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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第三章 そして伝説へ
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三十六話 そして伝説へ⑤(sideブライアン)

 王都、エルクシア。

 ディンラート王国の中心部であるこの都市には、大きな闘技場がある。


 このエルクシア闘技場では半年に一度、闘技大会が行われる。

 そのときの開会式の一環とし、王子達による自らの側近である親衛隊隊長のお披露目が行われる。

 王家の威厳を示すため、富裕層からの徴税名目を増やすためといった狙いに加え、各々の王子達が『自分はこんなに強い者を雇うことができたのだぞ』と、現ディンラート王にアピールする意味合いが強い。


 ディンラート王国において、王位の継承は指名制である。

 これは細やかながらに王位継承争いの第一歩でもあるのだ。


 東側に立つは、第一子アルフォンス王子に仕える鎧の大男、ブライアン・ボンドである。

 オレンジのごわごわとした髭、黒ずんだ肌色の皮膚、オーガのような顔つき。

 明らかにノークスとは異なる図太い首、四肢。


 ブライアンの種族は、ダルドワーフという。

 ドワーフの中でも骨格が太く、戦闘特化型の種族である。

 ダルドワーフは戦争を好む血の気の多い種族であり、戦乱の時代に貴族の傭兵としていいように扱われ、その数を減らしていた。

 今ではすっかり希少種族である。


 ブライアンがアルフォンス王子に仕え、もう六年になる。

 当時アルフォンス王子は十三歳であり、ダルドワーフの戦士を自力で雇うような力はなかった。

 将来性を見込まれ、彼を支援する派閥の貴族から譲ってもらったのだ。


 ブライアンが大斧を軽々と担ぎながら、客席を見回す。

 さきほどまで騒ぎ立てていた観客席がそれだけで静まり返った。

 ブライアンはその反応に気を良くし、歯茎を見せて笑う。

 それから対戦相手の出て来る南門を睨んだ。


 ブライアンは強者に飢えていた。

 貴族に雇われて都合よく交渉の道具としてたらい回しにされようが、その結果王族に仕えることになろうが、そんなことに興味はなかった。

 忠誠などはない。彼にあるのはただ、強者との戦いへの飢えであった。

 強者と戦い、捻じ伏せる。それが彼の、ダルドワーフとしての喜びであった。


 ブライアンは幼少の頃、彼の師匠であるノークスの人間と旅をしていた。

 しかし九歳になるとき、盗賊団に襲われて彼の師匠は死んだ。

 その時ブライアンは、仕事を終えたつもりになって笑っている盗賊団を、たった一人で、それも素手で壊滅させた。


 その後近くの村で師匠の墓を作り、そのまま村長の家に拾われ、村での力仕事を手伝って暮らしていた。

 ブライアンはノークスの中ではかなり浮く容姿をしていたが、侮蔑の目で見られることはなかった。

 力の強い彼は村でとても重宝され、人気者として少年期を満喫していた。

 だが彼の血は、そんなのどかな暮らしでは満たされなかった。

 十六歳で村を飛び出して冒険者となり、地方領主に雇われ、気が付けば侯爵家の騎士に、また気が付けば王家の騎士になっていた。


 騎士としての暮らしの中でも、まだダルドワーフとしての血は満たされなかった。

 しかし、ブライアンはようやく自分と対等に戦えるであろう者の存在を見つけたのだ。

 それが悪魔殺し、ガストン・ガーナンドである。

 ブライアンは今までなぜこんな平和な時代に生まれてきたのかと悩んだこともあったが、彼のことを知ったとき、その悩みは吹き飛んだ。

 自分はこの男と戦うために生まれてきたのだと、ダルドワーフの本能が、ブライアンにそう告げていた。


 ブライアンは、涎が零れ落ちそうになるのを呑み込んだ。

 戦闘を前に興奮するのはダルドワーフの本能である。

 本来ならば血の歓喜に従い、涎を垂れ流しにしたいところではあったが、貴族は下品な真似を嫌う。


 南門から、第四子シャルロット王女の親衛隊隊長が現れる。


 藍色の髪、整えられた髭。

 背丈はノークスとしては高いが、それも常人の範囲である。

