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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第七章 クゥドル神復活
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八話 破滅の魔術師ルイン①

 馬車で出発してから、早一週間近くが立っていた。

 現在俺とメアはエリアに頼み、ディンラート王国の最東側の海沿いを移動してもらっている最中である。


「お客さん……なんだか、凄いのがあるんだけど……」


 馬車の中で何度も大神宝典を読み返していた俺であったが、エリアからそう言われて馬車から顔を出し、進行方向の先を見た。

 先の方に、海上に浮かぶ、青い輝きを放つ謎の巨大建造物があった。

 俺は目を疑った。あんな建物がファージ領内にあるなど、聞いたこともなかった。


 俺はエリアさんに頼み、接近してもらうことにした。

 距離が縮めば、その近くに何人もの人が倒れているのが見え始めて来た。

 明らかに、ただごとではない。

 周辺の地が部分部分抉れているのが見える。よほど激しい戦闘があったらしい。


「これ……下手に近づかず、領主様に報告した方がいいんじゃ……」


 エリアが呟く。

 確かに……そっちの方がいいかもしれない。


 今はメアも連れている。

 メアを危険な目に遭わせるような真似はしたくない。

 前回は魔女の塔最奥部まで付き添わせることになったが、あれは事故の様なものである。ノーカンだ。 



「……そう、ですね」


 かなりの重傷者もいるようだが、恐らく、争った相手も近くに潜伏している。

 倒れている人間の身元もわからない以上、考えなしに接近するリスクを冒すわけにはいかない。

 倒れている連中も、何やら怪しげな格好をした集団……と、そこまで考えて、どこか見覚えのある格好であることに気が付いた。


「あ、ペテロさんの部下……! ってことは……」


 よく探せば、他の者より大仰なローブを纏っている、仮面で顔の上半分を隠している人物が目に入った。

 間違いない、ペテロだ。どうやら身体に杭を打ち込まれ、地面に固定されているようだった。

 細い痩せぎすの、やや骨ばった腕や脚を容赦なく杭が貫通している様は、見ていてあまりに痛ましい。


「む、惨い……どうしてあんなことを」


「……前会ったとき、アベル、あの人の耳とか弾き飛ばしてませんでした?」


 あれは事故だ。

 耳に爆発するピアスを付けている方が悪い。


「ペテロって……パルガス村に来ていた、教会の偉い人?」


 エリアが尋ねて来たので、俺は首肯した。


「ええ。実はちょっと気が合って、仲良くなったのですが……なんで、こんなところで、あんな目に遭っているのか……」


 恐らく、あの青の巨大建造物が関係しているのだろう。

 あんな建物がファージ領周辺にある、なんてことは聞いたことがない。

 あの位置は、大神宝典の記す座標の候補の一つとかなり近い。

 もしかすると大神宝典の示していた座標は、あの巨大建造物だったのかもしれない。


 見たところ、建造物そのものが精霊体から作られているようだ。

 明らかにただの建物ではない。クゥドル教絡みの何かだと見るべきだろう。


 ただの胡散臭い連中ならばともかく、顔見知りとあっては、放置して去るわけにはいかない。

 俺はエリアに頼み、巨大建造物へと接近してもらうことにした。


「すいません……いつも、危険なところへ付き添ってもらってしまって……」


 俺はエリアに頭を下げる。


「いいよ。お客さんは見てて飽きないし……ある意味、お客さんの近くが一番安全な気もするし……」


「そ、そうですか……?」


 謎の建物へと近づいている途中に、ペテロの近くにあった大岩の陰から、一人の少女が姿を現した。

 おかっぱの金髪で、目の下には深い隈ができていた。

 白いぶかぶかのローブを纏っており、背の方には赤色で天秤の影絵が描かれている。

