表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第四章 ファージ領の改革
151/460

二十五話 錬金術師団⑦

 リノアとその部下の魔術師を引き連れ、ラルクの館へと戻った。

 リノアが執務室の扉を叩く。


「む、すまぬが少し……十分ほど後にしてくれ」


 ラルクからの返事が聞こえる。


「今は忙しいみたいですね」


 俺が声を出すと、中から騒々しい物音が聞こえる。

 ラルクが椅子が立ち上がり、扉へ近づいてきているようだ。

 リノアが扉の前から退くのと同時に扉が開けられ、ラルクが現れた。


「リノアと……おおっ、君か! うむ、やはり合流していたのだな!」


 ……一応領主なんだから、もうちょっとどっしりと構えていてほしい。

 俺の機嫌を損ねないか気を遣ってないだろうか。

 だとしたら、居心地が悪いからやめてほしい。


 執務室の中を覗くと、扉近くにユーリスが立っているのが見えた。

 恐らく机を挟んで二人で話をしていたところ、ラルクが扉の方へと歩き始めたのでユーリスもその後を追いかけたところだったのだろう。


「……あの、先客がいたのでしたら、後にさせてもらいますけど」


「あ、ああ、だったら助かるのだが……えっと……」


 ラルクがそうっとユーリスの顔色を窺うように振り返る。

 ……この人もそういや、元冒険者で今は私兵団のトップを務めていて、ファージ領の危機をどうにか遅らせてきた最大の貢献者だって聞いたな。

 ユーリスにも頭が上がらなかったりするのか。


「わ、私はその……別に、そこまで大事な用ではありませんでしたから……」


 ユーリスはラルクから目を逸らし、視線を床に落とす。


「え……いや、でも……」


「いえ、いえ、お気遣い、ありがとうございます……」


 やや早口に言って礼をし、そそくさと出口へと向かう。

 俺達と顔を合わせると礼をし、早歩きで去って行ってしまった。


「……何の話をしていたんですか?」


 尋ねていいのか悪いのか判断がつかなかったが、好奇心に負けてそのまま疑問が口に出た。


「ああ、いや……私兵団員の多くが、一度ファージ領を出たいと口にしていて……それはまぁ、予想していたことなのだが。そのことについて私が不安がっていないか、様子を見に来てくれていたのだ。自分は何があっても残るから、安心してくださいと言ってくれてな」


