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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第五章 パルガス村の病魔
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十五話 リヴ・フォーグ⑤

「思ったより大した奴じゃなくてよかったですね。道迷わせて来る辺り、はた迷惑な奴でしたけど」


 俺が声を掛けると、びくりとカムラとソフィアが肩を震わせて一歩退いた。

 やや気まずい沈黙が訪れる。


「いやぁ、兄ちゃんのお蔭で助けられた! さすが、ネログリフ様が見込んだだけのことはある!」


 オーゲンが、豪快に笑いながら俺の肩を叩く。

 オーゲンはそれからカムラとソフィアへと顔を向けた。


「どうした、お前達? 悪魔に度肝抜かれちゃったか?」


「あっ、あはははは……実は、そうでな。いや、あんなのが出て来るとは思わなかった。見掛け倒しだったみたいで、安心したがな」


「アベルさん、凄いですね! 私達、全然敵わなかったのに……。アベルさんがいてくれたら、リヴ・フォーグも本当に捕まえられるかもしれませんね!」


 オーゲンに声を掛けられたカムラとソフィアの二人が、表情を即座に取り繕い、微妙に引き攣った笑みを浮かべながら声を掛けて来る。

 ……なんか、この人達……普通に俺にドン引きしてないか?


「そ、そそ、そうです! さっきの魔法陣、もう一回見せてもらったりってできませんか? 私、同じ魔術師として、すっごく興味があります!」


「え……そう? やっぱり気になります?」


 ダンタリオンを倒した魔術は、俺がアベル玉と名付けている。

 生み出した火球を魔力での増幅と特異な結界で包み込んでの圧縮を繰り返し、空間に悪影響を及ぼすギリギリ手前まで破壊力を高めている。

 制御を誤ったときにどうなるのか幾つか仮説はあるが、正直俺もよくわかっていない。

 実験してみたいが、失敗したときの責任はちょっと取れそうにないので試さないでいる。

 単純に見えて、複数の魔法陣を順に展開する必要がある。


 マーレン族の集落では、シビィに魔術を教えても真面目に取り込んではもらえなかった。

 どれだけ熱心に説明しても聞き入れてくれたのはジゼルか族長くらいであるが、今思えばジゼルは俺が話しているから聞いていただけという感じだった気もするし、族長も途中から他の書物を並行して開いて調べながら話を聞いたり、何度も同じ部分を尋ねてきたりで俺の話したい部分がまったく進まなくなってしまった。

 錬金術師団でも最初は大喜びで俺を団長として受け入れてくれたみんなが、なぜか親の仇でも見るかのような目で俺を睨むようになってしまった。


 自分から自主的に俺の自作魔法陣に関心を持ってくれた人間は、振り返ってみればあまりいない。


「で、でも駄目ですよね。自作の魔術式なんて、魔術師にとっては自分の子供のようなもの……」


「いえ、いえ! 教えさせてください! 俺、人に自分の考えた理論を説明するのが大好きで!」


「そ、そうですか。では、お言葉に甘えて……」


「ではまず、一つ目の魔法陣を浮かべますね。これは……」


 つんつんと、メアが俺の肩を突いてきた。


「どうした?」


「アベル……この人たち、やっぱり怪しいところがありますし、変にそういうことって教えない方がいいんじゃないですか?」


「まぁ、多少は歩み寄って距離を縮めておいた方がいいし。俺もリヴ・フォーグのことをネログリフさんが教えてもらってるし、こっちが一方的に警戒して出し惜しみするのも嫌じゃないか?」


「……アベルがそうしたいならいいですけど」


 メアが少し拗ねたように言い淀む。


 結局、移動しながらソフィアへと、アベル玉の構造、扱い方について説明することにした。

 途中で休憩を挟みつつ移動し、二時間ほどが経った。


「ということで、かみ砕いて言うと、ここの術式を読み取った精霊が、先ほどに示した魔力D´と魔力F´´の力が等しくなるように、疑似魔力場Sから受け取った魔力を元に増幅させるんです。そのときに二重目の魔法陣のこの部分が、その変化に際して先ほどに説明した理論に基づいた反応を示します」


「……はい、わかりました」


 ソフィアは、虚ろな目で小さく頷いた。


「一連の結果として、疑似魔力場Sに一定波の魔力を送り続けることで、他面結界の一部分の強度をより高めることができます。この仕組みをメリス式鏡面理論を用いることで、大幅に省略したのがこうなるわけです。ちょっと不適切な表現ではありますが、精霊を騙すという形になっているわけですね。正式に魔法陣組んでいたら、頭がパンクしちゃいますから。精霊崩壊だって起こっちゃいますから、魔力効率も大幅に下がってしまいますし。クロン型結界にするならそれはそれとしていいんですけど、手間が掛かっちゃって実用的ではありませんから。こっちはこっちで面倒に思えるかもしれませんけど、一度流れを叩き込んでしまえばこっちの方がずっと楽なんです。こうして疑似的に繰り返すことで、この面を除いた……」


「……はい、わかりました」


「さっきからそれしか言ってませんけど、本当にわかってますか?」


「……はい、わかりました」


「わかってるならいいんですけど……えっと、メリス式鏡面理論を応用した多面結界の展開の補助についてでしたね」


「……はい、わかりました」


「…………」


 薄々勘付いてたけど、やっぱりこれ、聞いてないんじゃ……。

 俺が疑惑の目を向けても、ソフィアは一切反応を示さない。


「アベル、メアはしっかり聞いてましたよ! ソフィアさんと違ってメアはしっかり聞いてましたよ! えっと……合わせ鏡みたいにブワーってなって、ババーンってなるんですよね!」


 メアがパタパタと手を動かしながら得意気に言う。


「……う~ん、そうなんだけどそうじゃないというか。不思議と惜しい気はするんだけど」


 ふとソフィアへ目を向けると、足許がかなり覚束ないように見えた。

 つい先ほどまで元気だったのに、急に精神力をごっそりと持っていかれているように見える。


「ソフィアさん、大丈夫ですか? ひょっとして、また何か……悪魔の攻撃じゃ……」


 一応意識を向けてはみるが、それらしい魔力は特に感じない。

 オーテムを使って本格的に調べてみるか……?


「アンタがそれを言うのか……」


 背後にいたカムラが口を開く。


「な、なぁ、兄ちゃん、そろそろリヴ・フォーグの発見場所だから、話し込むのはその辺りで控えてくれ。魔術師同士、話が合うのはわかるんだがな」


「そうですね。ソフィアさんもちょっと今は旅疲れが出ちゃっているみたいなので……続きはまたパルガス村に帰ってからにしましょうか。そっちの方が落ち着いて説明できますし、簡単に流してしまった部分にも時間が掛けられますから」


「はい、わかりました」


 ソフィアもそっちの方がいいそうだ。

 やはり今は疲れているのだろう。

 移動用オーテムを貸してあげてもよかったかもしれない。


 しかし……リヴ・フォーグ、か。

 もしもこの山脈の魔力場の乱れの原因が四つ首の悪魔ダンタリオンであった場合、リヴ・フォーグもこれ以上産まれなくなってしまうかもしれない。

 ネログリフはリヴ・フォーグを、リーヴァイ様からの贈り物だと称していたが……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 精神攻撃は基本。 [気になる点] 悪魔はおま(略) [一言] また君か壊(略)
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