 外見は幼いが、実年齢のほどはわからない。耳の先が尖っている。リノアと同じく、ノワール族だ。

 ノワール族は生涯を子供の姿で過ごすため、見かけからは年齢が判別できない。


 ペテロの部下と恰好が異なる上に、一人だけまったく怪我を負っていない。

 ペテロの近くにいて助けていなかったことからも、ペテロが逃げないように見張っているようであった。


 状況をはっきりさせるためには、こっちから動いた方がいいか。

 俺は馬車を止めてもらって地に降り立ち、ペテロへと叫んだ。


「ペテロさん!」


 ペテロが俺を見て顔を強張らせ、弱々しく口許を動かした。


「よりによって、な、なんであの子が……よ、弱り目に、祟り目……」


 ……ペ、ペテロさん?


 金髪のノワール族がちらりとペテロを見た後、すぐに俺の方へと向き直り、手にしている背丈よりも大きな杖を掲げる。


「……ルーペルは、外部の人間が来たら殺しておけと言っていた」


 小声でなにか呟いてから、精霊語での呪文の詠唱へと入る。


শিখা (炎よ) এই হাত(球を象れ)


 ノワール族の少女を中心に、大型の魔法陣が浮かび上がる。

 杖の延長線上に炎の球が現れ、それが際限なく膨れ上がっていく。

 あっという間に直径五メートルはあるであろう、巨大な炎にまで成長した。


 ペテロがそれを見上げて、悲鳴に近い声を上げる。


「そ、そんな……! こんな、魔導兵器級の魔術を、ほんの数秒で行使まで漕ぎつけるなんて、できるわけがないわ!」


「消えて」


 ノワール族の少女が杖を降ろすと、巨大な炎の塊が、俺と馬車へと目掛けて落ちて来る。


বাতাস(風よ)


 俺は杖を振るい、迫りくる豪炎を、最小限の規模で風で乱し、分散させた。

 炎の球は形を崩し、小さな火の粉が俺と馬車を避ける様に地面へ落ちていく。


 ノワール族の少女が、目を大きく見開いて俺を睨んだ。


「な、なんで……こんな……」


「デカいだけだな。まとまりも弱いし、魔術としてあまりに不完全だ」


 魔法陣も、炎球の魔法陣の基本形を無理に簡略化しようとて、必要な部分まで削ぎ落としている様な形になっていた。

 魔法陣を自分で作ってみたくて手を加えたが、途中で投げ出しましたといったような印象を受ける。

 大きな破綻はないため一応発動はするだろうが、わざわざ実戦で使うようなものではない。

 魔力の制御もはっきりってあまりにお粗末だ。


 魔力の規模自体は一般より多いのかもしれないが、それもさして利点といえるほどだとは思えない。

 俺が子供の頃には普通にあれ以上の規模で魔術を扱えた。

 とてもじゃないが、戦場に出ていいレベルの魔術師だとは思えない。

 ペテロを杭で動けなくしたのも、恐らく別の人間だろう。

 戦闘員ではなさそうだ。とすれば、彼女は何のためにここに残っていたのか……。



 ノワール族の少女は俺を観察する様にやや目を細め、杖の尾で地面を叩いた。


「マーレン族……そう、ディンラート王家が既に動いてたの。三割までって言われてたけど……仕方ないわね」


 ノワール族の少女は杖を地面に突き立てて手から離し、腕を伸ばす。

 そして角度を付けて揺らし、小柄の身体には似合わないゴツゴツとした魔鉱石の塊の様な腕輪を地面へと落とした。

 見たところ、アログア石をベースに錬成された、特殊な金属らしい。

 魔術の媒体というよりは、むしろ魔力干渉の妨害を目的として作られたようなものに見える。


「五割の力を出すことになるのは、訓練以外だと久し振り……」


 今までの淡々とした雰囲気から一転、ノワール族の少女の顔つきが変わった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] のわのわしてきた。 種族説明。 (既に出ている種族だけれど説明を覚えていなかったので助かる) (……説明が無かった気もするけどそれすら覚えていない) [気になる点] よくあるネタと言う者も…
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