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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第六章 魔女の塔と収集家
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十二話 ハイエルフの魔術師、デヴィン⑤

「お前……ハイエルフか?」


 俺はエルフへと杖を向けて牽制したまま、そう言った。

 ハイエルフは恐ろしいほど高い魔力と、傲慢な性格で有名である。

 滅多に地上へ降りてこないため、目撃例は恐ろしく少ないが。


「んん? ノークスは変わった鳴き声なのだね。お前、だとか言われてしまったよ。ノークスの分際で、この私に名乗れだとか、フフッ。面白いねぇ、君」


 長い指で口許を隠し、わざとらしく笑う。

 ここまで馬鹿にされると、いっそ清々しい。


「メ、メアもアベルも、ノークスじゃありません! アベルはマーレン族ですし、メアもドゥーム族です!」


 さすがのメアもエルフの言い分に腹が立ったらしく、エルフへと文句を言った。

 エルフに睨まれると、一瞬身体を振るわせた後、俺を庇うように前に出た。

 逆、逆! 怖いなら退がってていいんだぞ!


「マーレン! ああ、あのマーレン! 君達って、あれだよね? 地上のハイエルフだとか、自称してるんだよね? 面白いね」


 確かに、そういう呼び名はあるそうだが、自称ではない。

 あくまで他称である。

 だが今ここでこいつにそれを持ち出されると、恐ろしくむかっ腹が立つ。


「…………」


 メアが俺の表情を窺った後に無言で矢筒へ手を回そうとしたが、俺はそっとそれを手で遮った。


「……やめておけ」


 俺が小声で言うと、メアも声を潜めて返してくる。


「で、でもあいつ、アベルの一族のこと馬鹿にしてますよ? いいんですか?」 


「言わせておけばいいさ。悪口で身体が傷むわけでもないんだから」


「……こういうときアベル、割かし大人ですよね」


 俺の制止を聞き、メアが手を降ろした。

 感情的になってはいけない。

 あからさまに喧嘩は売ってきているが、低姿勢で出ておけば適当に受け流せるだろう。


 このエルフは、C級の魔獣の群れを一蹴できる石人形を操ることができるのだ。

 ただの雑魚ではない。魔術師でいえば、イカロスやエベルハイドよりは数段上だ。


 それに俺は今、疲れている。

 ここに来て余計な諍いを起こしたくはないし、下手に言い返せばその分、この嫌味なエルフとの話が永くなるだろう。

 ここはぐっと堪えるところだ。


「ああ、じゃあその木偶人形を使って戦うんだ。フフフ、知ってる? マーレンって昔、戦争があったときにハイエルフに地力で負けて、それから儀式に使ってた木偶人形を無理矢理武器に転用して、力勝負を止めて意表を突くような戦い方を始めたんだってね。かっこ悪くない? それって、純粋な魔力勝負じゃ勝てないって認めたってことだよね。せこせこその場凌ぎの戦いばっかり始めて。まだそのびっくり玩具、武器にしてたんだ」


「は?」


 さすがに我慢の限界を超えた。


「君達にとっては遥か遠い昔のことでも、フフッ、私達にとっては、祖父の笑い話なんだよ。自分達がいつからそれを使ってたのかも知らないのかい。短命種は悲しいね」


「じゃあお前の爺ちゃんから聞かなかったのか? そのびっくり玩具で大怪我して逃げかえって来たってな。そっちの埋もれてる石人形も、そのお前の言うところの、俺のびっくり玩具でああなったんだぞ」


 ぴくりと、エルフの真っ赤な方の目の瞼が神経質に動いた。


「ノークスノークス言ってた割には、随分とマーレン族に詳しいじゃないかよ。本当は一目見て気が付いてたんじゃないのか? あんまり意識してるのは恥ずかしいから、とりあえずノークスって呼んどこうって……」


 つんつんと、俺の背をメアがつついた。


「あの……適当にやり過ごすんじゃ……」


 ダンっと音を立てて、エルフが杖を地面に突いた。

 音に反応し、メアがびくりと肩を上下させる。


「ノークスが私達ハイエルフにとって、取るに足らない存在であることを証明するのは簡単だよ。今この場で焼き殺すも、バラバラにするのも、凍死させるのも、私にとっては容易いことだ。唯一手間なのは、手段が多すぎてどれかを選ぶのが難しいってことくらいでね」


 口調は不気味なほどに平坦だが、静かな殺気を感じる。


「だが、君達にとって幸いなことに、私はとてもとても誇り高い種族でね。不敬でもの知らずで短命種なノークスに、チャンスを上げようじゃないか。なに、その玩具で私のストーンサーヴァントを沈めたと言い張るのなら、簡単なことさ。私のストーンサーヴァントと、その玩具で、どっちが多くの魔獣を狩れるか勝負しようじゃないか。まさか、できない、なんて言わないよねぇ?」


「…………で、それはお前が勝ったらどうするんだ?」


「私は優しいんでね。そうだな、私が勝ったら、君達に好きな死に方を選ばせてあげよう。でも、心配する必要はない。もしも君達が勝てば、私は素直に引き下がるさ」


 また口許を隠して笑って、それから左の赤眼を見開き、俺の目を覗き込む。


「私に楯突いたノークスは殺すが、殺すにしても、その前にしっかりと、教えてあげなければならないからね。種族の、格の差という奴を。よかったね、私が誇り高い者でなければ、この様な猶予もなく、君達は死んでいただろう」


「……もしも、仮に、俺が勝ったときの条件を出していいか」


「フ、フフフ! いいね、威勢がいいのも、世間知らずも、頭が悪のも嫌いだけど、獲物としては最高だね。いいさ、なんでも言ってみるがいいさ。私に勝てたらご褒美をあげよう。私はハイエルフの中でも、髄一の魔術師でね。ノークス如きに負けることがあれば、二度と天空の国(アルフヘイム)の地を踏むことはできないだろう。私の命でも、なんでもくれてやろうじゃないか。天空の国(アルフヘイム)は資源が豊富でね。魔石か? 金か? ノークスが一生遊んで暮らせるだけの財産を用意してあげよう。我らの魔導書でもいいぞ。ノークスの凡俗共には、喉から手が出るほど欲しいものだろう? 言うだけならなんでもただだ。さぁ、言ってみるがいい」


「そうだな……そんなに色々提示されたら、悩みどころだな。う~ん……ちょっと待ってくれ」


 俺は靴を脱いで、その底をエルフへと突きつけた。


「うん?」


「舐めろ」


「……は?」


「俺が勝ったら、俺の靴の底を、舐めろ」


「……本当に、本当に、威勢だけはいいみたいだねぇ」


 エルフが、赤眼を見開き、瞼をひくつかせながら、額に皺を寄せた。


「ア、アベルが、お金も魔導書も放棄するなんて……」


「ちょっと、こいつだけはさすがにムカついたわ」

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