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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
第三章 そして伝説へ
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知恵と破滅を求める者①(sideマーグス)

 アベル達のいるロマーヌの街は、ディンラート王国に所属する。

 そのディンラート王国の最北の辺境地には一つの修道院がある。


 名をオルディー修道院といい、国教であるクゥドル教の信徒達が集まり、外界から離れたそこで共同生活を行って日々修行に励んでいる……というのは、建前である。

 勿論修行もしているが、本当の目的は、大悪魔を封じた杖の監視である。


 時は、アベルがイーベル・バウンを討伐する数週間前に遡る。

 オルディー修道院に侵入し、隠し扉を開け、秘密の地下室へと足を踏み入れた者がいた。

 男は深く黒いローブを被っており、手には白の手袋をしていた。


 男は通路を通り抜けた後、手にしていた杖を振るう。

 自身に掛けていた姿隠しの魔術を解いたのだ。

 姿隠しの魔術は対象物を周囲の者から認識されにくくする力を持つが、長時間の持続的な使用には膨大な魔力を消耗する。


 男の名は、マーグス・マルグノア。

 彼は悪魔的な知能と魔術の腕を持ち、それ故に故郷を追い出された魔術師である。


「やはり、やはりだ! 歴史を紐解き、捜し続けた甲斐があった! これさえあれば、吾輩は世界の頂点たる魔術師になることができる!」


 地下室の中心には台座があり、そこには一本の大杖が刺さっていた。

 先端には大きな水晶があり、禍々しい光を放っている。

 地下室の床には、杖を囲むように大きな魔法陣が床に描かれていた。


 知恵と破滅の悪魔、ゾロモニアの封印された杖である。


 ゾロモニアは悪魔が人々を支配していた、旧時代の古の悪魔の生き残りである。

 行き過ぎた知恵を人間に与え、文明を自壊へと追い込む。

 時に平和な国々の頭に利を説いて戦争に追い込み、時に麻薬の製造方法を貧民に教えて回り、時に降参寸前の小国に文明を超えた兵器を渡して戦争を十年長引かせたこともある。


 ゾロモニアの魔力と知恵さえ制御することができれば、過去のどの魔術師をも凌ぐ力を手にすることができる。

 いや、制御できなくとも、この杖を抱いて世界共々破滅できるのならそれでもよいと、マーグスはそう考えていた。


「ふ、ふふふふ、ふははははははははっ! なんと、なんと美しい杖だ! この世の何よりも美しい! ついに吾輩の目前に!」


 マーグスは杖へと手を伸ばそうとし、途中で手を止める。

 結界封印で雁字搦めにされているため、このままでは持ち帰ることができない。


 マーグスは懐から石の欠片を取り出す。

 クゥドルの身体の一部を石化し、魔力分散を妨げているものである。

 これぞクゥドル神の存在の証明であり、とんでもない価値を持っている。

 この石欠片一つで大国同士の戦争が起きかねない代物だ。


 マーグスは過去、クゥドル神の召喚を目的とした過激思想を持つ宗教団体に籍を置いていたことがあり、そこで信用を得て幹部からくすねとったのだ。

 すべては、ゾロモニアの杖を持ち出すためである。


আমি(我らが)প্রধান(主である)কুর্দি(クゥドル様)


 マーグスはそう口にしながら、石の欠片を掲げる。


শরীর(お身体)প্রত্যা(お返し)মাউস(します)


 精霊語ではあるが、呪文的な意味合いはない。

 ただ精霊語でクゥドルへ呼びかけているだけである。


 マーグスは石の欠片を宙へと投げ、杖を向ける。


অভি(呪いを)সমা(解き)সত্যচেহারা(真なる姿へ)


