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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第六章 魔女の塔と収集家
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四十九話 後日談

 魔女の塔の鏡世界から出てみれば、そこは一面の瓦礫の山であった。

 どうやら何かがきっかけで、鏡世界と魔女の塔が強引に繋がったらしく、そこに来て収集家が全力で放った自戒剣とリーヴァイの槍の衝突の余波が魔女の塔内にも漏れ、塔を崩壊させた様であった。


 塔崩壊後生き延びた魔獣は逃げ出してしまったらしく、しばしファージ領一帯は多種多様な魔獣の蔓延る魔境になることであろう。

 ラルクには本当に悪いことをしたと思っている。


 因みに番人オーテムと共に馬車の留守番をしていたエリアは、塔が目前で崩れたというのに、随分と落ち着いたものだった。

 曰く、『なんとなくそんな気はしてた』だそうだった。あまりにも信用がない。

 俺は泣きじゃくるアルタミアと、ぼうっと宙を見つめるばかりで何も言わなくなった収集家を、とりあえずパルガス村まで連れて行ってやって欲しいと頼んだ。

 エリアは何も聞かずに了承してくれた。頼もしい。


 パルガス村は辺境地であるファージ領の中でも更に僻地である。

 元々魔女の塔へ登る冒険者を支援するための村であり、魔女の塔が国から立ち入り禁止に認定された今では塔を見張る役割があるとされていたが、果たして魔女の塔が消え去ったパルガス村がどうなるのか、俺は聊か不安である。


 ラルクに勘付かれる前にアルタミアと協力して適当な塔を建て直すか、なんてふうに考えながらパルガス村へとゆったりと馬車の旅を続けていたのだが、道中で馬に乗ったラルクの私兵に囲まれた。

 先陣を切っていたのは、この世界では希少な黒髪の女剣士、私兵団の団長ユーリスである。


 私兵団は二十人ほどであったが、それとは別にバラバラの服装をした者達が各々の武器を手に俺を睨んでいる。


 ラルクはナルガルン騒動終結に伴い、一部を残して私兵団の大幅な縮小を行い、代わりに冒険者の優遇を進めていた。

 背後に控えているのは、その冒険者だろう。

 恐らく、臨時で募集したのだ。

 よくよく見れば、私兵団の鎧に合わせたデザインのローブを纏う、我が錬金術師団の副団長であるリノアもいる。


 そうそうたる面子ではないか。

 この軍勢にファージ領の主だった戦力をすべて投入している。

 またナルガルンの妹でもどこかに出没したのだろう。

 それか、いよいよ嫌がらせを繰り返してくるリーヴァラス王国へとこっちから攻め入るつもりなのかもしれない。

 ファージ領ががら空きすぎる気がするが、大丈夫なのだろうか。


 そんなことを考えていると、ユーリスが剣を引き抜いて地面へと放り投げ、武装を放棄する。

 そして俺が顔を出している馬車へと頭を垂れ、滑らかな動きで膝を突く。


「れっ、錬金術師団・団長アベル・ベレーク殿! 貴殿には、王国指定保護建造物の破壊、及び王国指定危険悪魔の封印解除、接触の嫌疑が掛かっております! そのことについて、話があると、ラルク様が仰っております! どうか……どうかっ! 大人しく同行してはもらえませんか! 私の命に誓って、決して悪いようには致しませんので!」


 声は震えていた。

 後ろに控えている私兵団と冒険者達へと、一気に緊張が走った。


 どうやら魔女の塔の崩壊を知ったラルクは、いち早く俺を領地へ呼び戻すために即席部隊の収集を始めたらしい。

 というより、薄々俺が魔女の塔で何かやらかすのではないかと頭を抱えていたラルクは、早々に万が一の場合の動き方を考え、手配の下準備を進めていたようだった。

 馬鹿でかい魔女の塔一つ消し飛んで、誰にも気づかれていないはずがなかったのだ。

 パルガス村でも海の方向から凄まじい光が放たれたと騒ぎになり、あっという間に魔女の塔消失事件はラルクの耳へとポーグ(伝書鳩)で伝えられたそうだった。


 暴れて刃向かう理由もなかったので、俺は穏便に私兵団に囲まれながらラルクの元へと向かうことになった。

 リーヴァラス国の侵攻から守った領民達から、腫れ物に触る様な扱いを受けながら護送される形になった。

 だが、俺は彼女達を恨まない。

 何が悪いか、きっとタイミングとか、収集家が悪かったのだ。俺はきっとそんなに悪くない。

 俺がちらりと収集家の方を見ると、収集家は馬車内の何もないスペースを見つめながら、「そうか……我が牢に収集される時が来たか……」と、意味のわからないことを供述していた。


「ア、アベル……これ、さすがにまずくないですか? ラルクさんが庇ってくれるとはいえ……」


「大丈夫だ。奥の手がある」


 俺は私兵に囲まれながら、ラルク邸にてラルクと面会することになった。

 ラルクは以前よりも少し痩せているようだった。……というより、やつれている?


