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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第四章 ファージ領の改革
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一話 三つ首竜ナルガルン①

 アッシム支部の冒険者支援所の休憩所、その角のテーブルを俺はメア、シェイムの三人で陣取っていた。


 シェイムは俺とメアが色々とまずいことを察してくれ、調べ物や情報収集を手伝ってくれている。

 顔が広く、要領もいいため、簡潔に纏めてあれやこれやと教えてくれた。本当に助かっている。


 その上、調べ物を一日掛けになってくれたのに、手間賃は休憩所の間食と飲み物代以上はまったく受け取らなかった。

 彼女曰く、聞き込みは趣味みたいなものだから、だそうだ。


 俺は血眼になり、地図とシェイムの纏めてくれた近隣領地の情報を見比べる。

 俺はまだ、ジゼルに捕まるわけにはいかない。ロマーヌの街には戻れない。どこか、閉鎖的な地方へ逃げねばならない。


 ……それに、だ。

 ドゥーム族に追われているらしいメアを匿う必要もある。

 メアの話を聞いている限り、穏やかな目的で来たとはどうにも思えない。


「なんで……嘘……どうして、どうしてメアを……だって、そんな、メアなんて……そんな価値、ないのに……」


 メアはぶつぶつと呟きながら、身体を震わせていた。

 ……これ、完全に駄目な奴だ。


 メアは額の石がないせいで集落内で嫌がらせに遭い、半ば追い出されてきたはずなのに、なんでそんなわざわざ都会まで出張ってきて捜すようなことに……ん?

 そういえば昔、何か気に掛かることを言っていたような……。


『端折って言うとそんなところですかね。なんかメアの生まれたタイミングもちょっと悪かったそうで、あんまりずっとここにいたらヤバそうかなって。そんで母親のへそくり掴んで逃げてきてやったんですよ』


 メアと会ったばかりのとき、彼女が言っていた言葉が頭に蘇ってきた。

 ま、まさか、あれか? あれのせいなのか!?


「な、なぁ、あのヘソクリじゃないよな? あのヘソクリのせいじゃないんだよな!?」


 俺はメアの肩を掴み、身体を揺すった。


「ひゃうっ! え? い、いえ! 違います! あれは、あれだけは……絶対、違うはずです。だって……」


「ほ、本当か? 俺に気を遣ってないか? どうにか買い戻した方が……」


 多少足許を見られても買い戻せるだけの額はある。依頼で溜め込んだ分もあるし、ガストンの三十倍マネーもある。

 そんなにまずいものだったら、事情を説明してどうにか……。


「んー……アタシは詳しくは事情知らないけどー、そんな悠長に構えていいの? アベルちゃんはアベルちゃんでマズいんでしょ?」


 机に顎を乗せて冒険者新聞を読んでいたシェイムが、目線を上げて俺達を見る。

 髪がだらしなく机の上に垂れていた。


「俺は捕まっても、強制送還で妹と結婚式あげられるだけで済むからな。メアはそういうこと言ってる場合じゃなさそうっていうか……」


 俺の言葉を聞き、さっきまでぐったりとしていたメアが、椅子を押し退けて立ち上がった。


「ど、どど、どういうことですかアベル!? メ、メア、聞いてません! 聞いてませんよ、そんなの!」


「そりゃ言ってなかったもの。別に言うほどのことではないかなと思ってたし……それに、なんかその……恥ずかしいし……」


「……実はメアちゃん達、結構余裕あったり?」


 シェイムが目を細め、俺とメアの顔を見比べる。

 い、いや、こっちは必死なんだけど……。


 その後も相談を続け、ラルク・ファージ男爵が治めている、辺境にある田舎領地を目指すのがいいのではないかという結論に至った。

 ファージ領は閉鎖的で、外部との交流もほとんど持たないという。

 ひっそりと隠れていれば、居場所が割れることもまずないはずだ。


 特にここ数年は以前にも増して酷く閉鎖的で、外部との関わりがまったくなかったという。

 最近、ファージ領を訪れようとした冒険者が、道の途中で大きな三つ首竜と遭遇して逃げ帰ってきた、という噂が広まっている。

 本当だとしたら、そのドラゴンのせいで外部との連絡手段が断たれ、閉じ込められている可能性もあるのだとか。


 ファージ領は国境沿いにある領地である。

 リーヴァラス国という、水神リーヴァイの聖典の解釈を巡って度々紛争の起きている国との境の部分に位置している。ただ国境は険しく大きな山脈が連なって間を隔てているため、紛争に巻き込まれる恐れはまずないだろうということだった。

