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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第六章 魔女の塔と収集家
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四十話 『収集家』⑪

 収集家は握りしめた短剣を、俺目掛けて突き出した。


「ハァッ!」


 剣の刃部分が、恐ろしい速さで俺を目掛けて射出された。

 軌道を逸らすのは簡単だが、ただの刃の投擲武器だとは限らない。


মাটি(土よ) ড্রা হাত(竜を象れ)


 念のため、瓦礫の竜で防ぐことにした。

 床が割れ、その残骸が次々に宙へと浮かび上がっていく。

 先程同様に、全長数十メートルの竜が現れる。


 竜の身体に、深々と射出された刃が突き刺さった。

 刃と収集家の間に、長い鎖が張られていた。刃の後端から柄へと続いているようだった。


「チッ! 面倒な真似を!」


 収集家の身体が、鎖に引き寄せられるように一気に竜へと飛んでいく。

 瓦礫の竜が、一直線に飛んでくる収集家目掛けて腕を振るう。

 収集家は短剣の柄から手を放して軌道を変え、竜の爪を回避しながら剣を振るう。

 瓦礫の竜の手首が、落ちた。

 そのまま竜の胸部を突き刺し、引き抜きながら蹴って宙へと飛ぶ。

 瓦礫の竜が収集家の退避に遅れて暴れてもがき、綺麗に首を差し出す格好になった。

 収集家が両手で振るった大剣が、瓦礫の竜の首を撥ね飛ばした。


「あっ……」


 さっきの『地響きの剣』だと、せいぜい瓦礫の竜を押し返すのが限度はずだった。

 あの大剣――『打ち砕く右の王コロムイシュケイダ・レイ』といったか。

 確かに、格の違う宝剣のようだ。


 収集家が、落ちた瓦礫の竜の頭部の上に立つ。


「残念だったな。もう貴様お得意の、お手製ドラゴンも、もう通用せん。元より我は、三体の巨竜を同時に屠ったことがある。魔力を溝に捨てたな、アベル。既に勝敗は決した。最初からある武器を使える我と……手持ち以外はその場で造っていかねばならん貴様。最初から、貴様は魔力不足を警戒するべきだったというのに……大した魔術の腕ではあったが、経験の差が出たな。まぁ、節約しておろうが、貴様の敗北が早まっただけだったかもしれぬが」


 収集家が、淡々と述べる。


「様子見は、このくらいでいいか」


「……は?」


 俺は、適度に魔術をぶつけても収集家が起き上がってくれるので楽しくはあったが、これ以上規模が膨れ上がるとメアに流れ弾が当たりかねない。

 それにさっきの短剣で、『暴食竜の道具袋』込みでの収集家の底も見えた。

 牽制を続ける意味もない。


 さきほど収集家は、激昂を露わにしながらもあの短剣で距離を詰めて来た。

 『距離を取れば安全だと思ったか?』と言ったばかりであったにも拘わらず、である。

 ああ吠えながらも、遠距離では相手に分があると、収集家は冷静にそう判断していたのだ。

 俺の反射装甲付与のヒディム・マギメタルを突破する術が、この距離間では手持ちになかったのだろう。


 『暴食竜の道具袋』は手札と手数がいくらでも用意できる上に、カードが相手に悟られないのが最大の強みだろうと俺は考えていたが……さっきまでで、手札も手数も朧気ながら見えて来た。


মাটি(土よ) ড্রা হাত(竜を象れ)


「まだ使えたのか。しかし、それは通用せぬと……む?」


 収集家を囲むように、五体の瓦礫の竜が姿を現した。

 構築されていく竜の巨体に、収集家の姿が見えなくなっていく。


「なぜ……なぜ、なぜ!?」


「三体までしか、相手にしたことないんでしたっけ」


「馬鹿なッ! あり得ぬ……あり得ぬ! こんなッ! あるはずがないだろうが! なぜっ……! 我は、我は伝説の冒険者、収集家であるぞ! こんな生まれて二十と経たぬ、矮小なオーラの小僧如きに……!」


 収集家が泣き言を言い終えるのを待たずして、五体の瓦礫の竜が収集家へと一斉に襲い掛かる。

 丸まった竜の背に、収集家が飛び乗るのが見えた。

 息を荒げている。

 収集家の限界はここまでだとはっきりわかった瞬間であった。

 後はこれ以上下手に宝具を壊さないように、穏便に倒すか降参を引き出すだけだ。


 竜の背にいる収集家を、他の竜が噛み潰そうと大口を開けて迫っていく。

 収集家はそれを大剣で弾き、逆から襲い掛かってくる竜の頭を素早く叩き潰す。

 それから俺を振り返って睨んだ。


「貴様、何者……!」


「俺を見てる余裕あるんですか?」


「ぐっ……!」


 収集家がまた短剣を取り出し、他の竜の背へと移って攻撃を回避しながら、一体の竜の首を落とした。

 あの武器……地味だけど、意外と使えそうだな。

 俺が使うと腕が捥げるだろうが。


বহন(運べ)


 俺は手を挙げて、ラピデス・ソードの柄を手元へと戻す。


「『グジャルナ悪鬼の顔石』!」


 収集家が竜へと手を翳す。

 現れた巨大な石の円盤が竜の猛攻を防ぐ。


 円盤には恐ろしい鬼の顔が彫り込まれている。

 表情こそ違えど、前世で見た『真実の口』に似ていた。


 収集家が手を降ろすと、顔石がすぅっと消滅する。

 ガクンと落ちて来た瓦礫の竜の胸元目掛けて、収集家が刺突の斬撃を放つ。


「ハアアアアッ!」


 瓦礫の竜の胸元に、剣の形の穴が空いた。

 瓦礫の竜が背を丸める。


「これで、三体目……!」


 俺は魔力を練って刃を造り直してから、収集家のがら空きの背へと目掛けてラピデス・ソードを放った。


 収集家が、青褪めた顔で振り返る。


「貴様ッ! 自分を見ている場合ではないと今言ったばかりではないかァッ!」


 収集家が吠える。


「え、そんなこと……」


 俺の頭に、ついさっきの光景が蘇った。


 『俺を見てる余裕あるんですか?』


「あった……」


「この卑怯者がぁぁああッ!!」


 収集家がラピデス・ソードへと剣を振り下ろす。

 その背を目掛け、二体の瓦礫の竜の爪が容赦なく振り下ろされた。

 収集家は仕留めた瓦礫の竜の一体の上に乗っていたのだが、その上から弾き落とされ、おまけに腹部をラピデス・ソードが貫通した。

 収集家が血を吐きながら床へと落下して行く。

 そこを、もう一体の瓦礫の竜が顎で打ち付けようとした。


「『グジャルナ悪鬼の顔石』……!」


 収集家が叫ぶと、竜と収集家の間に先ほどの石円盤が現れ、竜の顎を塞いだ。

 だが竜の一撃を受けた石円盤は勢いよく落下し、収集家の身体と衝突した。


「あっ……」


 勢いよく『グジャルナ悪鬼の顔石』が地面に叩きつけられた。

 収集家を、下敷きにしたまま……。

 ぐちゃりと、明らかに人一人分の質量を持つ肉の押しつぶされる音が、酷く耳障りに響いた。

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