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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第四章 ファージ領の改革
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十三話 魔獣被害⑥

「しかし、やりがいのない任務だったな。わざわざ出張って、ゴブリンを斬っただけとは」


「何もないに越したことはないさ。魔獣も警戒しているのかもしれんな。ナルガルンが急に死んだのだから、ナルガルンより凶暴な魔獣がどこかにいるんじゃないかと。野性の知恵は、案外侮れんぞ」


 隊員達は談笑しながら歩いていた。

 すっかり任務を終えた気分にでいるようだった。


「先の方に第三部隊を見つけたぞ! 第二もその先にいそうな雰囲気だ」


 遠視の魔法具で先を見ていた男が、声を弾ませながら言った。

 それを聞き、周囲から安堵の笑いが漏れる。


「あー……ただ、妙な霧が出てんな。ま、あれくらいなら、視界は十分確保できっか」


「霧?」


 男が続けて言った言葉に、俺は首を傾げた。


「ああ、この山脈近くでは、たまに出るんだ。山が風を遮るせいで、日中は地面が温められやすくてな。そのせいで日が沈む頃になると一気に温度差ができて、霧が出るんだよ。とはいえ、雨がめっきり減ってからはあまり見ない光景だけどな」


「確かに日は落ちつつありますけど、まだそういう時間には早くありませんか? そういうものなのなんですか? それに、なんで雨が降らないのに霧が……」


「さぁ、あまり頻繁に来るところでもないしな。あ! もしかしたら、雨が来る予兆か!?」


 見張りの男が嬉しそうに言う。

 俺はユーリスへと近寄る。


「……引き返した方が、よくありませんか? 魔獣か、もしかしたら悪魔の仕業かもしれませんよ」


「しかし、他の部隊が先に進んでいますから、ここで退くことは。伝令を出して移動するという手もありますが、霧だけだと根拠に欠けるかと……それだけでは、他部隊の隊長は、納得しないでしょう」