 リーヴァラス国自体大して力を持っている国ではない。規模も小さく、紛争のせいで内部で消耗しているため、他国に何かをするような余力もない。王家としても、さして警戒していないのだろう。


 だから国境近くにも関わらず、ファージ領から数年ほど交流が途絶えていたのに、放置されていたのかもしれない。


「んー……本当に、ファージ領でいいの? 本当に三つ首竜、いるかもしれないよー」


 シェイムが手を頬の両側に置き、ゆらゆらと動かす。何の真似かはわからないが、脅かしているつもりらしい。


「……そんな危機にあったら、ポーグ(伝書を運ぶ鳥)でも使って外に知らせてると思うけどな」


「それもそうだろうけど……噂が出回ってる以上、馬車もみーんな嫌がるんじゃない? これだけ人の行き来がないなら、ファージ領の冒険者支援所が機能してるのかもそもそも怪しいし……魔獣災害への対策だとか、帰りの護衛だとか、その辺りも引っ掛かるからねー」


 わかってはいるが、この近くで一番行方を誤魔化せそうなところというと、ファージ領程適しているところがないのだ。

 多分俺ならさほど治安が悪くてもどうにかやっていけるだろう。住めば都だ。

 ……馬車は、エリアさんに頼み込もう。


「そーれにー……それがなくても元々、あんまりいい噂のあるところじゃないからねー。領主がロクデナシ息子ラルクに代わってから、領民虐めて身内で贅沢して、挙句の果てに外との交流ばっさりきっちゃってるから。中じゃ酷いことになってるんじゃないかなー」


「……シェイムは、止めておいた方がいいと思うか?」


「んー……隠れたいなら、一番だとは思うよ。ただ、デメリットはしっかり把握しといた方がいいんじゃないかなって」


 今出たデメリットくらいなら、どうとでもなるだろう。

 ちょっとくらい魔獣が多かったり、領主の底意地が悪かったりしても、どうとでもできる自信がある。三つ首竜が出たとしても、正直『神の弓』よりも規模の大きい相手だとは思えない。多少あれより頑丈でも、魔術を二三発ぶち込んでやったら退かせるくらいのことはできるはずだ。


「なら、こっちで決まりだな。メアも、ファージ領でいいと思うか?」


「は、はい! メアは、アベルの行くところならどこへでも付いて行きます!」


 メアがぎゅっと袖を掴んでくる。


「そ、そうか」


 ……その主体性のなさはちょっと危うく思えるのだが、大丈夫なんだろうか。


「馬車、アタシが手配してあげよっか? 頼み回って断られ続けたりしちゃったら、噂が広まっちゃうもしれないよん?」


「知り合いの御者がいるから、どうにかなるかな……と」


「なら、そっちにしておいた方がいいかもね。もしメアちゃん達を捜している人がいたら、ルーガートにでも行くって聞いたーって、そう伝えといたげるよん」


 ルーガートは北部にある都市だ。

 ファージ領からはかなり大きく離れている。上手く釣られてくれれば、いい時間稼ぎになるだろう。


「何から何まで悪いな」


「いーっていーって。こーいうの、アタシが好きなんだから」


 方針が定まったところで冒険者支援所を出て、シェイムとは別れることになった。


「本当にありがとうな」


「そんな、何度も御礼言わなくたっていいってば。アタシ達、友達でしょ?」


 フットワークの軽い人だ。街の大半の人と友達なんじゃなかろうか。


「あ、ありがとうございました!」


「ん、メアちゃんも元気でね! アタシも面白そうだからついてってみたかったんだけど、こっちでもやりたいことがあるからねぇ……。それじゃ、また、縁があったら!」


 ひらひらと手を振り、見送ってくれた。

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