 藍色髪の男はぎこちなく歩み、闘技場の中央へと向かう。

 成り上がり冒険者という噂通り、こういった場には馴れていないようだ。


 藍色髪の男はブライアンと目が合うと身体を震えさせ、歩みを止めた。

 通常ならば、怖気づいているように見えただろう。男の顔は悲痛気に歪んでいるようにも見えたし、なんだか今すぐ泣き出しそうにも見えた。

 だがブライアンも、闘技場の観客達も皆、それが武者震いであることを知っていた。


 男の名は、ガストン・ガーナンド。

 数々の伝説を打ち立て、冒険者支援所の規約を覆し、短期間で伝説級にまでのし上がった正に規格外、掟破りの冒険者である。

 力だけでなく人格も優れており、無口で謙虚な一面も持ち合わせているという評判である。


 ブライアンに睨まれて凍り付いていた観客達が、再び熱狂に包まれた。


「ガストン! ガストン!」「ガストン! ガストン!」

「ガストン! ガストン!」「ガストン! ガストン!」


 ガストンコールの嵐である。

 それもそうだろう。民衆は、英雄を求めるものだ。

 圧倒的な力を持ち、人格者でもあるガストンは、正にその英雄像通りの人物であった。

 貧困街育ちの孤児から王族の騎士にまで出世するというサクセスストーリーも、彼らの琴線を擽ったのだろう。


 敵への声援の中、ブライアンは不敵に笑っていた。

 自分が勝ったとき、彼らがどんな顔を浮かべるのかを想像したのだ。


 戦いが始まったとき、先に動いたのはガストンだった。

 ガストンは剣を引き抜いてから荒い呼吸を整え、目を瞑りながらブライアンへと飛び込んできた。

 その様はヤケクソそのものにも見えたが、観客達は、きっとああいう戦い方があるんだろうと解釈した。

 勇敢と取れなくもないガストンの姿に観客達が湧き立つが、ブライアンは顔を強張らせ、怒りを露にした。


「儂程度どうとでもなると、高を括っているのか」


 ガストンはその声を聞き、足を止める。


「本気で来るがいい。今の貴様からは、まるで強者の威圧を感じん。小手先で儂の油断を誘おうなど、失望しかない」


 ブライアンがそう言った直後、彼とガストンの間に土煙が上がり、地面に大きな窪みができた。

 雷撃と恐れられる、ダルドワーフの一撃である。

 周囲の者には、魔術で地面を破壊したようにしか見えなかった。

 しかし彼は、闘技場内の誰の目にも追えぬ速さで斧を振り、地面を抉ったに過ぎない。

 極限までに高められた興奮と怒りが実現させた、完全な雷撃であった。


「あくまでも小者の皮を被るというのならば、儂が炙り出してくれるわ!」


 ブライアンは大きく息を吸い込み、大きな雄叫びを上げた。

 聞いた者の本能に命の危機を抱かせる、強者の咆哮である。

 ブライアンは、これによってガストンの本心を引き出そうとした。

 観客席中にも恐怖が響き渡り、思わず席を立つ者や、その場に崩れ落ちる者も現れていた。


 だが、ガストンは全く動じなかった。

 正確には、動じていないように見えていた。


「見事、儂の咆哮を真正面から受けてなお……む?」


 ガストンは、気を失って失禁していた。


 しばらくブライアンは何が起こったかわからず、その場に突っ立っていた。

 観客達もだんだんと静まり始めていた。


 ブライアンが顔を上げると、自分の主であるアルフォンス王子が席を立って両腕を振り上げて歓喜しているのが視界に入った。心底どうでもよかった。


 沸々と怒りが込み上げてきた。

 理由がわからないが、この戦いが盛大な茶番であったことにようやく察しが付いたのだ。

 持て余した興奮が、魔力が、殺気が、ブライアンから漏れ出していた。


 欲求の不満に憤るブライアンに、彼の血が教えてくれた。

 観客席に、今度こそ本物の強者がいることを。

 恐らく観客席に座っていたそいつは、ブライアンの咆哮を聞いて一瞬戦闘態勢に入り、魔力を漏らしたのだろう。

 ブライアンの血が、その魔力を嗅ぎ分けたのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言]  かわいそうなガストン……ひとえにテメエが弱いせいだが。
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