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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第五章 パルガス村の病魔
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十八話 リヴ・フォーグ⑧

「いけぇっ! ラピデス・ソード!」


 剣が一直線に飛んでいき、リヴ・フォーグをまた一体仕留めた。

 綺麗にリヴ・フォーグの頭部が遠くへと転がっていく。

 これで五体目である。


「よっしゃ! カムラさん、またリヴ・フォーグの回収お願いします!」


「ア、アベル……なぁ、もう、帰ろう……。こ、これだけあったらいいじゃないか。そんなに何体も取るものじゃないっていうか……」


「え……でも、パルガス村を完治させるにはもう少し集めないと……」


「しかし、しかしだ……」


 カムラは疲れ果てたようにそう言うと髪をがしがしと搔き毟り始め、それ以上は特に口を挟んでこなかった。

 随分とお疲れのようだ。


「オーゲンさん、ちょっと……代わりにリヴ・フォーグ、集めておいてくれませんか?」


「あ、ああ……そう、だな……」


 おかしい。

 二体目までは確かに喜んでくれていたはずのオーゲンも、すっかり表情が硬くなっている。

 半端に集めても、村内でリヴ・フォーグを巡った争いを誘発してしまうだけだと案じているのかもしれない。


「安心してください! オーテムが反応を示しています! リヴ・フォーグの溜まり場があるはずです!」


「リ、リヴ・フォーグの溜まり場だと!?」


 オーゲンもこの情報には喜んでくれたらしく、目を剥いてぽかんと口を開けていた。


「ア、アベルさん! これ以上は、あまり踏み込んだことのない場所にまで来ています! はっきり言って……その、どんな魔物が出るかわかりません! また、得体の知れない悪魔が出てくるかもしれませんし……!」


 ソフィアが俺に懇願するよう、説得に掛かってきた。


「ほら、アベルさんがもしも命を落としでもしたら、パルガス村の人達にとっても損害ですから! 今は、この四つを持って帰りましょう? ここは意地の張りどころではありませんよ?」