「……ご苦労。よくアベル君を連れてきてくれた。もう、下がってくれて大丈夫だ」


「しっしかし、我々が出ては、いざというとき……」


「大丈夫だ。アベル君がその気になったら、君達がゴーレムで、ここが砦だったとしても、今と何ら変わりはない」


 ラルクの言葉を受け、私兵達がラルクと俺に頭を下げ、そそくさと逃げるように退室して行った。

 完全に目が脅えていた。俺を何だと思っているんだ。

 ラルクは私兵が完全に去ってから、ゆっくりと口を開く。


「アベル君、誤解がないように最初に言っておこう。私は極力君の身の安全と立場を守りたいと思っているし、王都に引き渡そうなんてことも考えていない。だから、後で聞かなかったことにするかどうかはゆっくり考えるから、とりあえずは本当のことを言ってほし……」


「大変ですラルクさん! 魔女の塔に、ハイエルフが現れました! ばかりか……ばかりか、あいつは、塔を破壊して魔女の封印を解き、そのまま魔女を連れ去ったようです!」


 俺はまったく悪びれる素振りを見せず、そう言い切った。

 言い切ってみせた。


「ハ、ハイエルフ!? ど、どうしてハイエルフが……」


「俺も戦ったのですが……どうやら相手は、ハイエルフの教会魔術師の中でも有数の実力者であったらしく、奴の凶行を止めることはできませんでした……」


「ア、アベル君でも止められなかったというのか……。い、いやしかし、ハイエルフがそんな、この地へ来るなんて……」


 俺はラルクへ詰め寄り、拳を握りしめて机を叩いた。


「あいつは、天空の国(アルフヘイム)がこのディンラート王国へと攻め込むと笑っていました! 魔女を引き込もうと目論んだのも、彼女の錬金術の能力を見込み、戦争利用するためだと……。至急、王都への連絡をお願いします!」


 ここだけ切り取っていえば本当の事である。

 デヴィンが確か、そんなことを口にしていたはずだ。

 あんまり覚えていないし、デヴィンが百人来てもさして怖くないので割とどうでもいい気がしていたが、王族へ連絡した方がいいには違いない。


 俺が下手に塔崩壊に関わっただの、アルタミアを連れてきちゃっただの口にすれば、この情報の信憑性を引き下げることになってしまう。

 この王国の存亡が掛かっているのだ。

 このくらいの嘘は仕方ない。

 俺は何も保身のためだけにこう言っているわけではないのだ。

 それに、デヴィンならばいくら罪をおっ被せようが全然良心も傷まない。


「……て、適当に私を言いくるめておこうとか、考えていないか? 君は塔の崩壊と無関係だと? それは、本当の事なのか……?」


 ラルクが恐る恐ると尋ねてくる。

 俺は持ってきていた包みを開き、中のものを取り出した。


「……これを、王都へ」


「こ、これは……!」


「俺が奴との死闘の末に、どうにか奪うことに成功したものです。こっちは……奴の使った、霊薬の入っていた杯です。見る人が見れば、天空の国(アルフヘイム)のものだとわかるはずです」


 俺はアムリタの入ってた杯と、デヴィンの法衣をラルクへと差し出した。

 収集家はアムリタを飲んだ後に杯を捨てていたため、これだけはカオスに呑まれずに済んだのだ。

 俺を端っから疑っていたラルクも、さすがに信じたようだった。


 法衣を持っていかれるのは別段問題ない。

 冷静になってみれば、重いし、ゴテゴテしててなんかダサイ。

 布の生地は確かに貴重なものだったので少し袖を切り取り、ローブについていた魔鉱石や魔宝石もいくらか剥がしてある。

 激闘の末に手に入れたものだから、多少欠けていてもおかしくはないだろう。

 ありがとうデヴィン、髪の先から靴の底まで嫌いな奴だったが、今初めて少しだけ好きになれた気がする。


「そ、そんな……。リーヴァラス国に続き、なぜ天空の国(アルフヘイム)までもが……。ガルシャード王国にも不穏な動きがあると噂なのに……これでは、五大神国の内、三つがディンラート王国を狙っていることになる……」


「えっ……」


 ガルジャード王国に関しては、初めて聞いた……。

 随分物騒な世界な割には平和な国の平和な時代に生まれたもんだと感謝していたが、どうやらそれも、仮初めのものだったのかもしれない。

 なぜ揃いも揃ってと思うが、確かにかの国達には、ディンラート王国を恨む十分な理由がある。

 リーヴァラス国、天空の国(アルフヘイム)、ガルシャード王国……この三国の神は、すべてディンラート王国が崇めるクゥドル神に神話時代に滅ぼされたとされている。


 これまで内部で争ってばかりだったリーヴァラス国がリーヴァイの復活を機にディンラート王国へ目を向けるのはわかるが、ディンラート王国とガルシャード王国は、表向きとはいえそれなりに友好的に接してきていたはずだ。

 天空の国(アルフヘイム)も今までディンラート王国には関心自体見せていなかったはずなのに、なぜ今になって一万年の時を経て、三国が同時に不穏な動きを見せ始めたのか。

 リーヴァラス国とガルシャード王国が組むのはまだ理解できるが、天空の国(アルフヘイム)の民である自尊心の塊(ハイエルフ)がそんなところに加わるとはあまり考えづらい。


 どうにも、不穏なものを感じる。


「何か……あるんですかね。三国が動いた、同じ理由が」


 俺は意識して真剣な顔を作りながら言い、内心ではひとまずはラルクを言いくるめられたことに安堵していた。

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