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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第五章 パルガス村の病魔
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九話

 俺とメア、エリアはネログリフとクロエに連れられてパルガス村を歩き、ハイル・ファージ村長の館へと向かった。

 道中もほとんど人を見かけず、見かけたとしてもリーヴァイ教徒の青いローブを身に纏っており、俺としてはどうにも落ち着かなかった。

 メアも同じ気持ちのようで、不安げに俺の手をぎゅっと握り締めていた。


 途中、単身で歩いていた青いローブを身に付けている中年の女が、俺達の元へと駆け寄ってきた。


「ネログリフ様! 朝方、主人が目を覚ましまして……! なんと、なんと御礼を申したらよろしいものなのか……!」


「お、おお! よかった……それは、本当によかった!」


 どうやら、旦那がリーヴァイ教の治療を受けている女の人らしい。

 ネログリフも涙を零し、彼女の手を取って喜んでいた。


 え、演技にはどうにも見えない……。

 ふとクロエの方へと目を向けると、彼女は無表情のまますっと俺から目を背けた。

 偶然かもしれないが、俺にはそれがどうにも、バツの悪さから来るもののように思えた。


 ……まさか、あの爺さん、英雄として担がれて、リーヴァラス国の侵略計画に利用されてるんじゃあないのか?

 俺は目を赤くして喜んでいるネログリフを見て、不憫に感じた。

 もしも俺の予想が当たっていたとして………あの優しそうな爺さんが本当のことを知ったら、いったい何を思うことだろうか。


「あの悪魔の魔力は相当なものでしたから……正直、かなり厳しいのではないかと思っていまして。よかった……これも、リーヴァイ様のご加護の賜物でございましょう!」


 ネログリフは手の指を交差させて目を閉じ、祈りの姿勢を取っていた。


 女の人が去ってから、俺はネログリフへと尋ねた。


「あの女の人は……」


「少し前に、リーヴァイ教へと改宗なさったのです。リーヴァイ様は、正に海のように広い心を持ちますが……やはりそのご加護は、信仰深い信者へと優先して与えられるものでございますから」


 そう言ってネログリフは、自身の手の甲をそっと慈しむように撫でた。

 あそこに、リーヴァイの召喚紋が浮かび上がるのだろうか。


 水の神リーヴァイは、水を司る力は勿論のこと、治癒の力にも優れていたという。

 クゥドル神の一撃を受けても自らの魔力によって再生したという伝説を持つ。

 ……もっとも、その後の瞬間にクゥドル神の百撃を受けて瀕死の重傷を負い、水へと姿を変えて逃げようとして呑み干されたとされているが。


 余談ではあるがリーヴァイは大槍の投擲によって先制を取ってクゥドル神の腹に大穴を開けたが、リーヴァイを吞み干してその穴を塞いで事なきを得たのだという。

 ディンラート王国の国教はクゥドル教ではあるが、正直今の世にクゥドル神がいなくて本当に良かったと思っている。

 クゥドル教の聖書にも『我の不要な世界こそ平和な世界』と述べていたことが記されているあたり、自覚はあったらしい。


 クゥドル神の話は置いておくとして……どうやらリーヴァイ教は、リーヴァイの治癒の加護を受けられるとして、パルガス村で布教活動を行っているようだ。

 やっぱり、どう考えても計画的な侵略活動の一環である。


 上手くネログリフを説得して仲間に引き入れたいところだが……それは難しいだろう。

 最悪、正面切って戦うことも視野に入れておかなければならない。


 やがてハイル村長の館へと辿り着いた。

 クロエが玄関先のベルを鳴らすと、館の中から赤髪の女が出て来た。

 赤の巻き髪であり、歳は二十手前といったところのようだ。

 やつれているらしく目の下がやや黒ずんで窪んでいた。


 ラルクの館には赤髪の人間が多かった。

 ファージ家の血筋の特徴なのかもしれない。

 とすれば歳から考えて、ハイル村長の娘だろう。


「ネログリフ様……来てくださったのですね。そちらのお方は?」


「この方々は、旅の魔術師でして……治癒魔術の方面の知識にも明るいそうです。ワシらの力は及びませぬでしたが……ひょっとしたらこの方々ならば、お父様の病状をよくすることもできるかもしれませぬ」


 お父様の……病状?


「あの、ネログリフさん。ハイル村長は……」


 ネログリフに代わって、ハイル村長の娘が答えた。


「父は、今は寝たきりの状態でして……。もう、一週間以上は目を覚ましていません。その前から、ずっと興奮していて真っ当な状態ではなかったのですが」


 ……すでに村長は、意識不明になっていたらしい。

 そりゃそうだ。今までのリーヴァイ教の手口から考えれば、村のまとめ役は懐柔済みか、そうでなければ口を塞いでいるに決まっている。


 その後、しばらく赤い巻き髪の女と話をして、村の現状について聞くことにした。

 彼女はハイル・ファージの娘で、名前をフルールというのだそうだ。


 どうやらパルガス村ではクゥドル教の教会堂をリーヴァイ教の教会堂へと替えて、治療のために人を運び込んだらしい。

 治療を行う人間をリーヴァイ教徒で賄っているため、そのままでは都合が悪かったようだ。

 村人達は命が懸かっていたため反感を露にする者がほとんどおらず、そのまま実行されたのだとか。


 ただあっという間にスペースが足りなくなってしまったため、新しい治療院……実質リーヴァイ教の教会堂を、既存の建物を用いて次々に改築・建築を行っているようだ。

 すでにリーヴァイ教の手に落ちている状態である。


 ハイル村長はリーヴァイ教の教会堂が増えることに難色を示していたらしく、リーヴァイ教徒と村人達を敵に回していたらしい。

 そのため病気を発症させたときに治療院に入ることができず、自分の館で養生を行っているようだ。

 ネログリフを筆頭に、少数の教徒達は容態を伺いに来てくれていたようだが……それでも他の者よりも万全の治療が受けられず、病気の進行が早まっており、もって後一週間の命という見立てだそうだ。


