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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第五章 パルガス村の病魔
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一話 ファージ領の改革①

「アベル団長……これでどうですか?」


 錬金術師団の一員であるジャガーが、手にしたオーテムを恐る恐ると俺へと見せる。

 オーテムを彫っている他の団員達もジャガーの言葉に反応して動きを止め、俺へと目線を向ける。

 どの程度のオーテムを作れば合格ラインになるのか、基準を探っているのだろう。


 俺はジャガーから受け取ったオーテムを手に取り、ぐるぐると手の中で回す。


「うん、うん、いい感じじゃないか。前よりだいぶ良くなった」


 ジャガーが安堵したように息を吐く。

 他の者も俺の言うことを聞いて安心したのか、再び作業へと取り掛かり始める。


 本当言うと色々と言いたいこともあるのだが……まぁ、ずっとオーテム彫りばかりやらせておくわけにもいかない。

 最低限のレベルができればいいだろう。


「後は溝が粗いのと、表面が若干凹凸になってるのと……部位ごとの比率が悪い部分を直すだけだな。あとはこう……なんだろう、魂を込めて彫ってほしいって言うか……」


 俺がそう言うと、周囲の団員達が木彫り用ナイフを手から落とした。


「そ、それって作り直しってことじゃ……あの、いつまでこれを彫っていれば……」


「とりあえずは今週いっぱいだけだから安心してくれ。俺は四歳の頃から今の今までずっと彫り続けているぞ」


「ちょ、ちょっと休憩を……」


「え……でも、もっとペースを上げてくれないと予定に間に合わないし……そうなったらラルクさんにも申し訳ないし……」


 錬金術師団の魔術技術の向上は、俺の予定している領地改革の基盤である。

 ここさえクリアできれば後はだいたい順調にいくし、逆に言えばここで詰まってしまうと大幅に出遅れてしまう。


 とは言え……思ったよりも時間が掛かりそうだ。

 もうちょっとオーテム彫りに慣れてもらわなくては正直話にならない。

 俺がどっちかというと感覚派であることもあってか、コツを上手く伝えられないということもあるのだが。

 現段階では俺が直接指導に当たる意味もあまりない。

 

「ラ、ラルク様もそこまで急いでないんじゃないですかね」


「…………ま、まぁぶっちゃけ、俺が急いでほしいっていうか」


「今本音出ましたよね!?」


「ラルクさんも、早い方がいいですかって訊いたら、まぁそうかなって……」


「そりゃそう訊いたらそう答えますよ!」


 ……どうにも意識というか、志向先のすれ違いが大きいような気がする。

 思えばシビィの指導をしていた頃もジゼルで釣って無理矢理技術を詰め込んでいる状態だったし、結局魔術の腕もあまり上がらなかった。

 俺、指導に向いてないんだろうか。

 ジゼルは教えた分だけ俺の意図を汲み取って持続して鍛錬を積んでくれたから、上手く行っていたのだが。


「そう言えば、リノア副団長は? 姿が見えませんけど?」

「俺も全然見てないな……」

「ひょっとして精霊獣騒動のときに大怪我でもなされたんですか?」


 ジャガーが言えば、他の団員も首を傾げる。


「……えっと、俺の錬金した魔金属の、加工を行ってもらってる。製作過程見てたら改善点ボロボロ出てきちゃって、じゃあ作り直してもらうかってなかったら、また時間掛かるかなと……ああでも! 急いでもらってるから、その内こっちにも顔出せるかなって……」


「…………」


 団員達が全員、真顔で俺の方を見た。

 『冷静に考えたらこいつイカロス以上に錬金術師団私物化してね?』とでも言いたげな目をしていた。


「そ、そうだな……べ、別に急いでも仕方ないし……みんな疲れてるみたいだから、一回休憩にするか! な? な?」


 俺がそう言うと、団員達が木彫り用ナイフをその場に置いてバタバタと倒れ始めた。


「ど、どうしたんだ?」


「集中力が持たない……変な頭痛がする……」


 団員の一人が仰向けの姿勢のまま、首を小さく振りながら言った。


「魔術の行使で集中力は重要な要素の一つだから、すぐに持たなくなるってことはそこが弱点だな」


「すぐ……? 早朝から半日ぶっとうしがすぐ……?」


「でも今しんどいってことは、伸びてるって証拠だから、その状態が続けば……」


「この状態が、続く……?」


 ……ちょっと計画を見直した方がいいかもしれない。


「団長……俺もう、今日は帰っていいですか? 多分これ……限界って言うか……」


 また別の団員が口を開く。


「えっと……とにかく今から長めに休憩取るから、それから考えてくれると嬉しいかな……」


「アベル、アベルー! ラルクさんが、前に言っていた美術品の整理始めるそうですよ! ちょっと覗いてみましょうよ!」


 ラルクの屋敷の方からメアが駆けて来て、大声で俺を呼んだ。

 ファージ領と他領との交易が復活しつつあるため、ラルクの先々代の領主が趣味で集めていた美術品をいくつか売り払い、復興に当てるという話だった。

 本当は数日前に行うはずだったが、マリアスの引き起こした騒動のせいでそれどころではなくなってしまって遅れ、今日に縺れ込んだのだろう。

 俺はあまり興味がなかったが、メアが見たいと言っていたから付き添う約束になっていた。


「あっ……じゃ、じゃあそういうわけで……俺ちょっと見て来るから……」


 不穏な空気が広がる中、とりあえず俺は一度離れることにした。


「でも余力がある人は、俺がいない間も勝手に彫っておいてくれたら助かるんだけど……」


「あのぅ……今日はもう解散にした方がいいんじゃないかなって、メアは思うんですけど」


 死屍累々状態の団員達を見て、メアが小さく零した。


「……やっぱりそう? じゃあ今日は解散して明日に備えて休んでもらって、後は各自での復習に……」


 俺が言うと、倒れていた団員達が上体を起こした。


「やったぁあああああ!」

「ありがとうございます、ありがとうございますメアさん! あの、次からもこっちに顔を出してもらえたら助かると言いますか……」

「俺達が言っても、全然聞き入れてくれなくて……」


 団員達がペコペコとメアに頭を下げ始める。

 中には涙を流し始める者の姿もあった。


「ちょ、ちょっと頭上げてください! ア、アベル、何やったんですか!?」


 ……そ、そこまで厳しいつもりはなかったんだけど……やっぱり計画、見直した方がよさそうかな。

 とりあえず、美術品見学のついでにラルクに相談してみるか。

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