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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第六章 魔女の塔と収集家
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とある収集家の探索(sideコレクター)

 大柄の人物が、ディンラート王国の辺境地を一人で歩いていた。


 金の刺繍によって魔法陣の施された、厳めしい青い外套を全身に纏っていた。

 外套の下にも様々な色の美しい布を重ねて羽織っており、煌びやかに風に靡く。

 他にも高価な魔金属製の腕輪やら指輪、ピアスで身体中を装飾していた。

 分厚い外套の奥に覗く顔や腕は包帯で覆われており、その一切を窺うことはできない。

 遠目に見てわかるほど奇異で目立つ格好をしていたが、その人物を恐れてか、魔獣が近づく様子もない。


 その異様な人物へと近づく、五人の剣士の姿があった。彼らは五人共同馬に乗っており、全員同じ格好をしていた。

 彼らはディンラート王国の第一王子、アルフォンスの部下達である。


 青い外套の人物は彼らに目を向け、足を止めた。

 五人組は青い外套の人物の近くへと馬を止めて降り、収集家の前へと立った。

 先頭にいる、紫紺の長髪をした、美形の男が声を張り上げる。


「我々は、第一王子アルフォンス様の親衛隊だ。私は名をロンティオと申す。貴殿は伝説の冒険者、収集家とお見受けする。我々はアルフォンス様の命で、長らく貴殿を捜索していたのだ」


「…………」


 収集家、と呼ばれ、蒼い外套の人物は静かに笑みを浮かべた。


 ――収集家。

 それは歴代最強の冒険者とまで称される人物のことである。

 彼は三百年以上の歳月を生き、世界中からありとあらゆる宝具を集めて回っているという話であった。


「第一王子アルフォンス様は、いずれはディンラート王国を統べる王となるお方だ。そんなアルフォンス様が、貴殿を直接指名したのだ。これがどれほど名誉なことか……」


「興味はない、な。この我が、今更地位などに固執すると思うてか?」


 収集家がようやく口を開いた。

 しゃがれた不気味な声であった。


「収集家、貴殿には様々な容疑がある。遺跡からの盗掘、陵墓の墓荒らし、果ては他国の王宮での強盗、内乱の支援、暗殺……。随分と動きづらいのではないかと、アルフォンス様は心配していらっしゃる」


「ほう? 断れば、殺すと? ここで? 我を?」


「そう言っているわけではないが……アルフォンス様が後ろ盾になれば、そのようなあらぬ疑いを掛けて、貴殿を殺そうとする者もいなくなるであろう。決して悪い話ではないだろう?」


「ほう、ほう! なるほど、なるほど!」


 収集家は機嫌よさげに快活に笑った。


「興味がないな! 我に害を成せる人間が、今更この世におるはずがあるまい! が……もう一言だけ、聞いておいてやろう。我を雇おうなどと分不相応なことを言い出したその馬鹿王子は、その見返りに何を用意したのだ?」


 ロンティオの背後に控えていた他の親衛隊の騎士が、収集家の物言いに怒りを表し、剣を抜いた。

 大国であるディンラート王国の次期王候補であるアルフォンス王子に向かって分不相応な物言いなど、不敬にもほどがある。

 今までの収集家の言い方にも苛立ちを覚えていたのだが、ついに限界が来たのだ。


「貴様! こちらが下手に出ていれば……!」


「止せ。アルフォンス様も、一筋縄ではいかないことはわかっていらっしゃった。収集家殿よ、当然アルフォンス様は、貴殿に合わせた報酬を用意しておいでだ」


 ロンティオは他の騎士を宥め、収集家へとそう切り出した。


「フハハハハ! 話が早い! それは今、見せてくれると言うのか?」


 ロンティオは背後の者達へと目で合図をする。

 親衛隊の一人が大きな箱を手にし、収集家の前へと置いた。


「ふむ、ふむ」


 収集家は粗い手つきで箱を開け、中に入っている剣を手に取った。

 煌びやかな装飾と術式の施された、黄金色の細身の剣である。柄には魔石が埋め込まれている。


「ほお」


 収集家は黄金の剣を手に取り、太陽へと翳した。


「剣の名は、『黄金の女帝オロ・エンペラトリズ』。所有者の魔力に応じ、真価を発揮する魔法剣です。収集家殿の様な剣技に魔術、双方の分野に優れている方にとっては、正に喉から手が出るほど欲しいものでしょう。この剣を、アルフォンス様のために振るっていただきたいのです」


 ロンティオの言葉を受け、収集家が剣へと魔力を流す。

 途端に黄金の剣は輝きを増し、辺りに眩いばかりの光が満ちた。

 ロンティオ含む親衛隊達は、眩さのあまり目を開けているのも辛いほどであった。


(噂には聞いていたが……収集家……これほどまでとは。一流の魔術師が魔力を掛けようが、この十分の一も光を帯びないというのに……! アルフォンス様は拗れればは殺せと仰られたが、これは五人掛かりでも厳しいかもしれない。あの剣を、先に渡してしまったのがまずかったか。あの光……今やあの剣が、どれだけの威力を持っていることやら……)


