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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第三章 そして伝説へ
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三十話 悪魔の杖③

 逃げ惑う人達を避けながら、メア、マイゼンと共に騒ぎの大元へと向かう。

 先を見るに、元凶は街の北部にいるようだった。


 マイゼンは人混みを上手く往なし、先へ先へと走っていく。

 鍛えているだけあり、俺なんかよりずっと足が速い。


「お、おいマイゼン! ちょっと待って!」


 マイゼンは小さく俺を振り返る。


「悪いけど、一秒でも早く先に行かせてもらう! キミほど心強いものはないんだから、絶対追いついてくれよ!」


「お前それ、後で間に合わずに死ぬパターンじゃ……」


「一旦裏通りに入りましょう! そっちからの方が早く行けそうです!」


 確かに人の流れが邪魔で、マイゼンほど上手く進めない。

 遠回りした方が結果的に早くつけそうだ。


「じゃあそっちに……」


 角を曲がって裏通りに入ろうとしようとしたところで、マイゼンの他に逃げる人と交差する方向へ駆けて行く人の姿を見つけた。


 藍色の整った髪をした、長身の男だった。

 衣服もきっちりしており、荒くれ冒険者とは一線を画す。

 腰には煌びやかな鞘の剣を差していた。


 あの人もこの異常事態を見て、率先して解決に移ろうと考えているようだ。

 この街の冒険者なんてガストンみたいなのしかいないと思っていたが、世の中捨てたものじゃあないな。


「どけ、どかんかぁ! 道を開けろぉ! 俺様が、この悪魔を仕留めた俺様が出てきてやったのだぞ! おい、止まれ! 誰か事情を説明しろ! 俺様が解決してやる!」


 ……ただのガストンだった。


 イメチェンってレベルじゃない。

 声を聞くまで全く気付かなかった。


 もみあげとくっ付いていた濃い髭を剃り落としている。

 髪型も変わっているし、服装も三日に一度しか洗ってなさそうな山賊ファッションから小奇麗なものに総替えしている。


 おまけに剣に至っては、無骨な大剣から小洒落たロングソードに鞍替えしてやがる。

 金ないからゴードンに借金してたんじゃなかったのか。

 何色気づいてんだあのおっさん。


「俺様は英雄だぞ! 道を開けろぉ!」


 俺は思わず動きを止め、ガストンをガン見してしまった。

 ぐいぐい、とメアが俺の袖を引っ張る。


「どうしたんですか? そんな珍獣を見たような目をして」


「……ああ、いや、見間違いだったかもしれない」


 俺は何も見なかったことにして、裏通りから元凶の方を目指すことにした。

 息を切らしつつも、どうにか目的の場所までたどり着いた。


 二階、三階建ての建物が並ぶ、富裕層の住宅街だ。

 商店街が近いため、普段ならば人通りも多い場所だ。


 角を曲がったとき、とんでもない光景が目に入ってきた。


 街路に、人の形の石像が並んでいる。

 三十近い石像は、どれも悲痛な表情を浮かべ、何かから逃げようと手を伸ばしているような姿で止まっていた。

 その中に剣を握り締めるマイゼンの石像と、なぜか仁王立ちのガストンの石像もあった。


「ア、ア、アベル……これって……」


 メアが何かを察したように目を見開き、肩を震えさせる。

 恐怖からか、俺の袖を握る手にも力が籠っていた。


 俺は一番近くにあった石像へと近づく。

 六歳程度の女の子の石像だ。

 肩の部位に手で触れ、撫でる。

 どす黒い魔力痕が残っていた。間違いない、石化の呪いだ。

 

 石の並ぶ奥、建物の一階部分の屋根に、一人の男が立っていた。

 深くローブを被っており、大杖を手に構えている。


「はっ! また誰かが来たと思ったら、ちんちくりんのガキではないか! そろそろ歯ごたえのある奴が来るかと思っておったのに、つまらん! つまらんぞぉ! ああ! 吾輩はもっと、もっと、ゾロモニア様のお力をこの肌に感じさせていただきたいというのに!」


 男は手にしている大杖に頬ずりしながら、ローブの奥から俺を睨む。

 一目見て、頭のいっちゃってるタイプの人だということがよくわかった。

 あれが下手人と見て間違いなさそうだ。


 ゾロモニアという名は聞き覚えがあった。有名な大悪魔の名前だ。

 どうやら今回の件は、悪魔信仰の魔術師が引き起こしたものらしい。


 俺は軽く睨み返してから、杖を取り出す。


প্রত্যাব(解呪)


 女の子の像に色がつき、石から肉へと変化する。

 生身に戻った女の子はその場に倒れ込んだ。


「きゃあっ! なな、何が……」


 今ので呪いが解けたか。

 そこまで複雑な呪いではないな。

 魔力痕から、術者の癖もだいたい掴めた。


 ローブの男が、口の端を吊り上げて笑った。


「ほう、ほう! 貴様、多少はやるようだな! そうでなくてはつまらぬ! しかし、馬鹿な奴よ。不意を突く好機を捨て、わざわざ吾輩を目前に実力を晒すとはな!」


 俺は杖の先を、ローブの男が乗っている屋根へと向ける。


শিখা(炎よ) এই হাত(球を象れ)


