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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第六章 魔女の塔と収集家
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三十一話 『収集家』②

 暴食竜フィフニーグというのは、伝承にのみ登場する魔獣である。

 フィフニーグは、胃の横にいくらでも食糧を収集できる特殊な臓器が存在しており、その力を用いて国一つを喰い滅ぼしたこともあったと言い伝えられている。


 フィフニーグの死後、ある錬金術師がその臓器の皮を用いて、試行錯誤の末に、無限に物の収容できる道具袋を五つ造った。

 それを廻って国々の間で戦乱が起き、暴食竜の道具袋は戦禍の火種とされた。

 しかし暴食竜の道具袋は如何なる魔術を用いても破壊することができず、五つの内の四つは誰の手も届かないところに棄て去られ、最後の一つも行方知らずになってしまった。

 遠い、もう千年以上も前の話である。


 ――何の因果なのか、どこで見つけて来たのか、その最後の暴食竜の道具袋を、収集家が持っている、という話があった。

 正直、俺も眉唾物かもしれないと思っていた。

 しかし、今のを見て、精霊の動きを感知して、確信した。


「持ってるんですね! 暴食竜の道具袋!」


 俺の様子を呆気に取られたように見守っていたアルタミアが、大慌てで俺と収集家の間へと割り込んできた。


「ちょ、ちょっとアンタ、何考えてるのよ!? 人がせっかく……」


「……ほう。今のが暴食竜の力だと、よく気が付いたな。まったく、どいつもこいつも、名前だけ知って、我が布袋から取り出すのだろうと勝手に思い込んでおるから困るわい」


 収集家の口許の包帯が、わずかに持ち上がった。


「ど、どこに! どこにあるんですか! み、見せてもらっちゃダメですか!?」


「フフン、絶対に手放すわけにはいかんのでな。他の魔法具の力で我の身体に馴染ませ、強引に同化させておる。我のここの皮膚として、貼り付けてあるのだ。別に、袋としての体裁を保つ意味はないのでな」


 収集家が得意げに剣を持っていない方の手の指で、自身の胸部を示し、とんとんと小突く。


「か、身体にど、同化させたんですか? は、端っこ! 端っこだけでいいからもらえませんか!」


「ハンッ! 面白いことを言う奴だな! 大昔の魔術師が破壊できず、異次元の彼方へと廃棄するしかなかった、暴食竜の魔臓器であるぞ? そもそも、内部には複雑な異次元が展開されておる。千切れるようなものではないわ!」


「できたらいいんですか? 昔の錬金術師が加工できたんですから、何かやりようはあるはずですよ! ちょっ、ちょっと試させてください! 破壊の杖でもなんでも渡しますから!」


「ア、アベルッ!? ちょ、ちょっと、何勝手なこと言ってるんですか? メア、ちょっとそれはまずいと思いますよ!?」


 メアが後ろから俺の両手を押さえて後ろに引き、俺を収集家から引き離そうとする。


「メ、メア! 放してくれ! 俺の長年の夢が叶いそうなんだ!」


「冷静になってくださいアベル! お願いですから! うわ、こんなときだけ力強い!?」


 収集家が巨大な剣を地面に突き刺し、首を振った。


「ハッ! 駄目だ駄目だ! 駄目に決まっておろうが! 暴食竜の道具袋は、我の心臓を守る役割もあるのだぞ? そんな大事なものを、貴様の様なガキにおいそれと触らせるものか! 我が宝が穢れるわい!」


 収集家は鼻息を漏らしながら、得意気にそう言った。


 暴食竜の道具袋の頑丈さを利用して、胸部に貼り付けることで心臓を守っているらしかった。

 ならば、人にあまり触らせたくないというのも仕方がない。

 だが、どうしても諦めきれない。


 無限になんでも保管できて、いつでも取り出せる。まさに理想の魔法具である。

 制約が多く、準備にワンアクションを要する上に魔力消耗の激しい転移の魔術とは大違いだ。

 その利便性を求めて、戦争が起こるというのも当然だろう。


 俺だって昔にその存在を知ったときには、何としてでも手に入れたいと考えたものだ。

 だが、縁のないものだと、おとぎ話の世界だと、諦めていた。それが、すぐそこにあるのだ。

 ここで諦めて引き下がれという方が酷だろう。


「お願いします! 駄目だったら、見るだけ! ちょっと見るだけでもいいんで! ちょっとだけその外套脱いで、見せてください! なんなら触らせてください!」


「……ハァ? 貴様、誰に口を聞いておるのか、わかっておるのか?」


 包帯の隙間から覗く収集家の目が、怪訝に歪められる。

 メアが、俺の身体を押さえつける力を強めた。


「ごめんなさい! アベル、ちょっと興奮するとよくわからないことを口走ることがあるんです! ごめんなさい! 代わりにメアがいくらでも謝りますから、許してあげてください!」


「止めないでくれメア! だ、だって、暴食竜の道具袋が、すぐそこに……!」


 俺は手を収集家へと伸ばしながら、必死にもがく。


「本当にこんなときだけ力強い! なんで!? アルタミアさん! アベル押さえるの、手伝ってください!」


 収集家は俺をしばし物珍しそうに眺めていたが、ふと思いついたように手を上げた。

 地面に突きたてられていた巨大な剣が、急に跡形もなく消え失せた。


「あっ!」


 俺は驚きの声を上げた。

 精霊の動きを感知するのに集中するため、身体の動きを止めた。

 メアが安堵した様に息を吐く。


 かと思えば、次の瞬間には、再び同じ位置に元通りになっていた。

 どの瞬間に現れたのか、いまいち掴み切れない。

 俺は再び、メアを振り払おうともがいた。


「もうちょっと! もうちょっと近くから見たいだけだから!」


 収集家が、得意気に鼻を鳴らす。


「も、もう一回! もう一回お願いします!」


 俺がメアを引き離そうと必死にもがく様を見て、収集家は声を上げて笑った。


「フハハハハ! 貴様、オーラは凡俗だが、面白い奴だな。塔を登っているときは、どうやって殺してやるか悩んでいたことだが、気に入ったぞ。おい、そこの石無しの小娘、そのアベルとやらを放してやれ。安心せよ、我への多少の無礼は見逃してやろう」

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