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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第六章 魔女の塔と収集家
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十八話 ハイエルフの魔術師、デヴィン⑪

 六階層の結界解析を難なく終え、結界を崩さないように天井に穴を開け、階段を生やして七階層へと向かっていた。

 階段の途中、俺は身に纏った法衣を見せびらかす。


 法衣は部分部分の革が固く、なかなか着るのに苦労した。

 おまけに魔石やら宝石が埋め込まれており、伸縮性に難がある。

 サイズもXLなのか、ぶかぶかである。裾が擦るので歩きづらい。

 色々と文句は言ったが、ただ、こういうデザインは嫌いではない。


「どうだ、メア?」


「かっこいいですよ! さっきのエルフの人よりずっと似合ってます!」


「そ、そう?」


 俺には似合ってないのではないかと思っていたし、ぶかぶかだが、メアからは絶賛であった。

 褒められると、脱ぐ気が起きなくなる。暑いし、重たいし、歩きにくいが、せっかくなので着て行こう。

 手に持って歩くには、あまりに荷物である。


 自作の階段を上がり切った俺は、魔女の塔七階層の光景を見て、唖然とした。

 広大な草原の真ん中に、複雑に絡み合った巨大な豆の樹が生えている。

 『先に行きたくばこれに登れ』とでも言いたげな様子である。


 豆の樹は、空を貫くように高々と伸びている。

 どこまでがただの幻影なのかはわからないが、恐らく、かなりの高さがあるのではないかと思われた。

 階段を作るにしても、どれだけ登ればいいことなのやら、皆目見当もつかない。


 豆の樹は無視してこの草原の物色を行おうかとも考えたが、豆の樹以外は、これと言ったものが見つからない。

 魔獣もいなければ、虫もいない。草や花も、綺麗だがありふれたものばかりである。


「こ、こんなのってアリかよ……。ここまで来て、そんな……」


 散々期待させておいて、最後の最後で梯子を外す。

 これが魔女のやり口だというのなら、俺はアルタミアを許せそうにない。


「アベル……もう、帰りますか? さっきの階段で、結構きつかったんじゃ……。それに登り切っても、八階層に繋がってるだけで、大したものは見つからないかもしれませんよ?」


 さすがに七階層がただの中継地点ってことはない、と思いたいのだが……上の方を見ても、特に何も見つからない。

 せいぜい、巨大な豆の房がある程度である。


「手はないわけじゃないが……俺がちょっと危険だし、あんまり試したくないな……。まぁでも、他に手がないのなら……」


「そ、それはやめておきませんか?」


 メアが表情をやや引き攣らせる。

 やっぱり駄目だったか。

 ここら一帯の土をちょっと盛り上げるつもりだったのだが。


「じゃあ、この豆の樹を切り倒してみるか? 目ぼしいものが落ちてくるかもしれない」


「素直に帰りましょうよ! アベル、疲れてるんですよね? 膝、笑ってますよ! 無茶しない方がいいですって! これ切り倒したら、なんだか誰かに凄く怒られそうな気がします!」


「大丈夫だ。切り倒した後は、責任を持って俺が成長させるから」


 魔法陣を遠くに転写して転移を繰り返すのもナシではないが、着地時に足を滑らせると最悪死にかねない。

 さすがにこんなことで命懸けにはなれない。


「とりあえず、やるだけやってみて、駄目そうなら戻るか……」


 俺は杖を掲げ、魔法陣を浮かべる。


বায়ু(土よ) সো হাত(階段を象れ)


