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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第三章 そして伝説へ
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知恵と破滅を求める者②(sideマーグス)

 マーグスが出てから数分と経たぬうちにオルディー修道院は崩れた。

 マーグスはその様子を眺めながら、興奮のあまり手に汗を滲ませていた。


 ゾロモニアの杖に汗が吸収されていることに気付き、マーグスは慌てて杖を地に置き、手を袖で拭う。

 ついでに額の汗も拭う。それから、ゾロモニアの杖を手に入れたのだという喜びを噛み締める。


「ああ、ああ、ゾロモニアよ! 吾輩にその偉大なる叡智を授けたまえ!」


 マーグスは息を荒げながら杖を拾い上げる。


সশব্দলোক(煩い奴よの)


 急にマーグスの背後より、声が聞こえる。


 振り返れば、青い肌を持つ子供が宙に浮いていた。

 白目は黒く、瞳は金色。その目は、人ではなく恐ろしい魔獣を思わせた。

 胸元と腰に、術式の刻まれた布切れを纏まっている。腹部には、魔法陣の刺青が彫られている。

 背からは鳥のような黒翼が伸びていた。


「ゾ、ゾロモニアなのか!? まさか、杖を出て……」


『それは違う。杖の所有者である貴様に、妾の姿を見せているにすぎぬ』


 ゾロモニアは首を振るい、人の言葉でそう口にした。

 ゾロモニア程高位の悪魔ともなれば、人語を解し、口にすることなど容易い。


 冒険者支援所の格付けを採用すれば、ゾロモニアの危険度はA級を遥かに超える。

 力、知恵、魔力。どれを取っても、人の到達できる次元ではない。


『まずは、礼を言おう。久方ぶりにあの地下から出られたことをの』


 その言葉を聞き、マーグスは表情を輝かせる。

 だがそれとは対象に、ゾロモニアは額に皺を寄せる。


『だが貴様、馴れ馴れしい。あまりべたべた触るでない。そして妾のことは、ゾロモニア様と、そう呼ぶがよい』


「も、申し訳ございません。知恵と破滅の大悪魔、ゾロモニア様!」


 マーグスはぺたりと地に頭を付け、ひれ伏す。

 その様を、ゾロモニアは鼻で笑う。


『まぁ、よいわ。……ふむ、そなた。ただの人間にしてはそれなりの魔力を持っておるの。合格といったところか。妾の封印が解けるまで、妾の手足として使ってやる。その見返りに、妾は知恵も魔力も貴様に貸してやろう。どうだ、魔術師冥利に尽きるであろう?』


「おぉ、おお! もったいないお言葉! 偉大なる大悪魔様のお気に召していただけたようで、吾輩は幸福でございます!」


 マーグスは顔を赤らめ、膝をついた姿勢でゾロモニアを見上げる。

 ただのいち人間が、大悪魔に仕えて歴史を動かし、世界に傷をつけ、名を残す。

 それほど魔術師として幸せなことはないと、マーグスはそう考えていた。


『クゥドルは……まだ眠っておるな。うむ、うむ、そうでなければ困る。あの厄介者が目覚めぬうちに、対抗手段を用意せねば』


「クゥドル? それはもしや、クゥドル神の……」


『そうせっつくない。順序立てて、世界の歴史を貴様に教えてやるからの……む、あやつが近いな』


 ゾロモニアはくるりと宙で回り、地上に着地する。

 それからそっと目を瞑る。


『おい、貴様、予定はあるか? なければ、南へ移動せよ』


「み、南でございますか?」


『そう。ここから遥かに南へ進んだ先に、街が見える』


「ここから南の街……ルーガート? マルフィリア?」


『違うの。もっと奥である』


「ロマーヌ?」


『そう、そこである。そこへ向かえ。どういうつもりか、妾の旧友がそこに隠れておる。上手く偽装しておるが、知恵の悪魔たる妾の千里眼は誤魔化せぬ。それと、あの街から妙な魔力も感じるので確認しておきたい』


 ゾロモニアが目を開き、にたりと笑う。

 口の端から八重歯が覗いた。


「ゾロモニア様の!? ということは、大悪魔でございますか! このマーグス、ぜひお会いしたい!」


『ふふ、そうこなくてはの。妾の封印を解いたのが、貴様のような話の分かる奴でよかった』


「そう言ってもらえ、光栄でございます!」


 マーグスはすっかり浮かれきっていた。


 元々マーグスは魔術至上主義を拗らせて悪趣味な実験と悪魔信仰に傾倒しており、理解者の少ない人生を送っていた。

 五歳になる頃には既に故郷で浮いており、十歳の頃に姉の結婚に支障が出ると思った両親から家を追い出された。

 ちょっと頭のおかしな団体に入ってもやっぱりマーグスの方が遥かに頭がおかしいのでそこでも浮き、人恋しい人生を送ってきた。

 今年でマーグスは二十八歳になるが、恋人はおろかまともな友人の一人もいない。


 そこへ憧れていた大悪魔ゾロモニアからの『貴様でよかった』発言である。

 おまけにゾロモニアの化身は、幼い容姿ではあるものの、目や鼻を測って構築したかのような美を持っていた。

 マーグスはすっかりのぼせ上がっていた。


『しかし、マーグスとやらよ。なぜ石化の呪いを使った? あれは発動までの時間が掛かりすぎる。それに簡易式のものでは、術者である貴様が強いダメージを負えば、呪いが解けてしまう。解析されれば、解かれてしまう恐れもある』


「吾輩の、そしてゾロモニア様の存在を知らしめるためでございます! 身内を石化された者は、吾輩を追って呪いを解こうとするであろう! それを、吾輩がゾロモニア様の力をお借りして捻じ伏せるのである! 世界中の者共が、吾輩を命を狙う! だが吾輩は、それらをすべて石に変える! 吾輩の名はすぐさま、恐ろしき大魔術師として世に広まることであろう! 世界は恐怖するのだ! そう、吾輩という存在に!」


 マーグスは両の手を広げ、大声で笑う。

 最初は敬語だったが、興奮するとどんどんと言葉遣いが崩れて行った。

 最初はゾロモニアと自分の存在を知らしめると言っていたのに、最後には完全に自分の話になっていた。

 繰り返すが、マーグスは色々と拗らせていた。


『…………そ、そうか』


 答えつつ、ゾロモニアは内心若干引いていた。


 ゾロモニアからしてみれば下手に目立つのは悪手でしかなかったのだが、それよりも所有者であるマーグスを調子付かせておいた方がいいと判断し、口出ししないことにした。


 自身の力を分け与えれば、追い込まれることなどまずあり得ない。

 それにどの道、遅かれ早かれ、修道院を強襲したことは広く知られることになる。

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