 ロンティオは交渉を少しでも自分のペースで進めるため、心中の焦りを隠し、収集家へと笑顔を向けた。


「『黄金の女帝オロ・エンペラトリズ』は二代前の王が、自身に仕えていた騎士のため、当時の宮廷鍛冶師と宮廷錬金術師に依頼し、金に糸目を掛けずに作らせたものです。実用性だけではなく、歴史的価値も高いかと。どうですか、お気に召しましたか? 当然、これだけではありません。アルフォンス様は、収集家殿のために、他にも様々な魔法具を用意しておいでです」


 アルフォンスは収集家を抱き込むためには、収集家のコレクションとなりそうな高価な魔法具や武器が必要であると考え、苦心してこの剣を用意したのだ。

 

「ふむ」


 収集家は眩しそうに目を細めていたが、ロンティオの言葉を受けると黄金の剣を右手に移し、空いた左手の指をくいと曲げる。

 左の手の中に、収集家の背丈よりも高い長さを持つ、武骨な大剣が現れた。

 持ち柄側よりも先端の側の方が剣身の幅が広く、刃が大きく湾曲している。

 迫力はあるが、実用性に欠ける様に見える外見であった。まともに実戦で振り回せているところが想像できない。


(完全無詠唱による、物質の転移? 何らかの魔法具の力なのだろうが……そんな夢の様な魔法具が、本当に実在するというのか? しかし、あの剣で何を……)


 収集家は両手を大きく上げ、『黄金の女帝オロ・エンペラトリズ』とその巨剣の剣身を、豪速で打ち合わせた。

 『黄金の女帝オロ・エンペラトリズ』の輝きが最大になり、辺りに火花が散った。


「うぐっ!」


 二つの剣身が打ち合わされた衝撃のあまり、ロンティオ達は身を屈めて足を踏ん張った。

 収まってから砂煙を塞ぐために顔を覆っていた手を退けると、そこには真っ二つになった『黄金の女帝オロ・エンペラトリズ』の無残な姿があった。

 収集家は平然とした顔で立っており、剣の刃を足蹴にしていた。

 残った方も、興味なさげに地面へと投げ捨てた。


「な……な……!」


「この剣はカスだな! 眩しいばかりでナマクラではないか! 二世代ぽっち前の王が、お抱えの者に作らせたという時点で嫌な予感はしていたがな!」


「『黄金の女帝オロ・エンペラトリズ』を、ナマクラだと……? こ、これが、どれほどの価値があるものだったと……! 言葉を取り消せ収集家!」


「カスはカスではないか! 何度でも言ってくれるわ! カスカスカスカス! 事実、我の剣の一撃にも耐え切れんとは! こんな役に立たんものを、今更我がコレクションに加えよというのか! こんなもの、何本積まれようが、お使いの駄賃にもならんわ! うっかり落として壊してしまうわい!」


 収集家は下品に大声で笑い、黄金の剣へと足で砂を掛けた。


「貴様らの主人に伝えることだな! 今のまま、ゴブリンの骨でもやって犬を雇っているのがお似合いであると!」


「…………」


 さすがのロンティオも、この言いざまには怒りを表した。

 額に皺を寄せ、収集家を睨む。

 収集家は黄金の剣を執拗に踏みながら、自身の大剣を掲げてロンティオ達に見せびらかす。


「しかし、このゴブリンの骨に比べ、我が愛剣のなんと素晴らしきことか! 見たか! フハハハハ! 一撃で真っ二つではないか! 三度くらい堪えられれば、お遊びに付き合ってやるのも悪くないかと思っておったが、一撃ではないか! よいか! 貴様が無様にも誇っておったこのゴブリンの骨と、我が愛剣の格の差を思い知らせてやろう! 貴様、二代前の王が作ったので歴史的に価値があると思いますなどと、意味不明の事を宣っておったな? 我が愛剣は遡ること八百年前、剣の国と呼ばれていた古代ベーランドナ王国に双子の王子が生まれた際に、占術師の言葉によって国力を注いで作られたものの片割れである! この剣こそ、『打ち砕く右の王コロムイシュケイダ・レイ』と称えられる、正に触れるものすべてを破壊する凶刃! これこそ、剣の王を名乗るに相応しい!」


 収集家は自身のコレクションがどれほど素晴らしいものかについて語りながら、アルフォンスの用意した『黄金の女帝オロ・エンペラトリズ』を扱き下ろしに掛かった。

 親衛隊五人はどんどん殺気立っていく。

 それを知ってか知らずか、収集家の自慢は終わらない。


 親衛隊の一人が堪らず、収集家へと喰って掛かった。


「き、貴様の様な無教養な蛮人には『黄金の女帝オロ・エンペラトリズ』の価値がわかるはずもあるまい! それに、あの剣の真価は、持ち主の魔力によって発揮される! 『黄金の女帝オロ・エンペラトリズ』を握るには、貴様は力不足だったらしい! オークに魔石であったな! 貴様には、その品のない馬鹿でかい金属塊がお似合いらし……」


