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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第六章 魔女の塔と収集家
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二十七話 魔女アルタミア③

「……王家、まったく関係ないの……?」


 アルタミアが、驚愕の顔で俺を見る。

 頬が引き攣り、左の眉間がひくついている。


「え……な、何しに来たのよ? なんで塔壊したのよ? 嫌がらせ?」


「い、いや、勢い余って……なんか、すいませんでした」


 思いの外アルタミアが無害そうだったため、俺はアルタミアが気絶している間に彼女の身体を囲んだ魔法陣を床に描いて結界を作って出れなくした上で、対話を試みていた。


 どうやら話を聞くに、アルタミアは元々精霊化した際に人目に付くわけにいかなくなったため、弟子を連れて人里離れた山奥で研究を行っていたそうだった。

 それがディンラート王国周辺にアポカリプスが出没した際に、元々関わりのあったクゥドル教会の要人であるペルテール卿に頼み込まれてアポカリプスを封印する結界としてこの塔を建造するために腰を上げたのが発端となって、結果として王家から目を付けられる羽目に陥ってしまったそうだった。


 そう聞けば悲劇の人物と思えなくもないのだが、人体の精霊化や死者の蘇生を筆頭とした禁魔術の研究、他国との同盟で禁じられていたコロッサスの設計、更にはアポカリプスを飼い慣らそうとした下心から国からの出資金を使って塔の結界に手心を加えていたことが発覚したのが原因だと聞くと、さすがの俺もちょっと擁護できそうにない。気持ちはわからないわけではないのだが。

 国としては、放置していれば他国との戦争の引き金になりかねない存在である。


 結局ペルテール卿の根回しと仲裁のおかげで、王国魔術師団がアポカリプス諸共アルタミアを塔に封印したという建前にすることで事件は落ち着いたのだという。

 アルタミア自身は元々錬金狂だったため、塔に引きこもってあれこれと研究を行っているのは苦ではなかったようだ。


「……てっきりペルテール卿の影響力がなくなって、王家がいつ暴走するかわからない私を始末してきたのかと思ったのに」


 アルタミアが指で両瞼を押さえながら、深く溜め息を吐く。


「いや、珍しい魔獣がいっぱいいるって聞いてたから……探索っていうか、観光に……」


 アルタミアががっくりと両手を床に着けた。


 因みに、ペルテールの名前は俺でも知っている。

 クゥドル教会のトップだったペルテール元教皇である。

 世代が一つ前の人なのでとっくに死んでいるだろうし、俺はせいぜい絵画を見たことがある程度だが。

 時系列的には、アルタミアが封印されてから十年後に教皇になったことになる。


「道理で封印されてるにしては、自在に塔に影響及ぼしていたみたいだとは思ってたけど……」


 この塔自体、アルタミアが魔獣を育てているただの動物園と化していたようだった。

 封印術式といい、妙に内装が凝っていたところといい、疑問が多かったのだが、これで大方の疑問も片付いた。


「結構頑張ってたでしょう? 二階層の星空の見える崖とか、五階層の魔鉱石の洞窟とか。ヨルムンガンドが偏食家だから、育てるの大変だったのよ。全部誰かさんに壊されたみたいだけど」


 アルタミアがやや投げやりに口にする。

 悪いがアルタミア御自慢の二階層は、入ったときにはアベル球の余波で廃墟になっていた。


「そ、そうだな! 星空の見える崖とか、き、綺麗だったよな、メア!」


「そ、そこでメアに振らないでください! ダメです! メア、こういうの顔に出ちゃう方なんです!」


「……だいたいわかったから、もういいわよ」


 しかし、どうしたものか。

 アルタミアの塔は穴ボコになってしまった。


 王家でアルタミアの話がどう伝わっているのかさっぱりわからないが、内部での引き継ぎによっては、塔が崩れたことでアルタミアの封印が解けたと見なして、アルタミア討伐のための魔術師団を送ってきかねない。

 そもそも俺がラルクに怒られる。

 忠告を勝手に捻じ曲げて塔に侵入した挙句、叩き壊して王家と不仲になる悪因を作ったとすれば、せっかくコツコツ築き上げてきた信頼が全部飛んでいきかねない。


 というより、ファージ男爵家は魔女の塔の監視が王家から任された役割の一つであった、という節があるようだった。

 下手すれば、ラルクの首が二つの意味で飛びかねない。

 俺もタダでは済まないだろう。


「こうなった以上、ラルクさんを説得して本格的にファージ領に砦を作って徹底抗戦するしか……」


「メ、メアは、アベルがどうなっても付いていきますからね!」


「メア……!」


 アルタミアは俺とメアのやりとりを見て、苛立ったように自分のこめかみを指でぐりぐりと押す。


「……私が適当に修復しとくから、アンタ達はもう、余計なことしないで。騒ぎになる前に取り掛かりたいから、敵意がないのならこの結界解いて、もう帰って」


 アルタミアがとんとんと足の裏で、俺が床に描いた魔法陣を踏んだ。


「何か手伝うことがあるんなら……」


「帰って」


「あ、はい。とても助かります」


 今は相当お疲れのようだった。

 俺は魔法陣を消して結界を解除した後、ふと引っ掛かったことがあって尋ねた。


「コロッサスの残骸、ちょっともらっても……?」


「……コロッサスは国法違反だからやめて。ややこしいことになりかねないわよ。下の階層の奴ならなんでも持って帰っていいから、とにかく早く帰って」


 随分と嫌われてしまったようだ。

 名残惜しいが、そろそろ魔女の塔を去ることにしよう。


 壁を破ってスロープを作って帰るつもりだったが、さすがに怒られそうだったので、普通に歩いて帰ろう。

 足は限界だが、今回ばかりは仕方ない。これ以上、余計なことはしないでおこう。

 俺だって、人の隠居生活をぶち壊すつもりでこの塔へ乗り込んできたわけではなかったのだ。


 ただアルタミアの本を読んで、尊敬していた相手ではあるし、大して魔術の話もせずに追い出される、というのはやっぱりちょっともったいない気がする。

 ここ百年での研究結果も気になる。


「なに、まだ何かあるの?」


 俺が帰る素振りを見せた後もただぼうっと立っているのを見て、アルタミアが目を細めて俺を睨む。


「ほとぼりが冷めた頃に、また来てもいいですか?」


 アルタミアがやや頬を赤く染めて、プイっと横を向いた。


「……ま、まぁ、私も人と話すのは久しぶりだったし、塔が直ってからなら、ちょっとくらいなら相手をしてあげてもいいのよ」


 思いの外、あっさりと許可が降りた。

 最初に顔を合わせたときもそんなことを口にしていたし……案外、寂しがり屋なのかもしれない。

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