「そうですか……」


「それに魔獣の生態を狂わせる悪魔がいるというのなら、戦力が纏まっている今対峙することができれば、むしろ僥倖でしょう。ここを逃す手はありません」


 ユーリスはあまり深刻には考えていないようだ。

 確かに、彼女の言うことにも一理ある。

 悪魔は極端に気紛れであったり、人間とは思考回路がかけ離れていたりして、動きが読みにくい。

 イーベル・バウンのように自己顕示欲ムンムンの奴なら発見は容易だが、高位の悪魔が気配を真剣に消せば俺でも見つけることは困難だろう。

 発見できる予兆を見つけられたのならば、逃げられるより先に仕留めた方がいい。


 ただ、今回の主目的は、次回以降のための偵察であったはずだ。

 戦力が纏まってはいるが、全力でもない。


 それでも普段なら望むところだ、こっちから潰してやると意気込みたいところだが、今回に限っては、どうにも嫌な予感がする。


「伝令を飛ばして、集合場所でも変えてもらえませんか? それから話し合って動いても、問題はないでしょうし……」


「さっきから、いい加減にしろ似非魔術師! 隊長殿のやり方に口を出すんじゃない!」


 クラークが怒鳴り、俺に剣を向けた。


「おい、クラーク!」


「隊長殿も隊長殿だ! こんなガキに好き勝手言わせてたら、それこそ士気が下がりますよ、そう思いませんか、ねぇ!」


 クラークはさっきの意趣返しのように言った。

 ユーリスは隊員達の顔を見回してから、首を振った。


「……確かに、私が迷っていれば、不安を煽るばかりか。すいませんアベル殿、今回は進ませていただきます」


 ……さっきゴブリンとの交戦中に寝そべってたの、やっぱり響いてるよな、これ。

 ユーリスの立場からしても、部下の前で俺の意見で判断を変えるわけにはいかなかったのだろう。

 クラークに突かれて、立ち位置を明らかにされた後では尚更だ。


 そのまま霧を突っ切り、集合地点へと進んだ。

 霧は濃くはない。視界は悪いが、歩くのに支障が出るほどではなかった。

 霧から多少魔力を感じるが、それも強力なものではない。

 何か、魔法で水を撒く習性を持つ魔獣でもいただけなのかもしれない。

 不審点はあるが、今から何かを言っても聞き入れてはもらえないだろう。


「……それに、日照りよりはずっとマシか」


 霧のお蔭で涼しく、水気もある。

 そのおかげで、体調もそこそこ戻ってきた。

 次に何か出て来たときは、俺も十分参戦できるだろう。

 さすがに体調万全とはいえないが。


 じきに集合場所である、崖壁前のところへと到着した。

 先に第二部隊、第三部隊がついていた。


 怪我人は見当たらない。

 大した魔獣とは遭遇しなかったようだ。


 ただ、第二部隊の様子が若干おかしい。

 全員顔を青くして、何か言いたげにこちらの様子を窺っている。 


「……あいつだ、あの第一部隊の、白い奴」

「気を付けろ、機嫌を損ねたら首を刎ねられるぞ。あのナルガルンみたいに」

「あれ何に乗ってるんだ? 地獄の化け物か?」


 ……何やら、物騒なことを口走っている。

そういえば、第二部隊がナルガルンの亡骸が目視できる範囲に入るルートだったか。


 各部隊の隊長達が前に出て、状況を伝え合う。


「第一部隊、隊長ユーリス。予定通り、東側ルートを通過した。交戦はゴブリンの群れのみであり、すべて討伐済みだ。他、気になる点はない」


「第二部隊、隊長コーカスだ。魔獣を追うため、少し予定ルートを逸れた。変更後のルートは、地図に記した通りだ。交戦はハウンドの群れだが、数体仕損じた。負傷者は見ての通りゼロ、報告すべき点は……その、帰還後にさせてもらう」


 明らかにコーカスは、俺の方を見てから言った。

 とりあえず目を逸らしておいた。


「はいっ! 第三部隊、隊長マヤ! 予定通り、北側ルートを通過! 交戦はなし、遠視筒での魔獣発見はスーフィーの群れであり、規模は中! 距離があったため、移動を優先しました!」


 部隊長達による大まかな報告が終わり、私兵団達に安堵が広がった。

 ゴブリンもハウンドもスーフィーも、すべて下位魔獣だ。

 大した脅威にはならない。

 それに、他の魔獣の群れもほとんど見つからなかった。


 下位魔獣ばかりな上、遭遇頻度も低すぎる。

 あれだけ警戒していたのに、予想の十分の一以下の脅威である。

 隊員達からしてみれば、肩透かしというのが感想だろう。


 しかし、だからこそ妙な気もした。

 ナルガルンに脅えて魔獣達が逃げていたなら、山付近であるここに魔獣が集中していてもおかしくないはずだ。


「やっぱりなんか、おかしいというか……」


 世界樹オーテムを転移で手許に寄せて、本格的にな感知に取り掛かってみるか?

 そう考えて杖を構えたとき、頭上から笑い声が聞こえてきた。

 魔鉱石を引っ掻いたような、耳につく甲高い声だった。


হাসিহা-(キャハ)হাহা-(ハハ)হাহা-(ハハ)হাহা-(ハハ)


 笑い声と共に、濃密な魔力の気配が漂ってくる。

 一気に私兵団の人達は顔色を変え、辺りを見回し始めた。


「な、なんだ?」

「こ、これ、もしかして悪魔か?」

「慌てるな! 俺達は、今五十人もいるのだぞ! たかが悪魔一体に脅えることはない!」


 空を見上げると、それはいた。

 霧にとんがり帽子を被った、子供の影が浮かんでいる。


「認識疎外の結界の媒介にするため、霧を張ってたのか」


 だとしたら、なぜこんな大規模な霧を張っておいて、わざわざ先に大声を出して姿を見せたのか。

 その理由は決まっている。もう、目的を達しているからだ。


 子供の陰が揺れ、霧に溶けてぐるぐると形を変え、黒い霧状の円になった。

 姿は平面的で、球ではない。

 そこから大きな目と口が開き、また大声を上げて笑った。


হাসিহা-(キャハ)হাহা-(ハハ)হাহা-(ハハ)হাহা-(ハハ)


 ぐるぐると、目と口が上下を入れ替えて回り出す。


「あれ、ハーメルンじゃ……」


「ハ、ハーメルンだと!?」


 俺が零すと、他の部隊長と並んで悪魔を見上げていたユーリスが、目を見開いて俺を見た。

 ユーリスの声を聞き、他にも何人かの隊員達が身体を震わせて悲鳴を上げた。

 悪魔の中でも有名な部類なので、知っている人は多いだろう。


 ハーメルンのことは本で読んだことしかないが、外見の特徴が一致している。


 ハーメルン自体にそれほどの戦闘能力はないが、恐ろしいのはその性質である。

 大昔の賢者アンゲルが作った負の遺産と呼ばれる魔法具、『アンゲルの魔鏡』に及ばずとも劣らぬ悪辣な力をハーメルンは持っている、といわれることが多い。


 過去に一度だけ、ハーメルンを戦争に用いた精霊使いがいたと、歴史には残っている。

 そのときはたった一つの部隊が難攻不落の要塞を落として戦争がそのまま終結し、英雄となった精霊使いはハーメルンの力を恐れた権力者の手先に暗殺されたとされている。

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