 男が言い切るよりも先に、収集家が地面に大剣を振り下ろした。

 轟音が響き、男の言葉を遮る。


「……無知蒙昧な凡俗が、この我の言葉を遮り、ばかりか我が剣を貶すか! 万死に値するわ!」


 収集家が怒鳴りながら、二度地面へと大剣を叩きつけた。


(最早、引き入れは不可能……それに、アルフォンス様の用意した宝剣をへし折られたとあっては、奴の首を差し出さねばアルフォンス様に合わせる顔がない! 奴が完全に臨戦態勢に入る前に、先手を打つ!)


 ロンティオは他の隊員達へと目配せした後、剣を抜いて収集家へと斬り掛かった。

 他の四人も素早く分かれ、収集家を囲むように動く。


(警戒すべきは……あの、黄金の女帝オロ・エンペラトリズさえ砕く巨大な剣! あれほど大きな武器でありながら、私の目を以てしても、奴の剣筋を見切ることができない。だが、どれだけ魔力を持っていようと、所詮は人間! 囲んで斬り捨てれば……)


 接近するロンティオへと、収集家が空いている右手を突き出す。


「出でよ『毒大蛇(トルクピトン)』!」


 まるで右手から放たれた様に、唐突に禍々しい光を放つ一本の図太い鎖が現れ、ロンティオへと迫った。


「なっ!?」


「フハハ! 気を付けよ! 触れればミスリルさえ蝕む、死の鎖ぞ!」


 ロンティオは慌てて剣を前に突き出して弾こうとするが、逆に剣の先端が砕かれ、そのまま横に逸らされた。

 おまけに、砕けた部位から剣身が変色していき、それはあっという間に柄の方へと延びていく。


「くっ、くそっ!」


 ロンティオは剣を収集家へと投げ付け、自身は地面を蹴って横に跳んだ。

 鎖は不意に曲がって投げ付けられた剣を弾き、そのまま軌道を変えてロンティオを追った。


「……え?」


「言いそびれておったわ! 『毒大蛇(トルクピトン)』は、悪魔の封じられた、意思を持った鎖であるとな! フハハハハハ!」


 毒鎖はロンティオの身体を弾き、そのまま彼の身体へと巻き付いた。


「あ……あ……ああ……」


 あっという間にロンティオの身体中が変色していき、身体に鎖が喰い込んでいく。

 そのまま鎖は、腐ったロンティオの身体を上下に引き千切った。


「つまらん! つまらんぞ! せっかく集めた我が武具が、こうも雑魚ばかりでは、まともに試すこともできぬわ! もっと抵抗してみせよ凡俗共!」


「こっ……この!」


 残った四人が、一斉に収集家へと斬り掛かる。

 収集家が手を挙げると、ロンティオを殺した鎖が消える。次の瞬間、先ほどの毒鎖が、収集家を中心とし、蜷局を巻くように再び出現した。

 四人の剣を弾くと同時に、彼らの身体を毒で蝕む。


 あっという間に彼らは身体中変色し、立っていられずにその場に這い這いの姿勢になる。

 口から胃がひっくり返ったかのように体内の物を吐き出し、ある者は内臓さえも口から垂れ流して絶命した。


「ハー! つまらん凡俗共が!」


 収集家が右手を空へと向ける。

 収集家の手許に、一本の弓が現れた。


「この我のコレクションを馬鹿にしたのだ! 我の宝の力を魂に深く、深く、深く深く深く刻み込み、苦しみ抜いて死ぬがよい! それが凡俗な貴様らに唯一できる、我が剣へのせめてもの贖罪であろう!」


 弓は宙を浮遊して収集家の手許を離れ、彼らの上に移動すると、数十本にも及ぶ細い光の矢を射出し、彼らの身体を足の先から頭の上まで穴だらけにした。


 収集家は惨死体を前に不快そうに鼻を鳴らした。

 収集家が最も嫌うことは、自身の話の腰を折られることと、自身のコレクションを貶されることであった。


「百年振りにディンラート王国に出向いたのだから何か目ぼしいものがあるのではないかと思っておったが、人も物も相変わらずカスばかりではないか! 弱いだけならまだしも、こうも不快とは! これでお目当ての魔女の塔もハズレであれば、とんだ無駄足であるな!」


 収集家は目を細め、遠くに見える巨大な筒状の建物、魔女の塔を睨んだ。


「アルタミアとやらが、少しは手応えのある奴であればよいのだがな。このままでは、せっかく手に入れた武具の試し打ちもままならんわ」

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