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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第四章 ファージ領の改革
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二十九話 錬金術師団⑪

 早速ラルクに話を通し、広間に場所を陣取って研究成果の発表を行うことにした。

 急だが、イカロスとの約束の日は明日である。

 今日中に決着をつけねばならない。


 私兵団を動かしてもらい、領全体に話を広めてもらった。

 予定時刻になる頃には、三百人以上の領民達が集まってきていた。

 今日来ていない人達にも、彼らの口から耳に入ることだろう。


 三百の人混みの中心にいるのは、俺とメア、リノア一派の魔術師六人組である。

 一応、警備に来てくれた私兵団の団員が二名ほど俺達の近くにいる。

 他にも何人か人混みの整理に当たっているようだった。


「なんだ、ようやくイカロス芋が完成したと聞いてきたのに、イカロス様はいないのか?」

「これから来るところだろ」

「顔ぶれもなんだかおかしい気がするんだが」


 面子に不満があるのか、領民達は不安気にざわついている。

 領民達は皆、錬金術師団がついに作物を完成させたと聞いて、イカロスの派閥に違いないと思い込んでいたようだった。


「期待して来たのに、どういうつもりだ! こっちだって暇じゃあないんだぞ!」


 中には罵声に近い言葉も混じっている。


「……そういえば、あのイカロスって人いませんね? 呼ばれてなくても真っ先に駆けつけてきそうなのに」


 メアが手で双眼鏡を作り、群衆を見回す。

 メアの目線を追うと、人混みを掻き分けてこちらに近づいてくるラルクとユーリスが見えた。

 ラルクがこちらに手を振る。


「言われた通り、急ぎの仕事をでっち上げてイカロスの方に回しておいた。今は研究室の奥に籠っている。イカロスは部外者が研究室に入ると恐ろしく不機嫌になるから、わざわざ中に入ってこちらの様子を知らせる者はいないだろう」


 それに領民の様子を見ている限り、この呼びかけ自体イカロスが開いたと思い込んでいる人ばかりのようだ。

 知らせに行く理由がない。


 とはいえ、イカロスの耳に入る可能性はゼロではない。

 これは時間が稼げたらいいな、程度の牽制である。


「そ、そんな根回ししてたんですか……」


 メアが若干引き攣った顔で笑った。


「念には念を、な。ありがとうございます、ラルクさん」


「……とはいえ、急いで取り繕ったものだから、本格的に進めればすぐにおかしいと思うはずだ。外の様子を何かで勘付くかもしれないし」


「出鼻挫かれるのが嫌なだけだったんで、大丈夫ですよ。イカロスが来るまでに空気を固めておきましょう」


 イカロスの警戒すべき点は口の上手さであるが、逆に言えばそこくらいだ。

 研究報告書を見ている限り、大した魔術師ではない。

 領地が不安定な間ならば上手く領民の希望になることでファージ領を支配できていたかもしれないが、皆が冷静になってメッキが剥がれればただの人である。


「……あんまり、あの人、舐めて掛からない方がいい」


 俺の気持ちが緩んでいるのを察してか、リノアが口を挟んできた。


「あ……はい、気は引き締めておきます」


「連弾のイカロスといえば、二十年ほど前はディンラート王国内でその名前を知らない魔術師はいなかったそうだ。当時、私はまだ小さかったからよく知らなかったが、父がイカロスを見たとき、腰を低くして擦り寄っていたのを覚えている」


 ラルクが苦々しそうに言う。

 話を聞いて納得した。妙に深く根を張っていると思ったら、そんな昔からここにいたのか。


「あいつがこの領地に来たとき、私の父が、あわよくばこの地の専属の魔術師になってもらおうと熱心に接待していたのが事の始まりだ。以来増長し続け、私の代にまで残る悩みの種になっている」


「前代からでしたか……」


 そりゃラルクよりも影響力があるわけだ。


「元より、イカロスは研究向きというよりは実戦向きの魔術師だ。対人能力の高さが評価され、A級冒険者候補にまで登ったことがあると、自慢げに話しているのを耳にしたよ。面倒ごとが嫌だからか、父に錬金術師団の創立を迫り、領地改善のため研究に専念したいという建前で、魔獣討伐にはほとんど顔を出さなくなってしまったが……」


 思っていた以上にろくでもない……。

 俺が言葉を失っている間に、ラルクは話を続ける。


「君もかなり腕に自信はあるだろうが、荒っぽいことになるのは絶対に避けてくれ。イカロスが破れかぶれになったら、何を仕掛けて来るかはわかったものじゃあない。私兵団を収集したのは人混みの整理という建前だけど、イカロスが暴力に打って出てこないための抑止力というのが本音だ」


 暴力って……それは少し、考え過ぎではないだろうか。

 そんなことをすればイカロス自身この領地にはいられなくなってしまうどころか、下手をすれば投獄案件である。


「……さすがに、そこまではしないんじゃないですか?」


「イカロスにとっては、二十年間保ってきた天下だろうからね。君が開発したあのリノア瓜……」


「オーテム瓜」


 横からリノアの素早い訂正が入った。


「……オーテム瓜は、イカロスの長年の研究を完全に否定するものになる。この場の空気さえ掴めば、イカロスは完全にこの領地での居場所を失うだろう。正直に言うと、私は少し怖くなってきたよ」


 そんな馬鹿なことはしないだろうと思っていたが、追い詰めすぎる、ということか。


 ……元A級冒険者候補の魔術師か。

 ちょっと、どんな魔術を使うのか気になる。


「ええ、わかりました! 後日に会談の席を設け、穏便に妥協点を探り合い、イカロスの影響力、発言力の縮小に留めたいところですね!」


「う、うん」


 俺の勢いに気圧され、ラルクが一歩退いた。


「アベル……ほ、本当にわかってますか?」


 メアが小声で俺にそう尋ねる。


「ああ、わかっている。必要以上に攻撃せず、追い詰めず、煽らず、だな」


「…………」


 俺はイカロスの研究報告書の写しをこの場に持ってきている。

 魔術の心得がないものでも手を抜いている部分がはっきりとわかるように、丁寧に赤字で訂正を入れまくっている。

 これをどのタイミングで出すかが重要だな。


「では予定よりも早いですが、そろそろお披露目を始めるとしましょう」


 俺はポケットからオーテム瓜の種を取り出し、手に握った。

 イカロスが来るまでに、イカロスの絞首台を完成させておかなければならない。


 杖を取り出し、振るう。


হন(運べ)


 俺の言葉に答えるように、オーテム型鉢が手許に現れた。

 世界樹製ではないので転移の魔術で手許に寄せるのは少々魔力が嵩むが、ファージ領内程度の距離ならば問題はない。

 元々魔力量には自信があるし、転移の魔法陣もここ最近、適当に弄っていたら低コスト化に成功したところである。


 オーテム瓜は土に埋めても育つのだが、オーテム型鉢で育てた方がずっと成長が速い。

 今回はパフォーマンスが目的なのだから、こっちの方がいいだろう。

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