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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第四章 ファージ領の改革
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十八話

 館に戻ってから、ラルクへの挨拶に向かった。

 重傷者が出なかったことだけ説明し、すぐにユーリス達が細かい報告をしに戻ってくるであろうことを告げた。


「特に問題はなかったのだな。いや、よかったよかった。どうにも災難続きだったから、また困ったことでも起こるのではないかと、もう、心配で心配で……」


 ラルクはうんうんと頷き、胸を撫で下ろした。

 問題はあったが、その辺りはユーリスが上手く説明してくれるだろう。


「そう言えば、魔獣の間引き計画の細かいルートは誰が設定したんですか?」


 これだけは確認しておきたい。

 絶対とは言えないが、ルートを提案した人間がハーメルンを嗾けた精霊使いである可能性が高い。

 三隊が集合した場所は、囲んで奇襲を行うのには持って来い過ぎた。

 だからこそハーメルンを動かしただけかもしれないが、少なくとも間引きの計画の詳細を知っている人間であることには間違いない。


「細かいルートか? 何とも言えないな……。私兵団と錬金術師団の中から視野の広い者を集め、訂正し合って決定したものでな。必要ならばリストアップも可能だが……なぜそんなことを?」


「少し気になったもので。えっと、錬金術師団もですか?」


 参戦は断られた、という話だったが。


「ああ。イカロスは、経験豊富で頭も切れるからな……こういうときには、いつも知恵を借りることにしている」


 ラルクは苦々しそうに言った。

 優秀な人間であることには間違いないらしい。

 ただ、それをいいことに、危険なことやしんどいことからは徹底的に理由を付けて逃げているようだが……。


「集合場所を山付近に決めたのは?」


「え? う~ん、私……だったかな。位置的にも丁度よかったし、間違えることもないし……」


 ……ここからは絞れそうにはないか。

 一応、ユーリス辺りにも聞いておくことにしよう。

 ルートを知るだけなら私兵団の人間から聞き出せば可能であるし、あまりアテにし過ぎるのも危険かもしれない。


 ナルガルンによる領地封鎖、ハーメルンによる私兵団壊滅未遂、作物への打撃……。

 これらを故意に引き起こせるならば、ファージ領を壊滅させることなど容易かったはずだ。


 生かさず殺さずを維持するメリットがあるのは、ラルクの権威が完全に失墜した後、この領地を牛耳ることができる立場にいる人間……。

 そう考えると、おのずと容疑者は絞られてくる。

 

 怪しいと思っている人間はいるが、下手に口にできることではない。

 間違えれば犯人を警戒させるだけに終わるだろうし、当たっていても抵抗されれば信用を失うのはこちらだ。

 確固たる証拠を掴めぬまま逃げらるか、向こうが口が利けなくなってしまうかで禍根を残せば、こっちが居づらくなりかねない。

 それでは本末転倒だ。


 ラルクに警戒を促すに留めるという手もあるが、それで事態が好転するとも思えない。

 言っては悪いが今のラルクに取れる対応策などないだろうし、半端に意識されてそれが元で犯人に筒抜けになってはむしろマイナスだ。

 ラルクには領の回復……というより、権威の回復にだけ務めておいてほしい。切実に。


 どうやら、敵はかなり大きな相手のようだ。

 仕留めきれる確証が持てるまでは、泳がせておいた方がいいだろう。

 あまり気は進まないが、向こうが諦めて逃げるのを待つのも一つの手だ。


 ラルクとの話が終わってから、俺は自分の部屋へと向かった。

 メアも別室を貸してもらってはいたが、まだ就眠時間でもないので俺についてきた。


「さて、ハーメルンの様子を見ないとな」


 転移の魔術で世界樹のオーテムを呼び出し、床に置く。

 杖先をオーテムへと向け、再び呪文を唱える。


পুতুল(人形よ)থুতু(吐き出せ)


 世界樹のオーテムから黒い靄の塊が抜けだし、床へとぼてっと落ちた。

 黒い靄はすぐに球状になり、小さなつぶらな瞳が二つ浮かんだ。

 人の頭くらいの大きさがあったはずのハーメルンだが、今では手乗りサイズである。


『……বেণী?(きゅ?)


