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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第四章 ファージ領の改革
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とある宣教師の焦燥(sideリングス)

「失敗した、失敗した……。完全に、失敗した……」


 教会が完成するまでの代わりとして集会所として用いている長老ロウブの家にて、リングスはぶつぶつと窓に向かって独り言を呟いていた。


「……わ、私のせいだ。私が余計な口出しをしなければ、決闘は見送られていた。そうなればイカロスと手を組んで、双方から搦め手でアベルを潰す機会も、あったはずなのに! 大神官様もそれとなく止めてくださったのに、私は、私は……! でも、だってあいつ、あんなにフラフラだったから……!」


 恨めしげに言い、窓に爪を立て、ガラスの先にある建造物を睨む。

 建設途上のリーヴァイ教の教会である。


 つい最近まで信者の若者達がこぞって建設に手を貸してくれていたのに、ここ数日ですっかりいなくなってしまった。

 今や剥き出しの内装を露わにしながら放置されているのが現状である。

 ここ最近雨も増えてきたというのに、雨よけのシートを被せようという者さえ現れない。


 その理由はいわずもがな、イカロスの信用不足を補うために自分の名前を貸してしまったせいである。

 結果は盛大に失敗され、イカロスと共にリングスの信用も消し飛んだ。


 それに加え、領内の仕事が一気に増えてしまったこともある。

 オーテム瓜の育成から安全性の管理、植えた位置や育った数に関する報告など、オーテム瓜一つをとってもこれだけ仕事がある。

 この上に大量のナルガルンの首から防具を作る作業だの、トランプと呼ばれる謎のカードの製造だのがあり、領内に暇な人間がすっかりいなくなってしまったのだ。


 今までは窮地であったから新たな救いを求めてリングスに話を聞きに来ていた人が主であった。

 しかし領内での生活が安定する見込みがつき、そういった不安もすっかり解消されてしまったのだ。

 

「大神官様……大役を任せていただいていたのに、申し訳ございません……申し訳ございません……。私が至らないがばかりに、こんな、この様な……。ああ、大神官様へ、いったいどう顔向けすればよろしいのか……」


 リングスは悔し涙を浮かべながら俯いた。

 そうすると、脳裏には白髪の魔術師、アベルの顔が浮かんでくる。

 あれさえいなければ、ナルガルンが突破されることも、雨を降らされることも、魔草が根こそぎ滅ぼされてあんな意味のわからない瓜で領地が埋め尽くされることもなかったのだ。

 憎さのあまり、リングスは表情を歪める。


 今や長老ロウブの家にも、リングスを含めて五人しかいない。

 それも彼以外の四人はロウブを筆頭に全員老人である。


 信仰のために来たというよりは、暇だったから老人同士で顔を合わせに来たといった調子である。

 信仰のためというのは、ほとんど建前に成り下がっていた。

 日を跨ぐごとに目に見えて信仰に対する態度が薄れていき、今日に至っては最早それを隠そうという意思さえ感じられない。


「む、むむ、見切ったぞ! こちらが道化じゃ!」


 長老ロウブが、歳に似合わぬ熱の籠った声で言う。

 リングスがちらりと様子を窺えば、老人四人で例のトランプとやらを楽しんでいるようであった。


「はー! 強っ! ロウブさん強っ!」

「ロウブさんが二択で見切ったのは、これで五回連続じゃないか!」

「ほほ! 伊達に長生きしとらんわ! アウンドは目に出やすいからのお」

「なるほど目をみればよいのか!」

「ワシの真似をしたからと言って、同じことができるとは限らんがな?」

「次からロウブさんが引くときは目を閉じておくことにしよう」

「ああっ! そ、それはルール違反じゃ! ルール違反じゃろ!? なぁ!?」


 完全に長老の家に遊びに来たつもりでいる。

 リングスもなぜ自分がここにいるのか、意味がわからなくなっていた。


 リングスは怒りに打ち震えながら老人四人がトランプ遊びに興じる様を見ていた。

 内心ぶっ殺してやろうかと思っていたし、恐らくそれは表情にも出ていた。


 リングスの視線に気が付いた老人、アウンドが彼を振り返る。


「どうかな、宣教師さんや。ひと勝負、如何か?」


 リングスはぐっと堪えて笑みを浮かべる。


「……いえ、自分は遠慮させていただきます」


「ほっほ、リングスさんや、ワシらに負けるのがそんなに嫌ですかな?」


 リングスはロウブがそう言ったのを聞いて、『何言ってんだコイツ』と思ったが、それでもどうにか堪えた。

 アベルが来てから連敗続きでかなり苛立っていたところに『ワシらに負けるのがそんなに嫌ですかな?』は、冗談めかした言葉だと理解はできてもそれでも尋常ではないほど腹が立った。

 それでもリングスは堪えた。

 こんな四人でも、最後の信者である。

 ここを足掛かりに、何か、何か手があるはずなのだと……。


「ああ、目を瞑るのはなしですぞ! 目を瞑るのは、なんというかいかん。面白味に欠ける。ほら……ルールでも禁止だった気がする」


「ゴチャゴチャうっせぇぞクソジジイ!」


 さすがのリングスも限界だった。


 部屋内が一気に静まり返る。

 リングスはその中心で息を荒くし、肩を上下させた。


 アベルが領民の不安を和らげようと思って提案したトランプであったが、アベルのまったく知らないところで敵方であるリングスに予想外の大ダメージを叩き込んでいた。


 お互い身を寄せ合って震えるトランプ四人衆を見下しながら、リングスは考えていた。


(一刻も早く、アベルを殺すしかない……。あれがいる限り、もう何をやっても無意味だ。私では無理だ、大神官様に出てもらうしかない。大神官様が一度襲撃を仕掛けて失敗したと仰っていたが、全力で戦えばその限りではないだろう。しかし、戦っている様子を見られるのはマズい……。どうにかアベルに、単身で村を離れてもらわねば)

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