第6話 執事?
どうも、お久しぶりです。
私は京也です。
私は今、非常に危険な状態だったりします。
「はぁっ!!」
「ちょ!あぶなっ!?」
「周りに気を散らせて!私の攻撃は最低限の動きで避けて!常にお嬢様を守れるようにして!」
「んなこと、いわ・・・れても!!!」
あとコンマ数秒、俺の動きが遅ければ綺麗なカーペットの上に俺の血が流れるだろう。
俺の目の前には、切れ味のかなり良さそうな剣を振りまわす長髪の女性。
服装はスーツなのだが、妙に剣を持っている姿が似合っている。
彼女の名前は冴子さん。
彼女はリアナの騎士らしい。
ゲームだけかと思ってたけど、ミノリア王国では名誉職らしい。
ちなみに冴子さんは日本人で、10歳の頃にミノリア王国に来たらしい。
もしかすると、リアナが日本語をあそこまで使えるのはこの人が近くに居たからかもしれない。
「京也、あなたは専属執事だよ。私がもし、敵を見逃してしまえば最後には君がお嬢様を守らなければならない。つまり、私の背中を預けるんだから、それなりに強くなってもらわないといけない」
という言葉をリアナの住む超豪邸に着いて10分後に言われたのだ。
それからほぼ2カ月。毎日朝から昼まで、昼から夜までぶっ通しで稽古を付けられている。
「隙!!!!」
「のわっ!?」
俺の服に刀が貫く。
何とか避ける事が出来たがシャツが綺麗に切れている。
もし、あと数mmずれていれば俺のわき腹が綺麗に切れていただろう。
「動きがまだ大きい。あれだと隙を突かれてお嬢様に危険が及ぶ」
「そんなこと言っても、俺2カ月前までニートですよ?」
「そんなの気にすることじゃないよ。この2カ月間ずっと私の稽古に付いてきたんだから、それなりの強さにはなっている」
「お、珍しく褒めてくれるの!」
「まぁすぐに逃げると思っていたからね」
「こういうことを予想はしてたからね。ミルフィさんも言っていたし。覚悟はできてた。まさか真剣でやられるとは思ってなかったけど」
「こっちの方が緊張感も出るし、効率が良いんだよ。死にたくなかったら本気で動かないといけないだろう?」
「そりゃそうだけど、もし俺が死んでたらどうするんですか?」
「死ぬわけないだろう。手加減してやってあげてるんだから。自慢じゃないけど、私はそれなりの技量を持っているよ?」
「でしょうね…」
そうじゃなきゃ素人相手に真剣で訓練なんてことしないだろうよ…。
パッパッとスーツの汚れを落とし、どのぐらいの穴が空いてしまったのかを確認する。
「あ~…これで今月に入って2着目…ミルフィさんに殺されそうだ…」
「その前にお嬢様に殺されるかもね」
「リアナに?」
「その服代はお嬢様のポケットマネーだよ。君に関するお金は全部お嬢様が出してくださってる」
「うそっ!?」
「知らなかったのかい?」
「あいつ、そんなこと一言も言ってなかったって」
「そう。それじゃ今の話は聞かなかったことにして。それじゃ私は行くよ」
「ありがとう、冴子さん」
シャキンと刀を鞘の中に直して、歩いていく冴子さんを見送る。
あれだけ激しい動きをして息を乱してないんだから凄いよな…。
冴子さんの身体能力に感心をしながら、豪邸の中へと入っていく。
とりあえず、このスーツをミルフィさんに見せなければ…。
今、俺が住んでいるのはリアナが日本に住む際に作られた超豪邸。
いくら掛かっているか知らないが、見たことも無い桁なんだろう。
俺はここに2カ月住んでいるが、まだこの中は把握できていない。
ミルフィさん曰く、部屋の数は100以上あるらしく、使用人は俺を含めて7人。
料理長のガルフさん。メイド長のミルフィさん。メイドのシンシアさん、エヴァさん、テレーゼさん。騎士の冴子さんのみ。
つまり、このバカでかい豪邸に住んでいるのはリアナも入れて8人だけ。
何のためにこんな大きい家に住むのか理解できないが、一国の王候補なのだから世間体ってのも必要なのだろう。
ちなみに、階級的なモノがあるとすればこういう感じになる。
リアナ>>>(超えられない壁)>>俺>ミルフィさん、冴子さん>>ガルフさん>シンシアさん>エヴァ>テレーゼさん。って感じになる。
つまり、主人であるリアナを除けば俺が一番偉い事になるのだ。
まぁそんなの関係なく、皆年上なので俺が下のように扱われているが。
俺もそっちの方が楽だから良いけど。
「…よし、ミルフィさん!すみません!」
ミルフィさんの部屋のドアを開けると同時に穴の開いたスーツを前に出す。
そして、有無言わさず俺の顔数センチ横を針が飛んでくる。
「私もさすがに堪忍袋の緒が切れそうです…」
鬼の仮面を被ったミルフィさんを見るのはこれで何度目だろう…。
初めて会った時のミルフィさんのイメージは優しいお姉さんのような感じだった。
だけど、2カ月も一つ屋根の下で暮らせば、優しいお姉さんではなく、厳しいお姉さんになる。
「冴子との訓練があるとはいえ、これで何度目ですか!!!」
「い、いや!これは冴子さんが本気でやってくるからで!」
「いいえ!冴子にはスーツを裂かないようにするように言っています!」
「でも、実際にこう…」
「それは貴方が隙を見せるからです!」
2本目の針が俺の顔の数センチ横を通り過ぎていく。
もうこのミルフィさんを止められるのは1人しかいない。
針があと数本、俺の横を飛んできそうな勢いの中、俺はポケットの中に入れている携帯をバレないように操作する。
「毎回、毎回。このスーツはいくらすると思っているんですか!!!!」
「ちょ、穴開く!ミルフィさん!穴開きますって!」
シュバババババ!!!と雨が降っているようなレベルの針が次々と飛んでくる。
もちろん、ミルフィさんは俺を殺そうとは思っていないから当たらないようにしてくれているのだが、もし、ここで俺が少しでも動いてしまえば俺の身体は穴だらけになるぐらい近くに飛んできている。
「私は今まで京也様に甘くしすぎたのかもしれません。これからはもう容赦」
「ミルフィ、それぐらいにしてあげなさい。京也、主人を呼ぶ執事なんて聞いたことがないわよ」
「お、お嬢様!?」
「やっと来てくれた…助かった」
ミルフィさんが俺の眉間に標準を合わせたと同時に部屋の扉が開くと、そこにはこの屋敷の最高権力者が現れる。
リアナ・ミノリア。俺のご主人様だ。
「それで?今日も冴子にやられたの?」
「まぁね。それよりもこれ悪かったな」
「何が?」
「リアナのポケットマネーで買ってくれてるんだろう?」
「あぁ、別に良いわよ。それよりも京也、今日の夜はここでパーティーだから準備しないと」
「そっか。わかった、それじゃミルフィさんすみません!これ、よろしくお願いします。 リアナ、逃げるぞ」
お嬢様の登場で呆気に取られているミルフィさんから逃れるようにリアナの手を引いて、部屋を出た。