が並んで浮かび上がった。

 ざっと見たところ五十はある魔法陣の上に、同じ数だけ精霊獣が現れる。


 身体つきや手足は、やや肥えたフォーグに似ていた。

 体表は錆びた金属の様な色をしている。

 唇は大きく、腫瘍の様にぶくぶくと膨らんでおり、人とは異なり横ではなく縦に大きく裂けていた。

 目玉は、左右上下、合わせて四つある。顔には幾つもの深い皺が刻まれていた。

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