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序曲 導く音色

 懐かしい音が聞こえる。

 まるで心に直接語りかけてくるような、でもなにを語っているのかまでは分からない。

 ただ、その音色は。

 どこか切なく、それでいてとても優しかった――。





「……つまりさ、退屈だとお前が言うのは、退屈ではない状況、退屈でなかったころの記憶が残っているから、その記憶と照らし合わせたうえでの現状的結論としてそう言ってるわけなんだよ」

 学校からの帰り道、なんとなく俺が「退屈だ」と言っただけで、この自称俺の親友である男はいい笑顔で高説してくれた。

「……理屈っぽいのは好きじゃない」

「理屈じゃなくて、摂理だろ」

 得意げに胸を張るこの頭から足まで細長い男子高校生は松永まつながといい、俺たちの通う県内でもトップクラスの進学校において常に学年二位の成績を保っている男だが、いかんせんこの通り理屈っぽく、俺は好きではない。

 なのに執拗にこいつが俺にまとわりついてくるのは――。

「こういう会話をお前以外の奴に振れるかよ。みんな頭悪い奴ばっかで、俺の話についていけないんだからさ。俺は俺以上に勉強できて頭がいいお前を買ってるんだよ、いっしょに頭使おうぜ」

 つまり、この俺が学年一位だからなわけだ。

 好きで一位になっているわけでもないのに、それだけの理由でまとわりついてくる男。

 鬱陶しいったらありゃしない。

「はあ……」

 それが聞こえてきたのは、俺がため息をひとつ吐き、なんと言ったらこのひょろひょろした口うるさい男を黙らせられるかと考えていたときだった。



「……お? なんかどっかで、三味線の音が聞こえるな」

「本当だ……」

 確かにあの独特の日本的な弦楽器の音色が、かすかだが響いてくる。

 きょろきょろと首を動かして、松永は音のする方を探していた。

「あ、あのへんか?」

 だいぶ先、駅前広場の変な顔の像の前で、人だかりができている。音もそこから聞こえているようだった。

「路上ギターならよくあるけど、三味線って珍しいな。なあ毛利、ちょっと行ってみないか?」

 行くもなにも、俺たちは駅に向かっているのだからどのみちそこへ行きつく。

 好きにしろと俺が言うと、松永は早速とばかりに駅前広場に向けて駆けていった。

 空を仰ぐ。

 夏至を過ぎたばかりで、夕方になってもまだまだ明るい。

「ああ、本当に退屈だ……」

 奴に聞こえないように、空に向かって小声で呟いて。

 それからゆっくりと、俺も駅に向けて歩いていく。



 懐かしい音だった。

 始めて聴く旋律のはずなのに、なぜそう思ったのだろうか。

 とにかく俺は、まるでその音に導かれるかのように、駅舎に直接入らずに広場で足を止めて、人だかりの中心にある音の発生源を確かめようとした。

「…………!?」

 その中心にいたのは、確かに三味線を弾いている一人の人間。

 だが俺にとって意外だったのは、その人間が俺と同じくらいの歳周りの、学生服を着た若い女の子だということだった。

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