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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第六章 魔女の塔と収集家
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一話 とあるフィクサーの来訪①

 パルガス村がリーヴァイ教徒による病魔事件からの落ち着きを見せ始めて来た頃、俺はハイル村長の館の書庫に入り浸り、あれこれと記録や資料を漁っていた。


 調べているのは、魔女の塔に関することである。

 魔女の塔には、八十年前に封印された錬金術師、アルタミアが眠っている。

 そのせいか魔女の塔は魔力場が狂っているらしく、塔の周辺や内部には、強力な魔獣や悪魔が出没するという。


 強固な結界のせいで階層を跳ばしたり壁を崩したりのショートカットが不可能であり、上の階層に行くには魔獣や悪魔の出る通路を突破していくしかない。

 そのため昔はよく冒険者達の実力試しにもなっていたそうだが、最近は『何が起きるかわからない』といった理由で立ち入りを禁じており、パルガス村でも塔へ近づこうとする冒険者を止めることが半ば規則となっているようだった。


 俺が持ってきた資料の確認を終え、また資料の探索を行おうかと椅子を降りかけたとき、紙束を手にしたフルールが棚の裏から姿を現した。


「アベル様、何か有益な情報はありましたか?」


 村長の娘のフルールである。

 彼女は病魔騒動のときは父親であるハイル村長の看護ですっかりやつれているのか暗い印象があったが、大分明るくなったように思う。 

 父親譲りの赤い髪も、以前よりも鮮やかなように見える。


「奥の棚にあるアルタミアに関する資料を一部纏めてみましたので、よろしければどうぞ」


 フルールが、紙の束を俺の机の前へと置いた。


「ありがとうございます。……すいませんフルールさん、本当は、村からしてみたらルール違反なんじゃないですか? 村長の娘が、旅人にアルタミアの資料を引き渡すなんて。立ち入り禁止なんですよね? なんでも八十年前は、パルガス村の民に見張らせるためにこの塔を村の近くに建てた……なんて文献もありましたけど」


 フルールは俺に褒められるとやや頬を髪のように赤く染め、手にしていた資料の一部で顔の下半分をすっと隠した。

 それから俺が謝るのをきょとんとした目で見ていたが、そのまま資料で口を隠してクスクスと笑った。


「アベル様はこの村の英雄ですから、そんなことで文句を言う人はいませんよ。お気になさらずに。それに侵入を禁じたのはつい最近で、理由は……王家から一方的に通達されたものなのでお父様もよくわからないらしいのですが、多分冒険者の安全のためってことだと思いますし。そういう意味でもアベル様ならまったく問題ありませんよ」


「そ、そう? ならお言葉に甘えて……」


 ラルクも大分渋そうな顔をしていたが、俺が魔女の塔を訪れることを明瞭に止める言葉を吐くことはなかった。

 きっとラルクも、俺が魔女の塔へと向かうことは織り込み済みだろう。

 全く問題はないはずだ。むしろ、行かなければラルクに失礼というものである。

 ……いや、それはさすがにないか。


「お……」


 魔女の塔へと冒険者達が登っていた頃の報告書の束と、その纒めが目についた。

 どうやらパルガス村にも昔は冒険者ギルドがあったのだが、魔女の塔の立ち入りを禁じたと同時に閉鎖したようだった。

 資料を見るにあまり広いところではなく、魔女の塔管理所と化していたようではあるが。


 資料を読んでいると、ふと視線を上げたときにフルールと目が合った。

 フルールはにこにこと笑っている。


「えっと……すいません、あんまり見られるとちょっと、集中できないと言いますか……」


「申し訳ございません、お邪魔でしたか?」


「い、いえ、別に、そこまでじゃあないんですけど……」


 不意に目が合うと、なんだか気まずい。

 妙な雰囲気の中、俺はどうにか心を落ち着けながら資料へと目線を落とした。


「アベルアベル! 面白そうな本がありましたよ! ……ん?」


 メアが書庫とは別の部屋から姿を現した。

 手には一冊の本が握られていた。

 メアは不意に眉を顰めた後、探るような半目でフルールの方をじーっと見た。

 フルールが誤魔化すように笑うと、メアは小さく頭を下げてから俺の傍へと寄ってきた。


「……何の話、してたんですか?」


「いや、フルールさんが資料を持ってきてくれて……」


 俺はちらりと、メアの持ってきた本の表紙へと目を移す。


『ウェゲナー探検記――魔女の塔の忌まわしき因縁――/ウェゲナー・ウルコック著作』


 どっかで聞いたことあるような……としばし考え、遺跡探索のときの髪の薄い学者の顔が脳裏に浮かんだ。


「……ああ、ウェゲナーさんの」


「そうです! ウェゲナーさんの探検記です! メア、あの人のシリーズにこんなタイトルがあったなんて知りませんでした!」


 ちょっと胡散臭い気がするんだけどな……あの人が書いた本っていうと。

 俺はメアから本を受け取り、パラパラと流し読みした。


「詳しめの実体験だから、参考にはなりそうなんだけど……」


「メア様、実はそれ、私が小さい頃に回収騒ぎになったものなのです。冒険者さんからそういった本が出回っていると聞いて、お父様が当時のファージ領の領主様を経由して、著者さんに連絡したのです。『こんなものを真に受けた冒険者が塔に入ると危ない』と言って」


 フルールが口許を隠しながら、くすくすと笑った。

 メアが顔を赤くし、そっと俺の手にあるウェゲナ―の本を掴んだ。

 俺も抵抗する理由はなかったので、そのままメアに引き渡すことにした。


 メアがちらりと、俺の手許にあるフルールの資料へと目をやった。

 少しぷくっと頬を膨らまし、ウェゲナ―の本を手に来た通路を駆けて行った。


「メ、メアも、資料探してきますからっ!」


「走ると危ないですよー、メア様」


 フルールがメアの背を、やや勝ち誇った顔で眺めていた。

 ……この人、前はくたびれてたからわからなかったけど、なかなかいい性格をしている。


 メアが扉に手を触れたとき、慌てた様子のハイル村長がちょうど扉を開いたところだった。


「どうなさいましたか、お父様?」


 フルールが尋ねると、ハイル村長が困ったような顔で俺の方を見る。


「実は……他領の司教様がおいでになって、リーヴァイ教徒達を捕まえたアベル殿のお話を聞きたいと仰っておるのだ。会ってはもらえんだろうか」


「司教が? マリアスやネログリフの件でこちらに出向いていたのでしょうか?」


 こんな辺境地への連絡ならば、もっと下っ端にでも任せておけばいいのに。


「それもあるかもしれんが……どうやら元々、この領地に寄るつもりだったらしい」


 ……この領地に?


 言っては悪いが、ファージ領は、それもパルガス村は、ディンラート王国の端の端である。

 ここを通って他領に行くのはどう考えても大幅な遠回りである。

 この先にあるのは、せいぜい魔女の塔とリーヴァラス国くらいである。


「わかりました。今は、こちらの館に?」


「村の地下牢の方に。例のネログリフと話がしたいと言っておられてな。ゆっくりこの館でと提案したのだが……何分忙しい身であるらしく、体裁も厭わないのでどこでも構わないと」


「……それ、リーヴァイ教徒の変装だったりしませんよね?」


「クゥドル教会の印も持っておられたから、まず間違いないとは思うが……」


 なんだか胡散臭い気が……。


「わかりました。とにかく、一度会ってみますね。なんという方なんですか?」


「名前はペテロ様と仰るそうだ。アベル殿、何分失礼のないようお願いします。体裁は気にしないとは言っておりましたが、少々……その、気難しそうなお方に見えたもので……」

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