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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第三章 そして伝説へ
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三十四話 そして伝説へ③

 ランスロットが、施設内を見回す。


「どうした、ガストンはおらんのか!」


「お、俺様だ! 俺様がガストンだ!」


 ガストンは周囲の人間を強引に掻き分け、親衛隊隊長の前へと姿を現した。


「ふぅん、貴方がガストンね。数々の武勇は耳にしてるわ」


 シャルロット王女は、品定めでもするようにガストンをまじまじと観察する。


「回り諄いのは嫌いだから、率直に言うわ。貴方、そこの男と代わり、この私の親衛隊隊長を務めてちょうだい」


 シャルロット王女は、ばっさりと言った。

 また周囲からどよめき声が上がる。


 何を考えているんだあの王女さん。

 今まで自分に仕えてきた隊長を、ちょっと功績を耳にしただけのゴロツキに任せるなんて。

 ランスロットも納得していないのでは……と思ったが、彼は眉ひとつ動かしていなかった。


「アベル……あれ、まずくありませんか?」


 メアが心配そうに言う。


「だ、大丈夫だろう。ガストンだって、そこまで馬鹿じゃない。王女に仕えるなんて、いくらなんでもそんな……」


 そこらの弱小貴族に仕えるのとはわけが違う。

 王族を騙したとなれば、最悪首を斬り落とされたって何ら不思議ではない。

 ロマーヌの街の英雄なることに満足しきっているガストンが、今更危ない橋を渡ってあんな生意気娘の下につくメリットなぞ何もない。

 問題は、どれだけ尾を引かないように断れるか、だが……。


「はっはい! ここ、このガストン、ぜひ王女様の力……いや、お力になれればぜひ!」


 ガストンは卑屈ささえ感じさせる下手な敬語で、あっさりと了承した。


 何考えてるんだあの馬鹿。

 俺が奥へと目を向けると、ガストンの獲物の運搬を手伝っていたゴードンも、物凄い形相でガストンを睨んでいる。

 多分、俺も今あんな顔をしているのだろう。


「あらあら、そんなに緊張しなくても大丈夫よ? 図体が大きい割には、可愛らしいところがあるのね」 


「は、はいっ! はいっ!」


 さすがにヤバイ。

 誤魔化しきれると思っているのかガストンは。

 間違いなく、すぐボロが出て打ち首ものだぞ。

 下手をしたら、俺の方にまでシャルロット王女の怒りが飛んできかねない。


「ではガストン、付いてきてちょうだい。ここ、埃っぽいからあまり長居したくないの」


 シャルロット王女が身を翻すと、それに合わせて親衛隊達も配置を整え直す。


「ガストン、貴方は今日から、私の親衛隊員見習いよ。城に戻ったら、正式に親衛隊隊長となってもらうわ。ランスロットを補佐につけてあげる」


「はいっ! はいっ!」


 ガストンは勢いよく答えた後、ガッツポーズまでかましていた。

 駄目だ、このままだとあいつは行くところまで行ってしまう。完全に浮かれていやがる。


 誰かが、誰かが止めなければ。

 このままだと本気でガストンが死刑になりかねない。


「ス、ストップ! ちょっと待ってください!」


 俺はシャルロット王女の前へと飛び出した。

 メアが慌てて追いかけてくる。


「あの、その男を雇うのはもうちょっと考えてください! もうちょっとだけでいいので!」


 俺がシャルロット王女へと呼びかけたその直後、目を血走らせたガストンが俺へと飛び掛かってきた。


「邪魔をするなぁっ!」


 咄嗟に杖を構えはしたが、この場で下手に目立つのは避けたかった。

 なんかもう、本当に収集がつかない事態になりかねない。

 一瞬悩んだ後、俺は杖を振った。


「は、হন(運べ)!」


 俺は杖を手から落とし、転移させた世界樹オーテムを抱きかかえた。

 ガストンが世界樹のオーテムへと膝蹴りをかまし、俺は後方へと弾き飛ばされた。


「痛っ!」


 俺は背から倒れ、尻餅を付いた。


 オーテムガードが間に合って良かった。

 ガストンは思いっ切り鳩尾狙って来ていた。

 まともにもらっていたら、意識が持っていかれていたはずだ。


「貴様、俺様の功績を取り上げるつもりだったな? 俺様が王女様に拾われたのを見て、この好機を見過ごすのが惜しくなったか」


 ガストンが俺に詰め寄ってきて、声量を控えながら言う。


「い、いや、そんなわけな……」


「なら黙っておれ!」


 ガストンはそう怒鳴ると、王女の元へと戻っていく。

 俺は咳き込みながらオーテムを地面に置き、下っ腹を押さえた。


「早速女王様の前に飛び出す不敬な者を罰しました!」


「あらあら、いい心掛けじゃない。今後の働きを期待してあげるわ」


 コツコツと冒険者支援所の中に規則的正しい足音が響く。

 女王様一行は、早速施設の外へと出て行ってしまった。


「つつ、つ……」


 くそ、親衛隊の方は警戒していたが、まさかガストンから問答無用でキックが飛んで来るとは思っていなかった。

 オーテムガード越しに蹴られた腹が痛い。

 他にもっといい防ぐ手立てはいくらでもあったが、人目の多いこの場、特にシャルロット王女のいるここで魔術を使うのが嫌で躊躇ってしまった。


「アベル! だ、大丈夫ですか!?」


 メアがとんできてしゃがみ、俺と目線を合わせる。


「い、いや、俺は割と大丈夫だ。それより、ガストンが……」


 俺はメアの肩を借りながら立ち上がり、冒険者支援所の出入り口へと目を向ける。

 既にシャルロット王女一行の姿はそこにはない。

 冒険者達はこぞって外に出て、ガストンの旅立を見送らなければと息巻いていた。

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