 杖の先端から炎の球が現れ、一直線に男へと飛んでいく。


「ファーハッハァッ! ゾロモニア様、お願いします! あの愚か者に、格の違いを見せてやってくだされ!」


 男が大杖を掲げ、「(光の)প্রাচ(壁よ)」と叫ぶ。

 光の壁が現れ、それを補強するように黒い靄が男の周囲を覆う。


『馬鹿者よけんかぁっ!』


 怒声のようなものが頭に聞こえてきた。

 直後、火の球が光の壁に触れる。黒い靄がさぁーっと散っていった。


「うむ?」


 直後、炎の球が弾けた。一瞬にして男が炎に包まれ、同時に屋根が崩れる。

 男はその衝撃に叩き落とされ、派手に地上へと転落した。

 肩から歩道と激突し、上がった土煙に呑まれていく。


「あっづぁあぁぁっ! ゾロモニア様、ゾロモニア様ぁ―ーーーっ!! どこですか、ゾロモニア様ぁーーーっ!」


 男は呻きながら、我武者羅に手を伸ばしている。

 煙の中で大杖を落としたらしい。

 不気味な魔力ではあったが、大した奴ではなさそうだ。もう大丈夫だな。


「こ、この石像って人間に戻りますよね? ね?」


「石化の中でもかなり簡易の呪いだな。術者が強い衝撃を受けたら解けるタイプだから、その内元に戻るだろう。もしも戻らなくても、ちょっと解析したらすぐ……」


「ゲホッ! ゴホッ! き、貴様、ぶっ殺してやる……。ガキが、ちょっと先手を譲ってやったらいい気になりおって……ゲホッ! ゾロモニア様の恐ろしさ、その身でとくと味わうがいい!」


 俺とメアが話していると、男が起き上がった。

 全身火傷だらけで、おまけに落下時に左半身を派手に打ち付けたせいで足と肩の骨が折れているようだった。

 あれで立てるとは思っていなかった。

 俺だと絶対無理だ。


「ゾロモニア様の力を得た吾輩はァ、無敵なのだ! ゾロモニア様は、この吾輩を選んでくださったのだ! 敗北など、あり得ん! そんなことは、絶対に許されん!」


 男は白目を剥きながらも、気力だけで持ち返す。 

 気づけのために舌を噛んだらしく、口からは血が流れている。


তারাঅভিশাপ(彼の者共を呪え)


 男が杖を掲げると、大きな魔法陣が浮かぶ。

 それと同時に紫の光が杖から洩れる。


『よせマーグス。もう止めよ、無駄である』


 呪いは二段階構造の魔法陣となる。

 必ず先に呪いを使うことを精霊に示すために魔法陣を描き、それから詳細を加えた魔法陣を重ね描きする必要がある。

 だから一段階の時点で見切ることができれば、先回りしての改竄が可能になる。


 幸い俺は女の子の呪いを解いたときに男の魔術の癖を掴んでいたし、二段目の魔法陣は、必ず前段階の魔法陣と対応する型の暗号化を使う必要がある。

 おまけに辺りの石像から、石化の呪いが得意なのだろうということにも察しが付く。


 俺は杖を振り、男が二段目の魔法陣を描いたのとほぼ同時に魔法陣の上書きを行った。

 二段目はぴったり予想通りの魔法陣だった。


পাথরপরিব(石へと変われ)


 杖先から出た紫の光が線となり、男の手足へ降り注ぐ。


「うぐぉおおおっ!?」


 マーレン族の集落で、ノズウェル相手にやった魔法陣の描き換えと原理は同じである。

 方向に関する術式を描き換えて自滅させたのだ。

 通常なら魔法陣に関与できる時間が短すぎて不可能であるが、事前に使う魔術も、暗号化も、タイミングも知っていたため被せることができた。


 別にこの方法を取る理由は一切なかったが、条件が綺麗に整っていてできそうだからやってみたという意味合いが大きい。

 正直、ちょっと気持ちよかった。


 男の手はすぐに握力を失い、大杖を落とした。その後、

 どんどん手が灰色へと変色し、硬質化していく。


「そ、そんな、こんな! こんなことが! 馬鹿な!」


 男は大杖を拾おうと手を伸ばすが、そのときにはすでに指が曲がらず、掴めなくなっていた。


「あ、ああ! ゾ、ゾロモニア様! 吾輩は、吾輩はァッ!」


 足の石化もズボンの下で進んでいたらしく、男はバランスを取れなくなってその場に倒れた。

 さすがにもう何もできないし、何をする気にもなれないだろう。


 にしても、さっきからぶつぶつと一人言が激しいとは思っていたが、あの大杖がゾロモニア様なんだろうか。

 さっき妙な声が頭に響いてきたが、あれはゾロモニアの念話の断片だったのかもしれない。


 過去の大賢者がゾロモニアを杖に封印し、『誰の手にも渡らないところへ持っていく』と言って姿を消した。それきり大賢者とゾロモニアの杖の行方を知る者はいない、というのが伝説上での流れであった。

 あの大杖は本物のゾロモニアの杖なのだろうか。


「お、おお……ゾロモニア様、この不甲斐ないマーグスめを、お許しくだされ……」


 男は腹這いの姿勢でそう言い、力なく頭を垂れた。

 それから眼球だけをぐるりと回し、それこそ呪い殺しそうな目で俺を睨んでくる。


「このガキめが! ゾロモニア様に指一本触れてみろ! そのときは、吾輩が精霊になって貴様を呪い殺してやる! ゾロモニア様に近づくなぁぁぁあっ!」


 おおう……あの人どんだけ精神強いんだ。


 この世界では、人が死ねば霊魂の一部が精霊になると信じられている。

 要するに今のは、日本風にいえば『化けて出てやる』程度の脅しである。

 精霊に死んだ人間の精神が宿ることなど、まずあり得ない。


「えっと、今度こそ……終わりましたよね?」


 メアがぎゃーぎゃーと喚き散らす男へ、憐みの混じった眼差しを向けながら呟いた。


「ああ、そうだな。被害者の石化の呪いが解ける前に、ちょっとあの大杖を調べてみるわ」


 俺が答えると、男はほとんど石化した手足を揺らしながら一層と声を大きくして喚き散らし始めた。

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