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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第六章 魔女の塔と収集家
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とある集落の話9(sideジゼル)

 マーレン族アベル捜索隊の四名、ジゼル、シビィ、フィロ、リルは、アベルの情報を得て、ついにロマーヌの街を後にしていた。

 大人組はついに切られた。


 ジゼルは外に怯えて宿から一歩も動かない大人組を疎ましく思っていたが、いつか盛り返すはずだと信じ、待っていた。

 ジゼルの考え通り、大人組は生活品の購入のための必要と興味本位に駆られてちらほらと外出するようになり、だんだんと引きこもり体質の改善に向かっていた。

 そこまではよかった。

 ただ大人組達がジゼルに黙ってマーレン族、水の都ネフェルシアへの観光ツアーを画策していると知り、ついに我慢の限界に到達したのだ。


 水の都ネフェルシアは建物が独特の造りになっており、街中には多くの巨大な水路がある。

 かつては魔獣の侵入を妨げるためだったそうだが、今は魔力場も落ち着き、すっかりと平和になっている。

 さりとてそれが無駄になったということはなく、変わった街並みは人目を引き、街内を小舟で移動するという変わった体験もできるので、ここ十年でディンラート王国三大観光地に数えられるまでに急速な発展を遂げていた。

 近くに巨大湖があり、そこには水の都の守り神と呼ばれる魔獣、水竜ネフェルが出没するという。

 水竜ネフェルは非常に温厚であり、頭を触っても怒らないし、背中に乗れば湖の反対側まで運んでくれる。


 ジゼルがあれこれと思い悩みながら夜中に散歩をしていた最中、パンフレットを手に「可愛い」「楽しそう」「息子に自慢できる」と宿の裏側で騒いでいた大人組を偶然発見したのが露呈の原因である。


「ジゼルちゃん……まずいよ、帰ろうよ……。今頃向こうじゃ、大変なことになってるよ……俺達の稼いでたお金頼みだったのに……ゼレさんも絶対怒ってるよ」


「…………」


 ジゼルは魔導書シムを抱えながら、シビィからぷぃっと顔を背けた。

 兄の捜索を投げ出して水竜にうつつを抜かす父親に、ジゼルは割と本気で怒っていた。


「大丈夫ですって。だって、あれだけ動けてたのなら、その気になればお金だって稼げますもん」


 ジゼルの肩に凭れ掛かっていたリルが、肩にすりすりと頬ずりしながら言った。

 すっかり妹分になっていた。


「う~ん……どうだろなあ……でも……」


「そんなことより、シビィさん。兄様の行き先は、本当に確かなんですよね?」


 ジゼルが『誤情報だったらただじゃおきませんよ』という目でシビィを見る。


「そ、それは間違いないよ。何人もの冒険者が言ってたからね」


 四人の中で、一番外部と関わりが強いのはシビィである。

 ジゼルの活躍によって彼ら全員の名が上がったため、その際に勧誘されていい気になってあっちこっちへフラフラしていたので、ある程度顔が広くなったのだ。


「ヤマサンって名前の、色白の魔術師がいたんだって。ガストン事件と同時期にいなくなったらしいけど……闘技場観戦のためにロマーヌの冒険者がごっそりと王都へ向かったときがあったらしくて、そのときにそのまま別の街に移住していたみたい」


 それを聞いて、ジゼルは満足そうに息を吐き、魔導書シムを抱きしめる腕に力を入れる。

 冒険者支援所でアベルという名前の冒険者について調べてもらったときには何の成果も得られなかったので、ここの冒険者支援所には足を運ばなかったのではないかと考えていたのだが、ヤマサンはアベルが時折好んで使う謎の言葉である。

 ほぼ兄本人で間違いない。


 ガストン事件について、ジゼル達は特に知っているわけではない。

 ただロマーヌの街の住民達が時折その名前を口にするのだ。

 深く聞こうとすると、嫌そうな顔をするか、愛想笑いをして誤魔化される。

 街の隅に大量に廃棄されている『ガストン冒険記』や大量に叩き売りされている『ガストン饅頭』と何らかの関係があるようだが、それ以上のことは何もわからない。

 ただ、この街にとって忘れたい、陰鬱な事件だったのだということは察しがついていたため、下手に探るような真似は避けることにしていた。


「ようやく……ようやくこれで、兄様に会えます……」


 目的地へと向かう途中、食糧の補充と馬車移動の疲れを取るため、ロマーヌの街と目的地の中間地点にある、アッシムの街へと訪れていた。

 気分転換にとリルにせがまれ、ジゼルは彼女と共に市場を歩いていた。


 その際に、不審な連中を見かけた。

 一律に術式の様な記号が縁に掛かれた暗色のマントを羽織っており、背には長槍を背負っていた。

 全員頭部からは羊の様な二本の角が生えており、額には青い結晶石があった。


 人数は全体で十人ほどであった。

 頭目格らしい男を中心に、他の者達が膝を突いて頭を下げている。

 跪いている中の一人が、そのままの姿勢で口を開く。


「メレゼフ様、裏を取ってまいりました! 例の情報、間違いありませぬ!」


 ジゼルはメレゼフと呼ばれた男へと意識を向ける。

 四十前後ほどの歳に見えた。背が高く、体格がいい。


「ならばアッシムでの長居は不要だな。早々に赤石を追う準備を進めよ。恐らく、伯爵との交戦は避けられぬ。覚悟を決めておけ」


「はっ!」


 羊角の集団は周囲からは明らかに浮いており、周りも何事かと恐々と目を向けていた。

 メレゼフが目を細めて首を回す。一斉に全員が目を逸らした。

 ジゼルも思わず下を向いた。


「やはり我らの容貌は、人目を引くな……」


 やや落ち着かないように、タンタンと靴底で地面を叩き、舌打ちを鳴らす。

 それから指先で自身の角を撫でる。


「そのようで……」

「この国はノークスの比率が高いですから」


 人目を引くのは羊角よりも、彼らのあからさまに不審な格好と、妙に統一感のある動き、メレゼフの大声によるところが大きかったのだが、そこに意識は向かなかったようである。


「メレゼフ様……」


 黙っていた内の一人が、言い辛そうに口にする。


「どうしたデフネ、申せ」


「その、本当に、メア様を殺すのでしょうか? 例の話など、五百年も昔のおとぎ話でございましょう。それにメア様は、メレゼフ様の……」


 メレゼフがピクリと眉を動かし、次の瞬間、背の槍を手に構えてデフネの顔のすぐ横へと突いた。

 デフネと呼ばれた男の耳から血が流れ、デフネは頭を下げながら耳を押さえて呻いた。


 他の者は、それに対して特に動揺を見せない。

 微動だにせず、跪いたままである。


「次に赤石が私の娘だのと世迷言をほざけば、両の目を抉り取ってやろう。あんなものが私の娘だと? アレは、悪魔だ。やはり、生まれた日に殺しておくべきだったのだ。クゥドル教会の耳に入れば、我らは今度こそ滅ぼされることになろう。そうなる前に、我らの手で始末する」


 ジゼルはリルの手を引き、その場を去った。

 あまり関わり合いにならない方がよさそうな連中であることは疑いようがない。


「ジ、ジゼルお姉ちゃん……」


 リルが恐々とジゼルの顔を見つめる。


「……元よりそのつもりでしたが、この街は、早めに出ましょう。兄様が向かったのはあまり賑やかなところではないようですし……行き先が被ることはないでしょう」


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