 石の欠片が光り、膨れ上がって一本の恐ろしい触手へと変わる。

 宙で蠢き、膨大な魔力を放ちながら宙に分散してその姿を消した。


 マーグスは杖を振るう。

 ずぅうんと大きな音が響き、地下室全体が振動する。

 部屋全体に描かれていた魔法陣が消えた。

 クゥドルの強大な魔力の断片を利用し、強引に結界の機能を潰したのだ。


 ただ、オルディー修道院自体がこの方法に耐え切れず、崩壊を始めていた。

 マーグスは崩壊など気にも留めず、今度こそ杖に手を触れる。そしてその場で膝をつき、頬を擦り付ける。


「お、おお! おおおっ! おおおおおおおっ! 感じる、感じるぞ! 強大で絶対なるゾロモニアの魔力を!」


 マーグスは持って来た杖を床に落とす。

 こちらも魔石をふんだんに使った高価な代物ではあったが、目前のゾロモニアの杖と比べればただの棒切れそのものである。

 もはやマーグスは、長年使った杖に何の価値も魅力も感じなかった。

 立ち上がってから足蹴にし、ゾロモニアの杖を台座から引き抜く。


 それと同時に、地下室の扉が開かれる。


「止まれ! 若者よ、貴様は、その杖の恐ろしさを知らんのだ」


 十数名の男が入り込んできた。

 声を上げた先頭に立つ老人を除き、一様に同じ修道服を身に着けている。

 オルディー修道院の修道士である。万が一の事態に備え、杖を護るための一流の魔術師が配備されていた。


「このマーグスが、ゾロモニアの杖の素晴らしさを知らんと申すか! ふははは、呆けた輩共め!」


 マーグスは振り返りながら、入り口に立つ修道士に向けて杖を構える。


 修道士達の先頭に立つ、老いた男が手を上げる。

 彼はオルディー修道院の院長、ヨルゼスである。

 王の側近の魔術師団の一員を務めていたが、二十年前にゾロモニアの杖の存在を重要視し、自らこの辺境の地へとやってきた。


「放て! ここはどの道もう駄目じゃ! あやつを焼き殺してから脱出し、後ほど杖を回収する!」


 ヨルゼスが叫ぶと、修道士達が一斉に杖を構える。


「「শিখা(炎の)তীর(矢を)」」


 十もの矢を象った炎が、マーグスへと飛んでいく。


(光の)প্রাচ(壁よ)


 マーグスが唱えると、マーグスの前方に白い光を纏う壁が現れる。

 更に杖から出た黒い光がそれを覆い、紫色へと染め上げた。


 修道士の放った炎の矢は途中まで真っ直ぐ飛んだ後、半数が軌道を崩した。

 不規則な軌道で飛ばし、防御を掻い潜る高等技術である。

 いくつかが光の壁を避けてマーグスへと回り込もうとするが、紫の光が伸び、矢を呑み込んで消滅させた。


「ふふふ……この杖でなければ、危なかったかもしれぬな。貴様らも名の通った魔術師だったのだろうに、こんな辺境地に追いやられ、責務も果たせず朽ちていくとはさぞ無念だろう。吾輩の知ったことではないがなぁ! 貴様らに、お似合いの最期を届けてやろう」


 マーグスがゾロモニアの杖を掲げる。


তারাঅভিশাপ(彼の者共を呪え)


 マーグスを中心に魔法陣が展開され、杖から紫の光があふれ出す。

 光は線となり、マーグスの周囲を飛び交う。


 修道士達はその光景の恐しさ、美しさのあまり、一瞬、動きを止めてしまった。

 我に返ったヨルゼスが、他の修道士達へと手を伸ばす。


「いかん! 逃げよ!」


পাথরপরিব(石へと変われ)


 修道士達を紫の光が覆うと、彼らは足の爪先から石へと変化していった。

 それに嘆き、喚きながら動かない足を引き摺って這い回る。


「ひ、ひぃっ!」

「嫌だ、嫌だぁぁあっ!」


 そして十と数えぬ内に、完全なる石へと変化してしまう。


 本来ならば、石化の魔術には周到な下準備が必要である。

 そのため戦闘に用いられることはまずあり得なかった。

 この杖は、それを容易く可能にしてしまったのだ。


「ハーハッハッハッ! そこで永遠に悔しさを噛みしめ、指を咥えて見ているがいいわ!」


 マーグスは彫刻と化した彼らにそう言い放ち、崩れていくオルディー修道院を脱出した。

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