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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第六章 魔女の塔と収集家
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四十三話 『収集家』⑭

 ……さすがにそろそろ、降参するか?

 収集家からようやく戦う意思が失せて来たように思う。

 巨鞭連打は相当に堪えたはずだ。


 十三打目を打ち終えたら一回止めてみようかと考えていると、床の罅に囚われていたはずの収集家が、これまでとは全く異なる動きを見せた。

 いや、動作が、見えなかった。

 いつの間にか罅から脱しており、巨鞭に対して真正面に立っていた。


 そして今までを遥かに超える速度で大剣を振るい、巨鞭を受け止めたのだ。

 収集家は姿勢を低くし、衝撃に耐える。完全に受けきった。


 巨鞭の圧倒的な破壊力は、魔女の塔最上階の床に一直線の傷跡を残したが、収集家の立っている場所だけは、収集家が受け止めた反動で、足の跡が深く残っているばかりである。


「あ、あれ……?」


 急に力が強まったのか?

 さっきまでは全く対応できていなかったはずだったのに……と考えていると、巨漢だったはずの収集家の身体が、わずかに縮んでいる。


「幾多もの伝説が朽ち果てようとも、貴様は我が手に残るか、『打ち砕く右の王コロムイシュケイダ・レイ』よ」


 その声は、聞いたことがないものだった。

 低めではあるが、しゃがれてはいない。

 収集家は今までぴったりサイズであったはずの外套をやや持て余し気味に振るい、顔に纏わりつく緩んだ包帯を面倒そうに引き千切った。


「仕方あるまい……こんな使い方をするつもりはなかったのだが、延命を重ねた死人同然の我が老体では、貴様には及ばんかったらしい。考え難い事であるし、同時に認めがたい事でもあったが……どうにも、事実だったようだ」


 破られた包帯の奥から、残忍な光を灯した大きな相貌が覗く。

 額を中心に魔法陣が刻まれており、その術式の一部がちょうど目に重なり、両目の上から縦にメイクが施されているかのようだ。


 皮膚も、これまで時折覗かせていた灰色のアンデッドを連想させる死者の皮の継ぎ接ぎの様なものから、白く、きめ細かい肌へと変化している。

 どこか狂気的な部分はあるものの、これまでとは打って変わった青年の姿へと変貌した。


 収集家は煩わしそうに外套を素手で破り、身体へと強引に巻き直す。

 頭を覆っていた部分が外れると、艶のある紫紺と白の、左右別の色に分かれた長い髪が、ふぁさりと靡く。

 身長は190センチメートル近くから、180センチメートル程度にまで下がっている。


「わ、若返った……? まさか……」


「素晴らしい! しっくりとくるぞ! フハハハハハ! 永き眠りから目が覚めたような気分だ! これで全盛期の、完全な力で戦うことができる。」


 全く別の人間と入れ替わったのかとも考えたが、そういうわけではなさそうだ。

 あの独特な威圧感のある目は、間違いなく包帯の奥からこちらを睨んでいた収集家のものだ。


「我は一杯のアムリタで、三百年の延命に成功したが……まさか、こんなところで、一日にしてまるまる一杯消化することになろうとはな。せっかく三杯のアムリタを手にしたというのに、残りはたったの一杯となってしまった。おかげで、三百年分、我の寿命が縮んだわい。しかし、すがすがしい気分だ。礼を言うぞ、アベル」


 も、もったいねぇ!?

 本当に何をやっているんだ、あの人は。

 国宝を奪われた挙句その場のノリで一気呑みされたと知れば、ハイエルフ共が怒り狂うぞ。



 長く伸びた髪は、アムリタの副次的な作用だろう。

 床に付きそうなほどにだらりと長い髪は、アムリタの力によって付加された、溢れんばかりの生命力の結果だと考えられる。


 だが疑問なのは、なぜわざわざアムリタを投げ捨てるような真似までして、俺との勝負を強行したのか、だ。

 はっきり言って、この戦いにもこの報酬にも、アムリタ一杯に勝る価値があるとは到底思えない。

 『暴食竜の道具袋』だって、俺に譲るわけではなく、あくまで錬金実験に付き添うという約束に過ぎないのだ。


「我が世を飽いたと言ったのは、あながち貴様を乗せるための方便のみではない。慰めに世界中の魔法具を集めては見たが、集めたものを使う機会もない! どれほどの財宝、魔法具を手に入れようが、達成感の後、我に返れば残る感情は虚しさであった。それは重ねれば重ねるほどに強くなる。何のために我は宝具を集めるのか? 何のために我は、人の身に余る生を得て、永きに渡る時を生き続けてきたのか! 何度自問自答したことか! そんなもの、過ぎた力を手にしてしまった我には、あるはずもないのに! それに気づかない振りをして、ただひたすらに物を集め、永遠に埋まらぬ『暴食竜の道具袋』を満たすことに必死になっておった! やがては『収集家』というありふれた言葉が、ただ我一人を示す名になるほどまでにな!」


 収集家はそう吠えて、大剣を床に突き立てる。

 大きな音を立てて大剣は床に突き刺さり、部屋全体を揺らした。

 収集家は大剣から手を放し、嘆くように長い髪を掻き毟る。


「だがっ! ようやく我は、溜め続けた魔法具の使い道を見出した! アベル! 我は、これまでに集め続け宝具の力を以て、貴様を殺す! そうして我は我の生き様が、無為でなかったことを実感することができるのだ! 貴様は、なんと素晴らしきことか! ここで貴様と出会えた幸運を、我は忘れはせんだろう! 永遠にな!」


 収集家は大きな口を裂けんばかりに広がらせ、両手を天井へと掲げた。


 あの人……一人で、何盛り上がってるんだ?


 収集家は破顔から一転、剣呑な顔つきに戻り、アルタミアを睨みつける。


「おい魔女よ。ここでは、我とアベルの決着には狭すぎる。もっと広く、頑丈な空間を提供せよ。我と、アベルのためにな」


 アルタミアは脅えたようにびくりと肩を震わせたが、安堵した様に硬い表情をやや緩めた。


「よ、よかった……これ以上、壊されずに済む……」


 どうやら他に当てはあったらしい。

 ……成り行きで人の家で大暴れしてしまったのが申し訳ない。

 アルタミアも、止めるに止められなかったはずだ。

 下手に機嫌を損ねれば、収集家の矛先が自分に向きかねないと考えていたのだろう。


「さぁ、最終ラウンドを始めようではないかアベルよ」


「塔を気にしなくていいのは助かりますね。アムリタも、まだ残ってるみたいですし……」


 アルタミアが、驚愕の目で俺を見る。


「……気にしてたの? 本当に?」


 できればアムリタの浪費は、次の収集家の蘇生で最後の一口にしたいところだ。

 俺の手に渡るものではないとはいえ、あまりに勿体なさすぎる。

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