 ラルクは赤毛の髪を人差し指で掻きながら、ユーリスが走って行った方へと目をやる。

 俺も思わず、同じ方へと目をやった。

 すでにユーリスの姿はない。


 ……や、やっぱりタイミングが悪かったか。

 ラルクがユーリスを気遣う素振りを見せていたり、ユーリスの言葉がややぎこちなかった意味も分かった。

 話を区切り難い空気であったことが容易に想像できる。

 え、ていうか、ひょっとして恋仲だったり……。


「あそこまで恩を感じる必要などないのだがな。ユーリスに助けられたのは、私の方だというのに」


 ラルクがしみじみと言う。

 その言い方に特に含みは感じなかったので、あっさりと俺の仮説は崩された。

 ユーリスの方はともかく、少なくともラルクにはまったくそういう意識はなさそうだ。


「領主さんもそうですけど、ユーリスさんも幸薄そうですね……」


 俺と同じことを考えていたらしいメアが、小声で洩らした。

 ラルクには気付かれないよう、小さく頷いた。


「……あれ、そういえばマリアスさんは?」


 使用人にしては、館を出ている頻度が多いような気がする。

 最初に会ったときはラルクの自殺を全力で止めていたりと、大分仲がよさそうに見えたのだが。


「ん? え、ああ……あの娘には、買い出しを中心に、外出の用事を任せるようにしているんだ」


 顔を赤らめ、照れを隠すように苦笑いを浮かべる。

 ユーリスの話のときとはえらい違いである。


「そ、そうですか……」


「……あの娘はナルガルンのせいで、父親を亡くしていてね。まだ気持ちの整理もついていないようだから、なるべく墓参りの機会を作ってあげたいんだ」


 本人のいないところで勝手に広めるような話ではなかったね、とラルクは口許を押さえる。


 マリアスが外出用事の合間に、父親の墓場に寄れる時間を作ってあげているのだろう。

 ……その気遣いを、もうちょっとだけでいいのでユーリスさんにも回してあげてください。


 廊下での話し合いもなんだと執務室の中へ移動し、ようやく話したかった本題に入ることができた。


「実は、以前保留になった申請書に判をもらえないかと」


 俺が切り出すと、ラルクの顔がわかりやすく引き攣った。

 どうにか笑みを象ってはいるが、心中での葛藤が薄っすらと窺える。


 俺は以前、三十八枚の申請書をラルクに提出し、その内五枚に保留の判断をもらっている。

 三十八枚中のたった五枚とは思うかもしれないが、魔術に関する大事な部分が多く、イカロスとの短期決戦を目指すに当たり、やや足枷になっている。


「…………」


「何も全部、とは言いません。多分、この申請書を見て、警戒してこっちの許可を出すのも怖くなっちゃったんですよね」


 一枚の紙を五枚の中から抜き取ってラルクに見せる。


「……あ」


 図星だったらしく、紙を見ながらぽつりと言葉を漏らす。

 俺は更にもう一枚、やや危なく見られかねない申請書を外す。


「この三枚……今、この場で判をもらえませんか? 実は先ほど領地に帰ってきたとき、つい熱くなってイカロスと揉めてしまい、やや立場を悪くしてしまいまして……。どうしても、早急にこちらの許可が必要になってしまいました」


「でもアベル、わざと受け身になって煽らせたって……」


 俺はメアを振り返り、目を見ながら小さく首を振った。

 メアは何かを察したように黙った。


「……は、半日ほど考えさせてくれないか?」


「それだと、領地復興の大きな障害であるイカロスを取り除く機会は、多分半年ほど先延ばしになるかもしれません。ナルガルンの首も持っていかれてしまいます」


「う、うう……そう、だよなぁ……」


 ラルクは頭を押さえ、肘を机に置く。

 俺から三枚の申請書を受け取り、目を細めて中身へと目を通す。


「う、う~ん……」


 内容の再確認は時間稼ぎで、今の間に答えを出したいと、そう考えているようだった。

 ラルクが悩むのは想定済みである。

 そのためにリノアを連れてきた。


「その三枚に関しては、まず問題はない。アベル殿の滞在日数の浅さが気になるなら、あーしの方に主導権限を出してもらえれば」


 リノアが手を挙げて言う。


「アベル殿は単純な威力だけじゃなく、複雑な魔術に関してもあーしより遥かに理解がある。信頼してもいい」


「なるほど……リノアがそこまで言うのなら……」


 ラルクが俺へと手を伸ばす。

 よし、憂いは取り払われた。

 俺は心中でガッツポーズをしながら、ラルクへと三枚の申請書を渡す。


「因みに、リノアさん的にはこっちの二枚は……」


 また援護射撃がもらえないかと、期待の眼差しを向ける。

 無言で首を振られた。


「これは何について書いてあるんですか? やけに勿体ぶった書き方で、よくわかりませんけど……」


 リノアの部下の魔術師が、俺の申請書を覗き見て首を傾げる。


「一歩間違えたら、戒律違反で王国騎士団が領地ごと焼き払いに来る」


 リノアが言った瞬間、執務室内中の視線が俺に突き刺さった。

 ラルクもそこまで酷いものだとは理解していなかったらしく、判を持っていた手を止めて顔を青褪めさせる。

 も、もうちょっと信頼してくれても……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
↑の評価欄【☆☆☆☆☆】を押して応援して頂けると執筆の励みになります!





同作者の他小説、及びコミカライズ作品もよろしくお願いいたします!
コミカライズは各WEB漫画配信サイトにて、最初の数話と最新話は無料公開されております!
i203225

i203225

i203225

i203225

i203225
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