「大丈夫ですよ。こう見えても結構臆病な性質なもんで、まずいと思ったらすぐ逃げますから」


 世界樹のオーテムは今、くるくると嬉しそうに回っている。

 この反応……十はいると考えてもいいはずだ。

 多く捕まえたら、何体か俺に流してくれるかもしれない。


 そう考えると心が躍る。

 なにせ伝説の治療薬の原材料となるフォーグである。

 何かと使い道もあるだろうし、解析のし甲斐もあるというものだ。


 どこか消極的な三人を連れて、世界樹のオーテムを追って移動した。


「今日中に二十体は確実に確保できそうですね!」


「…………ああ、だろうな」


 オーゲンが力なく頷いた。

 そのとき、メアが急に目を見開いて弓を構えた。


「アベル、前っ!」


 前方を注視すれば、黄色い果実がこちらへ飛んでくるところだった。

 肌をかぶれさせる猛毒があると、オーゲンから初日に教えてもらった果実である。


 世界樹のオーテムが素早く跳び上がり、空中で回転して果実を叩き落とす。


「キキッ、キキッ……」


 鳴き声と共に、周囲からふっと人に似た影が浮かぶ。


「シャドー・スィミィーだ! 囲まれてるぞ!」


 オーゲンが叫ぶ。

 スィミィーは、猿のような魔獣のことである。

 頭がよく、軽快な動きを得意とする。目を付けられたらなかなか厄介だとされている。

 特に、シャドー・スィミィーは従来の狡猾さに加え、幻覚を用いて対象を弱らせるのを得意としている。


 影が、ゆらりと動く。

 こいつらは……前衛よりも、後衛に引っ込みたがる魔術師を優先して狙いたがる、厄介な性質を持っている。


「チャンスは……今しかないか」


 オーゲンが呟き、口角をわずかに吊り上げた。

 武器の木槌を握る力を強める。


「オーゲンさん、何か策でも?」


「いや、なに……」


 オーゲンは言いながら俺の方を向いて、びくりと身体を強張らせた。


「兄ちゃんよ、後ろだっ!」


 俺は指を伸ばして腕を上げ、前へと勢いよく降ろした。

 ラピデス・ソードが、刃渡りを三倍まで伸ばした後、腕の動きに続くように地面を叩き斬った。

 刃先から迸った衝撃波が地面に罅を入れ、その先にあった大木を両断した。


「キキッ!」「キ、キキッ!」


 シャドー・スィミィーが、鳴き声を上げながら逃げていく。

 スィミィーは賢い魔獣だ。これだけ脅しを掛けたら、もう近づいては来ないだろう。


「…………」


 オーゲンは木槌を振り上げた姿勢で固まっていた。


「えっと、何かありましたか?」


「……いや、悪い、奴らの幻覚だったようだ」


 オーゲンは静かに木槌を降ろした。

 別に、そういった魔力は感じなかったが……まぁ、焦って何かと見間違えたのかもしれない。


 魔獣の襲撃があっても、ラピデス・ソードを振り回しておけばすぐに逃げていった。

 便利なものだ。やはり武器を調達しておいてよかった。

 作ってくれたリノアにも礼をまた改めて言わなければなるまい。


 しばらく進んだところで、世界樹のオーテムが動きを止めた。

 その場でくるくると回り出す。


「ふぅ……誤作動だったみたいだな」


 カムラが言うと、ソフィアが力が抜けたようにその場に座り込んだ。

 やはり、歩いていてかなり疲れていたらしい。

 リヴ・フォーグが見つかると思っていた期待への失望と疲労が重なったのだろう。


「ソフィアさん! 絶対リヴ・フォーグは近くにいるはずですから、安心してください!」


「え……い、いえ、でも、どこにも……」


 俺は世界樹のオーテムへと手を乗せる。

 この中には、閉じ込めておいたマリアスの悪魔、ハーメルンが入っている。


 どうやらリヴ・フォーグは隠れているようだが……ハーメルンの魔獣誘引能力をフルに使えば、興奮してすぐに飛び出してくるはずだ。

 リヴ・フォーグはああ見えて知性が高いようなので、かなり強めに出力しなければ意味はないだろうが……。


 俺は世界樹のオーテムの内側にいるハーメルンへと、一気に魔力を流し込む。

 ガタガタと世界樹のオーテムが震え出した。



হাসিহা-(キャハ)হাহা-(ハハ)হাহা-(ハハ)হাহা-(ハハ)


 世界樹のオーテムの口から、ハーメルンの笑い声が漏れ出した。

 それと同時に、周囲の空気が一変する。


「い、今何を……」


 地面からボコ、ボコと穴が開き、大量のリヴ・フォーグが姿を現した。

 十や二十ではない。辺りが穴だらけになり、次々にリヴ・フォーグが這い出て来る。

 百体近くはいるのではないだろうか。

 薬を作った後、村人全員に刺身にして配ってもお釣りが出そうな勢いである。


 リヴ・フォーグが澄んだ瑠璃色をしているため、まるで海が地面から湧き出して来たかのような、幻想的な光景であった。

 体表が日の光を反射させるせいで眩しい。

 確かに、海の神様からの贈り物であるように思えてきた。

 最初にリヴ・フォーグをリーヴァイの贈り物だと言った教徒も、もしかしたらこの光景を見たのかもしれない。


「わー! すっごい綺麗です!」


 メアはこの光景を見て、燥いでいた。

 そういえば、メアは本物の海を見たことがないのかもしれない。

 俺だって、今世では一度も目にしていない。


「……ヴェ?」

「ヴェッ! ヴェッ!」


 我に返ったリヴ・フォーグが、大慌てで転移して逃げようとする。

 ラピデス・ソードは俺の念じる通りに動き、リヴ・フォーグの頭を飛ばしていく。

 たったの三振りで、十近い数のリヴ・フォーグを仕留めることができた。


 だが、ほんの数秒の内に、潮が引いていくかのようにリヴ・フォーグの姿が消えていく。


「……メアの矢、当たりませんでした」


 メアがしょんぼりと、弓を持つ手を下に降ろす。


「転移直後の奴なら、転移は使えないはずだ。これだけの数がいたら、数体仕留めるのは簡単かもしれないぞ。みなさんも、早くリヴ・フォーグを追いましょう! まだ近くに奴らはいるはずです! 残らずひっ捕まえてやりましょう!」


 振り返ると、呆然とした表情で突っ立っているリーヴァイ教徒三人組の姿があった。

 ……やっぱり、まずかったのだろうか。

 いや、でも、そこまで強くは止められなかったはずだし……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大漁! [気になる点] ダンタリちゃんが居なくなったからもう取れないぞ。 狩り尽くさなきゃ! 足つきオタマジャクシなのか、そのまま大人になってるのか。 (まあ、水上に出て跳ねてるんだろ…
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