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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第六章 魔女の塔と収集家
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十七話 ハイエルフの魔術師、デヴィン⑩

「ま、またお前かよ……」


 三度目のエルフの登場に、さすがの俺も辟易していた。

 ぶっちゃけあまり関わりたくないタイプの人だ。


「ちょこまかと逃げてくれたが……それも、ここまでだよ。見なよ、マーレン。決着に相応しい場だとは思わないかい?」


 この第六階層の内装は石作りであり、なかなか重厚な雰囲気がある。

 通路に並ぶ魔物の像にも趣がある。

 しかし今が長年のライバルとの宿命の戦いや、大悪党との世界の命運を賭けた最後の戦いならいざ知らず、因縁つけて突っかかって来たストーカーエルフでは、あまりに役者が負けている。


「アルタミアとやらも、なかなか洒落た演出をしてくれるじゃないか」


 エルフがぐるりと辺りを見回し、フンと鼻を鳴らす。

 アルタミアに謝れよ、とつい口に出そうになる。


 エルフは俺へと向き直り、両目を細めた。


「認めよう、君は強い。地上に住まう凡俗共の中に、君の様な魔術師がいるとは思っていなかったよ。ただね、私にも、立場というものがある。君が突出した存在であろうとも、ハイエルフであるこの私が、地上人如きに辱めを受けたという事実には何の変りもないことだ。このまま立ち去るわけにはいかない。杖を構えろマーレン」


 エルフはそう言い、俺へと杖を向ける。


「決闘の前に名乗っておこう。私は空神様の神託を授かり、この法衣を纏って地上へと降り立った。天空の国(アルフヘイム)のハイエルフの司祭、デヴィン・デオドルノードだ。この私に名乗ることを許してあげよう、マーレン」


「…………えぇ、面倒臭い」


「名乗って杖を構えろと言っているんだ! 聞こえないのか! 私が! 空神様から選ばれたこの私が負けたなど、あり得ない、あってはならないことなんだよ! 空神様の名に掛けて、絶対に負けるわけにはいないんだ!」


「なんかモチベーションがなぁ……。歩き疲れたし、余計なことしたくないっていうか……。そもそもお前の都合で、俺に何も得とかないし……」


「私に勝てば! 天空の国(アルフヘイム)の財宝でも! 魔鉱石でも! 魔導書でも! いくらでもくれてやると言っているじゃないか! 怖気づいたかマーレン!」


「お前俺に負けたら天空の国(アルフヘイム)に帰れないって言ってたじゃん……」


 エルフ、もといデヴィンが押し黙った。

 ほら見たことか、と思った。最初からこのエルフは、負けたときのことなど一切考えていないのだ。


「ぐ、ぐ……な、ならば、この杖をくれてやろうじゃないか! この杖は樹齢千年の天空樹から作られたもので……」


 デヴィンは手にしている杖へと目を移し、やや躊躇いがちに前へと突き出す。

 どうにも迷いがあるようだ。ただ俺としては、それならそれで、杖よりも欲しいものがある。


「あ! じゃあ、そっちくれよ。その、纏ってる法衣。俺が勝ったらそれをくれるなら、勝負してもいいぞ」


 エルフの大神殿の宝具ならば、きっと何かの役には立つだろう。

 魔法陣も一度解析してみたい。

 くれるというなら喜んでもらいたい。それなら俺だって、真っ当に相手をする気になれるというものだ。


「は、はぁ? な、何をほざいている! 頭がおかしいのか! いいか? この法衣は、私が空神様より天空の国(アルフヘイム)一の魔術師であることを認められた証なのだ!」


 デヴィンは額に血管を浮かべて鼻の息を広げ、唇を尖らせながら叫ぶ。


「そもそもこれは、私のものではない! 授かった者が死ぬと同時に、大神殿へ返すしきたりとなっている! いわば、貸し出されているようなものなのだ! 地上の民にそれを奪われたなどあっては、私は永遠に恥晒しの大罪人となるだろう!」


 デヴィンはそう吠えた後、息を荒げながら肩を上下させる。

 青筋が濃く額に浮かび上がっている。

 ここまで怒られるとは正直思っていなかった。


「でも、絶対に俺に負けるわけにはいかないって言ってたよな? 負けることがあってはならないとか、あり得ないとか……」


「ち、違う! そもそもだ、空神様から借り受けたものを勝手に賭けに使うこと自体が、あり得ないことなんだ! なんだ、マーレンは馬鹿なんだな!?」


 俺は数秒目を閉じ、言葉を選ぶ。

 上手くデヴィンの信仰心と種族の自尊心を煽れば、どうにか引き摺り出せるはずだ。

 考えを整理してから口を開き、一気にまくしたてる。


「お前の強さは、空神から保証されたものなんだろ? 空神から選ばれた自分が、負けるはずがないって、そう言っていたじゃないか。その空神の言葉の担保として空神から借り受けたものを用いるのは、ごくごく当然のことじゃないのか? それとも空神の神託は、そんなにいい加減なものなのか? 空神の神託は信じられないし、自分の実力にも不安があるなら、杖を降ろせよ。負けたときの傷を浅くしようとして顔を赤くして怒鳴る奴の決闘を、なんでわざわざ受けなきゃいけないんだ?」


「言わせおけば、ぬけぬけと! この私の本当の実力を思い知れば、そんな軽口は叩けなくなるだろう! 邪神クゥドルを崇めるディンラート王国の愚か者共には、空神様の偉大さはわかるまい!」