 地中より土が溢れるように宙に舞い、豆の樹と平行に階段を象っていく。


「そんなに高くないといいんだけどなぁ……」


 俺はどこまでも続きそうな、鬱陶しいほどに明るい青々とした空を睨んで呟いた。


 登る。登る。

 ひたすらに豆の樹と並行に伸びる階段を登り続けた。


「アベル……その法衣、脱いだらどうですか? すごく歩き辛そうです……。それに、凄い汗です」


「で……でも、持って歩く方がしんどくないか?」


「置いて行ったらどうですか? この階層見たら、すぐに帰るんですし……」


「う、う~ん……ハイエルフの国宝らしいからなぁ。その辺にほったらかしにして先に行くって言うのも、あんまり気が進まないというか……」


 俺は汗を袖で拭う。

 素材が固くて汗が拭いにくい。あまり汗が染みこまないのだ。

 ただ、べったりと俺の汗がハイエルフの国宝についた。


「……なんか、俺には宝の持ち腐れかもしれないな、これ」


 ただの固くて重い、ぶかぶかのローブである。

 確かに見かけはちょっとかっこいいが、それだけである。

 おまけに物々しすぎて、街中歩くのも人目が気になりそうだ。


「……エルフの人に、返してあげちゃいます?」


「それは嫌だ。それにほら、正当な決闘でもらったものだし」


 俺は相手がどのような奴であろうとも、強盗に走る気はない。

 この法衣は、互いの同意があり、正当な約束に基づいてもらったものなのだ。

 いわばデヴィンは俺がこの法衣に相応しい人物だと判断し、自分の意思で俺に譲り渡してくれたのだ。

 それを突っ返すということは、誇り高いハイエルフに対し、侮辱でしかない。きっとそうだ。そうに違いない。

 俺は強制して自分の願望を押し付けた覚えは一切ない。


「そ、そうですか……」


 途中の自作空中階段の踊り場で、俺は淵に腰を掛けた。

 足の震えが止まらない。


「はー……はー……」


「ちょっと休憩します?」


 俺は空を見た。

 豆の樹は、まだまだ空へと続いている。

 階段は途中で途切れているので、あそこまで登ったらまた改築しなければいけない。

 なお視界の果てまで見ても、特に変わったものは見つからない。


 いったい、どこまで登ればいいのか。

 背を逸らし、下を見る。

 あまりの高さに、背筋に寒気が走る。

 遥か下の階段と豆の樹は、すっかりと小さくなっていた。


「……メア」


「はい?」


「帰ろう……」


「あ、はい」


 メアはほっとしたようにそう答えた。


 ここまで、俺はかなり頑張った方だと思う。

 だが、もう、ここが限界だ。俺はアルタミアに負けた。

 先の見えない果てに、もう歩き疲れてしまった。

 幻の銅オレイカルコスを回収して……ついでに六階層を少し見て回って、その後に塔に穴を開け、階段かスロープを作って帰ろう。


 ただ、降りる前に少し休憩したい。

 ふと何気なく空の果てを見上げると、なんとなく悪寒がした。

 何かが、空の果てから向かってきているような、そんな気がしたのだ。


「アベル……今、下の方から物音がしませんでした?」


「ん? そうか? 俺は気づかなかったが……」


 すっかり空に意識を取られてしまっていた。


「ちょっとメア、見てきますね……。アベルは休んでいてください。何かあったら、大声を出して知らせます」


 メアが荷物を置いて弓を握りしめ、下へと降りる。


「一応ここ、魔女の塔の第七階層だから、あんまり動き回らない方がいいぞ。何があるのか、わかったものじゃあ……」


 ただ、危険は、上から来ているように思う。

 メアは少し降りておいてもらった方が、いいかもしれない。


 そこでふと、周囲の精霊に動きを感じた。

 転移魔術の痕跡だ。上方に注意を払っていて、気が付くのが一瞬遅れた。


「メア! 戻れ!」


「えっ?」


 俺を振り返ったメアのすぐ後ろに、真っ赤な目を見開く、恐ろしい形相のデヴィンの姿が現れた。

 オッドアイの片方の目は、石人形の直撃を受けたのが血を流しており、固く閉じられている。


「フフフ……やっと追いついたよ」


 至近距離から弓を向けようと振り返ったメアの手を、デヴィンが手で弾いて落とさせ、肘をメアの首に掛けた。


「きゃあっ!」


 俺が杖を向けると、デヴィンが吠える。


「動くなぁっ! 何かしようとすれば、その瞬間にこの女の首を折る! ちょっとでも妙な精霊の動きを感じたり、あの木偶人形を嗾けようとすれば、真っ先にこの女を殺してやる!」


 空神から選ばれた存在なのだと優雅に笑っていたハイエルフの面影は、すでになくなっていた。

 誇りを失くし、自信を失くし、流儀さえも失ったハイエルフのとった行動は、女の子を人質を取るという、恐ろしくシンプルでわかりやすいものだった。

 あれほど種族の高潔さに固執していたハイエルフが、血と泥に汚れた姿で人質を取り、嬉しそうに笑っている目前の男と同一なのだとは、俺も信じられない思いであった。


 俺の魔術と、デヴィンの動き、どっちが速いか。

 自信はあったが、試す気にはなれなかった。俺が唇を噛んでいると、デヴィンが顎で俺の杖を示す。


 俺がゆっくりと杖を降ろすと、デヴィンは血まみれの顔で満足げに笑った。


「私を馬鹿にするだけならまだしも……まさか、この世で最も尊き、空神様のことまで貶め、あまつさえ国宝の法衣まで、そんなに粗雑に扱ってくれるとはね……フフフ……。君には、千回死んでもらってもまだ足りないよ」


 デヴィンはメアを押さえているのとは逆の手で、指輪を空に翳す。

 デヴィンを囲むように魔法陣が現れ、メアと共に姿が消える。そして俺よりも高い位置の豆の樹の枝へと、姿を現した。


「お、お前! 何考えてやがる!」


「フフ……フフフ、さぁ、決闘をやり直そうか! もっとも、君が何かすれば、私の手が滑ってしまうかもしれないけどね! フフフ! ハハハ! ハハハハア!」


「ハイエルフってのは誇り高い奴らなんだと思っていたが、違ったみたいだな! ただの、卑屈な性悪じゃないか! 人質取って、何が決闘だ!」


「黙れよ! 言葉を選べ! 君がこの私に、こんな真似をさせたんだろがぁっ! 下等種族の分際で、馬鹿にしやがって! どこまでこの私を貶めれば気が済む!」


 デヴィンが怒りを露にしながら、隻眼から涙を流しながら吠える。

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