 ハーメルンは身体を傾け、ぱちぱちと瞬きをした。


「な、なんだか大分可愛らしくなってませんか?」


「力を削いだからな」


 あのままではさすがに危険すぎたので、ハーメルンを構築している精霊をかなり引き剥がした。

 今後も精霊を集めて力を取り戻そうとしないよう徹底して管理する必要がある。


「目が二つになってるの、やっぱり目玉割ったせいなんじゃ……」


「不定形の悪魔だから関係ないはずだ、多分」


「ほ、本当ですか?」


 ハーメルンはごろんと転がり、俺に腹を晒した。

 ひょっとしたら降伏のポーズなのかもしれない。

 腹を指で突くと、『きゅー』と呻き声を上げた。


 ハーメルンに魔力を流し、反響する魔力で個体の情報を調べる。


「すでに召喚紋を切ってあるな」


「召喚紋ってなんですか?」


「精霊獣や悪魔が、気に入った精霊使いの身体に刻む印だ。召喚紋があれば、精霊使いは好きなときに精霊獣や悪魔を召喚することができる」


 精霊使いにハーメルンの召喚紋が残っていれば、ハーメルンを疑わしい人間の前に連れて行けば確かめることもできた。

 ただ今のハーメルンは、魔力がどこかに繋がっている感じはしない。

 恐らく、特定されることを恐れて召喚紋を消したのだろう。

 召喚に失敗し、ハーメルンが囚われの状態にあることを察したか。


 ハーメルンは知能の低い悪魔なので、元の精霊使いを聞き出すことも難しい。

 犯人探しも並行して進めるとして、今は領地を安定させることを優先するべきか。


 ハーメルンはポテンと頭を床につけ、動かなくなった。

 細長い腕のようなものが五本ほど生え、だらんと力なく垂れる。

 小さな二つのつぶらな瞳が、パチパチと瞬きした。


「……やっぱりなんだか、不気味ですね」


 メアが俺の背にそっと隠れる。


「そうか?」


 腕も干からびているようだし、本体もげっそりしているように見える。

 かなり弱っているらしい。

 あの規模の魔獣を引き連れるのに力を使い過ぎていたのか、魔術でボコボコしたせいか、世界樹のオーテムの内部があまり身体に合わなかったせいか……。


 ひょっとしたら腹が減っている……というか、魔力不足なのかもしれない。

 魔獣の誘導と攻撃を受けての身体の維持に魔力を使い尽くし、その後に結界効果付きのオーテムに監禁されていて、魔力の補給ができない状態だったはずだ。


 俺は指先に魔力を集め、ハーメルンへと近づける。

 あまりやり過ぎて力をつけられても困るから、かなり少なめに抑えておく。


 ハーメルンは疑わし気に顔を近づけたかと思うと、数多の腕を伸ばし、俺の指を雁字搦めにする。

 ガバッと大口を開け、俺の指へと吸い付く。くすぐったい。


「と、ここまでだ」


আহআহ!(アーアー!)


 ハーメルンの身体が膨らんだのを見て、俺は指をさっと引く。

 ハーメルンが口惜しそうに俺の指を見つめ、腕を伸ばす。


「しかし、こうして見ると可愛いものだな」


 ぐりぐりと腹を指で押すと、小さな細い腕を伸ばしてキャッキャキャッキャと燥ぐ。

 案外触り心地もいい。


「メ、メアもちょっとだけ、触ってみたい……かな?」


 影響されやすい奴め。

 俺が腕を引くと、ハーメルンががばっと身体を起こし、こっちへと目を向ける。

 もう終わりなの? と問いかけてくるような目であった。


 俺の陰に隠れていたメアが、そうっと腕を伸ばす。

 メアの指が触れる。


「あ……思ったより、柔らかい」


「だろ? だろ?」


 その後、しばらく二人でつつき合っていると、疲れたのかすごすごと世界樹のオーテムへと近づき、身体の形状を変えて口の中へと流れ込んで行った。

 ……お前はハムスターか。

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