「じゃあ、それ、賭けるのか?」


「…………」


 デヴィンは固まって黙り、左目の赤眼でちらちらと俺を見る。

 それから躊躇いがちに、小さく口を開いた。


「あ、ああ……うん……」


「よしっ! 俺はマーレン族のアベル・ベレークだ! じゃあ行くぞ!」


「あっ、いや、了承したわけではないというか……」


 俺が杖を構えると、デヴィンは一瞬取り乱したもののすぐさま表情を戻し、赤い眼に俺への敵意を宿らせる。


「い、いいいだろう! 天空に住まう我らは、地を這う者共よりもディンの光を強く浴び、ディンの膨大な魔力の一端を得る! 教えてあげよう! ハイエルフと、マーレンの差を! 圧倒的な魔力を! そして慄き、恐怖せよ!」


 デヴィンは法衣を翻し、七の石を自分を囲むように放った。


「最初から全力で行かせてもらおうか!」


 デヴィンの周囲に散らばっている七の石の上に、各々の魔法陣が浮かび上がる。


পাথর(石よ) আমি(我に) দাস(仕えよ)


 投げられた石が膨れ上がり、背の低い人間程度の大きさへと変わる。


「私がストーンサーヴァントを同時に複数体操れないと、誰が言った? 絶望するにはまだ早いぞアベル!」


 デヴィンが右目を閉じて、左の赤眼を大きく開く。

 デヴィンが杖を高く掲げると、彼を中心に大型の魔法陣が展開されていく。


 俺は多少強めに魔力を込めてから十の魔法陣を浮かべ、杖を振るう。


বায়ু(風よ)


 俺の杖の先端から先に風が吹き荒れる。

 デヴィンを守るように法衣の魔法陣が現れるが、風の勢いを受けてどんどんと掠れていく。

 あっという間にデヴィンは風の勢いをまともに受けることになり、その激しさに腕で目を覆う。


「ぐぅっ!?」


 デヴィンの足が地から浮きそうになり、彼は身を屈めて対抗した。

 だが、その腹部目掛けて、風に飛ばされたデヴィンの石人形が衝突する。


「ぶふっ!?」


 ついにデヴィンの身体が宙に浮く。

 その顔面へ目掛けて、三つの石人形が飛翔する。

 デヴィンの顔が石人形の三連打を受け、血塗れになった。歯らしきものを宙に舞わせ、デヴィンの身体が後方へと飛んでいき、壁に叩きつけられた。

 デヴィンの身体が、床の上に倒れる。


「まだだ……まだだマーレン! 思い上がるな! 地を這う虫ケラ風情が、ふざけた真似を……!」


 デヴィンが肘を床に突き、上体を起こそうとする。


বায়ু(風よ) বহন(運べ)


 俺は続けて杖を振るう。

 デヴィンの周囲に再び風が生じ、彼の身体を宙に浮かせる。


「な、何を……! あっ!」


 デヴィンの手をすり抜けて、杖が宙に浮く。

 デヴィンは慌てて杖を取り戻そうとするが、指先を掠めはするが、取ることができない。

 宙にいながら、まるで水中に溺れているような格好になっていた。


 俺はぐるりとデヴィンの身体を回し、地面へと落とした。

 頭から落下しそうになったデヴィンは寸前で身体を回し、肩から地面と衝突した。


「この私を、弄ぶような真似を……ん?」


 俺が魔術で操っている風が、法衣をデヴィンから剥ぎ取り、俺の許まで運んできてくれた。

 俺は杖を懐に仕舞い、法衣を両手で掴み、手でワシワシと揉んだ。


「おお、なかなか面白い術式が組まれているな。素材も……これ、なんだろうな。ちょっとわかんないわ。まぁ、ひとまず、これは約束通りもらっていくぞ」


 俺は法衣を手で上下させてデヴィンへと見せつけようとしたが、思いの外に法衣が重く、身体が前傾によろけた。

 メアが『持ちましょうか?』とでも言うふうに手を出してきたので、とりあえずメアに預かってもらうことにした。


「ふふ、ふざけるなァ! だからそれは、私が借り受けている形なのだと言っているだろうが! 地上の馬鹿どもは、言葉もロクに理解しないのか! 手を離せ! それは、君達程度の人間が手で触れていいものではないんだよ! 目にするのも烏滸がましいと思え! 手を離せ、手を離せっ……! 貴様ァ! 皺くちゃになってるじゃないか!」


 叫んでいるデヴィンへと目掛け、俺が風で上空に飛ばしていた石人形の一体が落下して行った。

 デヴィンは石人形をまともに頭で受け止めた。

 鈍い、嫌な音が響く。

 デヴィンの首ががくんと床へと向けられ、動かなくなった。意識が飛んだようであった。


 俺とメアはデヴィンを数秒眺めていたが、起き上がってくる気配はなかった。

 俺は杖を天井へと向ける。


「ちょっと解析して、結界を崩さないようにしつつ上手く穴開けられないかどうか、試してみるわ」


「あ……はい。もうメア、止めるのは諦めることにしました。とりあえず法衣これ、重たいんで地面置いといていいですか?」


「ああ、その辺に置いといてくれ」


 ついに次階層で魔女の塔、第七階層である。

 七階層は、俺の最高目標地点でもあった。

 俺の足に幾度となく悲鳴を上げさせるほど長かった魔女の塔も、ついに終わりである。

 メアの許可も降りたところだし、七階層を観光したら、帰りは壁なり床なりを壊してショートカットすればいい。


 六階層でAランクのヨルムンガンドが出てきたのだ。

 七階層ではアルタミアは何を見せてくれるのか。

呪族転生三巻、発売開始いたしました!

イラストレーターのMika Pikazo様より、応援イラストをいただきました!

挿絵(By みてみん)

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同作者の他小説、及びコミカライズ作品もよろしくお願いいたします!
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― 新着の感想 ―
[一言] ええええ!メアが想像の10倍可愛い!!!
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