 綺麗にリーヴァイ教に染まっている。

 ラルクのいたラッセル村も、俺がいなければリーヴァイ教一色になっていたのかもしれない。


 しかしこれで、だいたいパルガス村の状態を知ることはできた。

 俺の目標はパルガス村の病魔を完全に取り除くことと、ラルクへの不信感を抑えて交流を復活させることと……リーヴァイ教を撤退させることだな。

 前二つは大して困難ではない。

 病魔の治療くらいならば自分で慣れているし、後で身元を明かせば解決する話だ。


 フルールから話を聞いた後、俺はハイル村長の寝室へと立ち入った。

 ハイル村長はやはり赤髪であった。

 四十手前だと聞いていたが、顔がやつれきっており、皺としみのような斑点が目立ち、六十近くにも思えた。

 病魔のせいだと思うと、あまりに恐ろしい。

 平然と村人に悪魔を嗾けた奴がいると思うと憤りしかない。


「ア、アベル……あんまり近づかない方がいいんじゃ……」


 俺がハイル村長のベッドへと近づこうとすると、メアが心配そうに俺の服の袖を握って引き留める。


「大丈夫大丈夫。寝るときはオーテムで結界を張ってしっかり予防をしておくし、何より悪魔がすでに死んでるなら、もう病魔の影響力もほとんど薄れているはず……」


 俺は言いながらハイル村長の手を取り、微弱な魔力を流した。

 対象に魔力を循環させて自分の身体へと戻し、対象の状態を探る解析の基本である。


「おお、なんと繊細な魔力コントロール! もしやアベル殿は、名のある白魔術師なのでは! 存じ上げず、申し訳ない……。ワシの見聞が狭いがばかりに、今まで失礼いたしました」


 ネログリフは俺の様子を見て、感嘆を洩らしながら頭を下げた。


「い、いえ、そんな……今まで本当に、集落へ引き籠っていただけですので」


「……そこまで高度な技術なのですか?」


 クロエがネログリフへと尋ねる。


「高度、なんというものではない! リーヴァイ様のご加護を最も賜っている、教皇サーテリア様にも並ぶほどだ! 本当にアベル殿の力さえあれば、この村の病人を完治させることもできるかもしれん!」


「……ネログリフ様、その言葉は教皇様への不敬かと。魔力の流動制御は、サーテリア様が最も得意とされるところ。軽々しくサーテリア様を引き合いに出すのはお止めください。常々考えておりましたが、ネログリフ様は大神官であられるご自覚に少々欠けています。もう少し、ご自身の身を考えてください」


「む、むぅ……確かにサーテリア様を引き合いに出したのはワシの落ち度ではあるが……ワシも、大神官としての自覚がないわけではないのだ。しかし、ワシの在り方をリーヴァイ様が見込んでくださったのであれば、ワシは下手に飾らずに、思うが儘、今まで通りに生きるべきではないのかと……」


「限度があります。下の者の中にも困惑している方がいますので、自重なさってください」


「むむむ……」


 やっぱりなんかあの二人、調子狂うんだよな……。


 俺はネログリフとクロエから意識を外し、魔力の制御へと集中する。

 ハイル村長の身体の情報が、魔力を通して俺の頭にへと伝わってくる。

 俺はそっとハイル村長から手を放した。


「アベル殿、何かおわかりに……」


 俺は言うべきかどうか、少し悩んだ。

 ネログリフとクロエを交互に見た後、覚悟を決めて口を開いた。

 ひとまずはネログリフを信頼してみようと思ったのだ。


「……ネログリフさん、多分、例の悪魔……まだ、生きてます」


「な、ななっ!? そ、そんな……アベル殿、何かの間違いでは!」


 ネログリフは顔を真っ青にして俺へと問いかけてくる。


「残念ですが、恐らく間違いないかと……」


 俺が言い切るより先にクロエが素早く前に跳び出し、俺の首へと大杖を当てがった。


「ネログリフ様が、仕損じたとでも言いたいのですか?」


 顔に変化はないが、声には明らかに怒りが滲んでいた。


「……悪魔は狡猾ですから。死を偽装して身を潜めるくらいはするでしょう。どちらかと言えば……悪魔というよりは、やや人間的な行動ですが」


 病魔の悪魔と契約していた精霊術師がいたのではないかと、鎌を掛けてみた。

 クロエの目が、わずかに細められた。

 無表情な顔にようやく変化が現れた。


「こっ、このっ……ネログリフ様が優しいと思って付け上がって……!」


「クロエ、止めなさい!」


 ネログリフが一喝し、場は静寂に包まれる。

 室内の空気は最悪であった。


 蚊帳の外になっているフルールやメア、エリアはおどおどしているばかりである。

 クロエは青筋を立てて左の瞼を神経質に震えさせながら俺を睨み、敵意を剥き出しにしていた。


 そんな中、ネログリフがすっと頭を下げた。


「……アベル殿、どうかパルガス村を救うために、知恵を貸していただきたい。よろしくお願いします」


 クロエはぽかんと口を開いてネログリフを見ていたが、やがて俺へと視線を戻し、大杖を下ろしてその場から二歩退いた。

 しかし、敵意の込められた目に変化はなかった。

あけましておめでとうございます!

……昨日書きたかったのですが、更新する時間がなかったのです

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