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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第六章 魔女の塔と収集家
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三十八話 『収集家』⑨

 収集家の意図が掴めない。

 あまりにも急に素振りが変わりすぎている。

 俺は不穏に感じて、一歩退いた。


「いやはや……これは、我が本気で戦おうとも、貴様に敵うかどうかは怪しいところよ。まさか、世にこんな者が存在しておるとは、我も己の見識の狭さを嘆くとともに、とうに飽いたと思っていた現世に、一筋の光脈を見た思いである」


「は、はぁ……?」


 俺が戸惑っていると、アルタミアが前に出た。


「……しつこいわよ。往生際が悪いんじゃないの。伝説の冒険者ともあろう人物が」


 どうやらアルタミアは収集家の意図が掴めているようだった。

 俺は説明を求めてアルタミアの方へと視線を投げる。


「いや、我は、気が変わったのだ。アベル、マーレンの魔術師アベルよ。貴様の偉大な魔力に敬意を示し、この我の『暴食竜の道具袋』に関する錬金実験……協力してやっても構わぬ」


「ほ、本当ですかぁッ!?」


 俺は前を遮るアルタミアを押し退け、収集家へと顔を近づける。

 収集家は一瞬俺に気圧されたように身を退いたが、すぐ前のめり出て俺と顔を突き合わせた。


「うむ、うむ、そうだ! だが、貴様が本当にそれに足る人物なのかどうか、今一度、試させてもらいたい。そう……こんなつまらぬ枷を抜きにして、一度対等に戦ってもらいたい」


 言うなり収集家は手を振るい、折れた『地響きの剣』を手元に取り出し、それを左右に揺らした。


「もしも我の期待に添わぬようであれば……そうだな、そんな者には大神宝典は預けておけんから返してもらうし、あの木偶人形と破壊の杖も当初の約束通り我がいただく。そして貴様の取り出したあの変幻自在の剣も、我のものにする。この我、収集家の一番の宝を賭けるのだから、それくらいはもらわんとな……」


「大神宝典と、世界樹のオーテムと、破壊の杖と、ラピデス・ソードを……」


 こ、この四つを、オールベットか……。

 いや、そもそも、三つめは持っていないどころか、見たこともないのだが。


「いや、そう重く考えることはない! 貴様の魔力ならば、我が何をどう用いようが、意味のないことであろう。これは我の、やがて伝説に名を残すであろう魔術師へのささやかなプレゼント……その代わりに、ほんの少し、この我の我が儘に付き合ってほしいというだけのことである。言うならば、我が自分を納得させるための、通過儀礼のようなもの!」


 収集家は目に優し気な笑みを浮かべつつ、折れた『地響きの剣』を手の中で遊ばせつつ、逆の手をこねこねと動かしている。


「そ、そんな……大袈裟ですよ……」


 伝説に名を残す魔術師と言われ、つい照れ笑いが出て、俺は頭を掻いて誤魔化す。

 ここまで言ってくれているのだ、断る理由はない。

 それにさっきの勝負で、収集家の限界は見えた。

 事実、収集家が何をどう使おうが、さほど危機に陥るとは思えない。


「過分な評価だとは思いますが、もちろんそのお話には乗りましょう! 収集家さんを失望させないよう、精一杯尽力させてもらいま……」


「おっ、抑えて! アベル、抑えてください!」


 メアが荷物を投げ出して、俺の両腕を背後から肘で押さえる。

 投げ出された大神宝典が、荷物袋の上で軽くバウンドした。

 収集家の眼光が鋭くそれを咎めたが、俺が収集家の顔を見ると、すぐさま目つきを元に戻した。


「罠だから! これ、誰がどう考えても罠だから!」


 アルタミアも、必死の形相で俺を引き留める。


「……了承してもらえたようで、嬉しいぞアベル」


 言うなり収集家は、手の中で遊ばせていた『地響きの剣』の柄を、握り潰した。

 残骸が辺りに舞う。

 収集家は失った『地響きの剣』の代わりに、いつの間にか握られていた巨大な剣を天井へと掲げる。


「と、取り消しときなさい! アンタがさっきまで戦ってた相手が人間なら、ここから先は神話級の魔法具自体を相手取る必要があるのよ! 全然違うの! それくらいわかるでしょ!?」


「いや、俺を試すだけって……」


「大嘘に決まってるでしょそんなの!? 宝典の惜しさに喰らい付いてきただけよ! 手数も手札も掴む余地がないのに、こんなもの、勝負でもなんでもな……」


「貴様……先ほどから煩いぞ。とうに身体を失くした亡霊如きが!」


 収集家が腕を大きく振るい、アルタミアを弾き飛ばす。

 アルタミアの身体が容易く跳び、数メートル離れた地面に背から勢いよく叩きつけられた。


「キャァッ!」


「アルタミアさん!? ちょ、ちょっと、何やって……」


「せっかくの機会だ、宝具を派手に試し打ちさせてもらうとしようか! 今日は素晴らしい日である! コレクションが三つも増えた上に、手応えのある的で、我が宝具の素晴らしさを実感することができるのだからな! 集めるばかりの日々に、飽いていたところよ! フハハハハハハ!」


 収集家がごきりと首を鳴らし、哄笑を上げる。


「しゅ、収集家さん……?」


「約束は守ろう! それが、我の流儀だ! フハハハ! 貴様は到底タフには見えぬが……さて、どこまで食い下がるのか、楽しみである! まさか、さっきのでバテたなどとは言わんだろうなぁ……?」


 収集家が、自身の身長以上の巨大な剣を俺へと向ける。


「適当に遊んでやる。せいぜい死力を尽くして抗って見せよ! この我と戦うことは、幾多もの神話と対峙することにも等しいのだと教えてやろう! 貴様が如何に魔力に優れていようとも、我がコレクションの前では無意味であると! だが、この我を、本気にさせたのだ。あっさりと終ってくれるではないぞ」

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