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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第七章 クゥドル神復活
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十話

 俺は放心状態にあるノワールの魔術師ルインを土の魔術で生成した縄で拘束した後、ペテロ一派の治療へと当たった。

 ペテロは当初混乱していたようで、俺が治療のために近寄ったところ、耳を庇う様に押さえながら「まだワタシは、こんなところで終われないのよ!」と発狂しながら俺の顔面へと右ストレートを叩き込んで馬乗りになり、メアが馬車に積んであったオーテム用の木彫用ナイフでペテロの背を突き刺す事件も発生したが、どうにか一命を取り留め、今ではすっかり落ち着いている。


 刺した部位が危うかったので、ペテロが人工臓器でなければ即死もあり得た位置だったのだが、今は随分と元気なものである。

 むしろ大人しかったので治療しやすかった。


 どちらかといえば、産まれて初めて故意に人へ刃物を突き立てたであろうメアへの精神ダメージの方が大きかったようだ。

 メアはしばらくだらだらと汗を垂らしながら、ナイフを持っていた手を震わせていたが、俺が背を撫でているとどうにか落ち着いたらしく、今は馬車で横になって休んでいる。


 最初は瀕死のペテロをひとまず置いておいてメアの横についていようとしたのだが、「気持ちは凄く嬉しいですけど、メアはちょっと気分悪いだけなので、他の人を見てあげてください……」と返されてしまった。


 他のペテロの部下達の治療も終わり、俺は正面から殴られたせいでやや腫れている頬を摩りながら、ペテロと顔を合わせる。


「一通り、治療は終わりました。とはいえ、骨や臓器に損傷が出ていた人が多いので……あるもので魔術で誤魔化して適合させた代用のものではなく、きっちり素材を揃えてからまた入れ替えてもらった方がいいでしょう。身体に馴染むまでは、以前通りに動くこともできないでしょうし、しばらくは絶対安静かと……。ペテロさんは怪我が浅かったので、他の人と比べればまだマシでしょうが……」


「そ、そう……手、手間を掛けさせたわね……」


 ペテロは自身の腕の調子を疑う様に、伸ばしたり拳の開閉を繰り返していた。

 あまり腕の動きがよくないのかもしれない。

 ペテロの様子を見て、傍についていた部下の一人が、そうっとペテロの腕を取る。


「おかしいわ。完全に、腕の骨が分断されてたはずなのに……」


「あの杭、治癒を妨害する不可逆の術式も刻まれていたようでしたが……」


 ……どこか、誤っただろうか。

 ぶっちゃけた話、治癒魔術は魔獣実験が主で、人間相手にやった経験は少ない。

 本は腐るほど読んだし、暇なときに自分でもあれこれと既存術式の改良を行って治癒魔術への認識を深めていたので、知識に関してはそれなりに自身があるのだが、圧倒的に経験が足りない。

 魔獣は身体に不具合が残ろうとも、わざわざ俺に訴えたりはしない。


「……あんまり治療の実践経験はないもので、至らないところがあれば申し訳ございません」


「い、いえ、それは問題ないのだけども……。貴方、ファージ男爵家の雇った、流れ者の魔術師。マーレン族の出のアベル・ベレークだったわね」


 ペテロは俺を探る様に見つつ、何か心中で葛藤しているようだった。


「ペテロさん、ここで何があったのか、聞かせてもらってもいいですか?」


 ペテロはしばし逡巡する素振りを見せた後、ゆっくりと、重たげに真っ赤な口紅の塗られた唇を開く。


「……あそこは、ディンラート王国建国前に建てられたとされる、クゥドル教の古代聖堂よ。あそこの奥に、クゥドル教の伝承で存在を示唆されている古代兵器、『破壊の杖』が眠っているかもしれないの」


 ペテロがそこまで言ったところで、傍らの部下がびくりと肩を震わせ、『いいんですか?』と確認する様にペテロの顔を見る。

 ペテロは部下から目を背けた。


「は、破壊の杖!?」


 収集家が俺に絡んできた最大の要因でもある。

 世界中の伝説の武具を集めて歩いていた収集家が、その行き先さえついに掴むことができなかった伝説の杖。

 それが『破壊の杖』である。

 値のつけようのない、宝の中の宝である。

 俺だって、魔術師として興味がある。


 ごくりと生唾を呑み込み、ペテロへと前傾して顔を近づけた。

 ペテロは俺から距離を保つように、背を後方へと逸らした。


「ワタシは、王国の密命を受けて、『破壊の杖』の破壊のため、ここに来ていたの。……そこへ、『破壊の杖』の横取りを企てた、あの子達に妨害されて……このザマよ」


「あの子達に……?」


 俺はちらりと、魂の抜けた様な表情のルインへと目を向ける。

 ……あの子に、妨害されたのか? い、いや、複数形だから、きっと他の人に邪魔されたんだろう。

 せいぜいルインは、見張りの雑用か何かといったところか。


「お願いがあるの。先に二人、古代聖堂に入り込んだ奴らがいるはずよ。優男と、鉄仮面の大男よ。どっちも、ディンラート王国の人間でさえないわ。奴らの手に『破壊の杖』が渡ったら、このディンラート王国はお終いよ。こんなことを貴方に頼むのは我ながらどうかと思うわ。でも、他に頼める人もいないの。先に入った二人よりも先に、最奥部に辿り着いて……『破壊の杖』を、壊してもらえないかしら? お礼なら、いくらでもさせてもらうわ。ワタシね……こう見えても、それなりに地位も富もあるのよ」


 俺は秘かに、頭の中で天秤を掛けていた。

 『破壊の杖』を壊し、ペテロから謝礼を受け取るか……それとも、『破壊の杖』をいただいて、ペテロから逃げ回るようにするか。

 一瞬考えて、『破壊の杖』の性能を確かめてから考えればいいかと結論付けた。

 伝説は誇張される。それに『破壊の杖』に関しては情報が少なすぎる。

 蓋を開けて見ればただのゴミだった……ということにも、なりかねない。


「わかりました、ペテロさん! ディンラート王国の未来のためにも、必ず杖を破壊してみせます!」


「任せっぱなし……というわけにも、いかないわ。ワタシも、アベルちゃんのお陰で大分身体が動くようになったわ。クゥドル教に関しては、このディンラート王国一詳しい自信がある。何か役立てることがあるかもしれないから、同行するわ。例の、そこのノワール族を含めた三人組についても、多少は知っていることがあるの」


「え、ええ……はい、それは頼もしいです……」


 ……しっかり、見張りが付けられていたか。

 俺が内心がっかりしていると、胡散臭く物々しいペテロの部下達の格好からはかけ離れた、落ち着いた地味な修道服の少女が起き上がり、顔を怒りに歪ませてペテロへと指を差した。


「よくもそう、口から出まかせが出たものですね! 旅のお方、騙されないでください! この悪魔は、法神様の力を利用しようと……」


 少女がそこまでいったところで、背後から忍び寄っていたペテロの部下の一人がガッと首を締め付け、少女の言葉を止めた。


「お気になさらず。彼女は、まだショックが抜け云っておらず、錯乱状態にあったようです」


 少女の首を絞めていたペテロの部下が、淡々と俺へ言った。


 で、でも、今、明らかに俺に何かを伝えようとしていたような……。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 自分のために人を刺したメアに対してその程度にしか気遣えない主人公・・・
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