第17話 ヨシヤさん最強説?
「冴子が直々に教えているだけあってちゃんとした動きができてるね。どのぐらい教えてもらってるの?」
「くそっ、ざっと数カ月って所です」
「なるほどね。それなら納得、だけど、まだ隙があるね」
「のわっ!?」
俺の腕を軽く触れただけで、何故か俺の頭が下に来る。
全く理解不能な兄妹だ…。
現在、俺は冴子さんの兄、ヨシヤさんにご教授いただいている。
どうしてヨシヤさんがこっちに来ているのか?と聞いたら「リアナ様の専属執事が気になってね」と満面の笑みで教えてくれた。
ちなみに、この人の教え方は冴子さんよりまだ楽だ。
冴子さんのパンチは喰らってしまえば痛みで意識が飛んでいきそうなのだが、ヨシヤさんのパンチは軽い。威力面では全然軽いのだ。
しかし、スピードと当てる個所が精確すぎるため、痛みを感じること無く意識を無くすことが可能。
つまり、痛みが無いだけでまだ楽なのだ。
「ふぅ。京也くんの良い所はメリハリの良さだね。攻める時は攻める、守る時は守る。の姿勢が良い。
だけど、帰ってそれが弱点でもある」
「どうして弱点なんですか?」
「京也くんは攻めてこない相手に警戒する?」
「あ~……」
「確かに防御メインなら相手の攻撃を避けることもできるし、時間稼ぎにもなる。だけど、君の場合は防御をいう面でしか考えていない。本来、防御は攻撃の一部なんだよ」
「それは分かってるんですけどね~」
冴子さんやリアナとやっているとそれは感じられる。
彼女達、特にリアナの場合は身体が小さいからどうしても防御メインになってしまう。
しかし、リアナはその不利な体勢でも俺を簡単に投げる事ができるのだ。
つまり、防御と攻撃が同時に行われているということになる。
「まぁこればっかりは頭で理解していてもできる物じゃないよ。でも理解はしてほしいから見ててね。
冴子、身体温めてくれるか?本気で攻撃してきていいよ」
「はい!」
笑顔を崩さずにヨシヤさんが冴子さんの方へ向く。
冴子さんはいつもと違う感じに背筋をピンっと伸ばし、返事をする。
やっぱり冴子さんの師匠はこの人なのか。
しばらく柔軟をして、簡単なアップをした冴子さんがヨシヤさんの前に立つ。
「よろしくお願いします、お兄様」
「うん。全力で来てくれるとありがたいかな」
「京也様が見えないと思いますが?」
「感じとってもらうだけでいいよ」
「はい。では、本気でさせていただきます」
すっ。っと冴子さんの存在感が無くなる。
彼女がそこに存在していないかのような存在感。しかし、冴子さんは確実にそこにいる。
一方、ヨシヤさんからはピリッとした息をするのも辛いぐらいの重い空気を醸し出す。
なんだ…この人達…人間か???
そんなことを思っていると、冴子さんが動きだす。
しかし、俺の目にはほとんど見えない。
なんとなく冴子さんが攻撃している。というのが分かるぐらいだ。
ヨシヤさんに対して数多くの連打を浴びせている風に見える。
しかし、ヨシヤさんは一歩も動かずにすべて受け流している感じなのだ。
この2人の戦いは、ヨシヤさんが最初にこの屋敷を襲撃したきたときに見た。
だけど、あれは演技だと思っていた。
なぜなら冴子さんが一瞬で倒されていたのだから。
しかし、今回のこれを見ればあれは演技では無かったと思い知らされる。
数分間、いや1分間も経っていないだろう。
強烈な破壊力を持つ冴子さんの連打が繰り出される中、ようやくヨシヤさんが動く。
すると、瞬きをする一瞬の間に冴子さんが地面に倒されたのだ。
「ぐはっ!?」
「スピード、パンチの重さ、精確性。すべてにおいて僕より上だよ。だけど、単調すぎる。だから、こうして僕が上から見ているんだよ」
「もう一度お願いします」
「変わらないよ。それに勘違いしちゃダメだよ。これは京也くんに手本を感じさせるためにやっている。冴子を鍛えるためにやっているんじゃないよ」
「しかし、お兄様はこんな機会でないと!」
「だって冴子とやるのはしんどいんだもの。こういう場では冴子の方が上なんだから」
「でも、一度もお兄様に勝てていません」
「それは冴子がどこかで僕に遠慮しているからだよ。力をセーブしてしまっているんだ」
「そんなことは!」
「それに僕たちはアスリートじゃない。強くなる事は主人を守ることになるから強くなっただけで人を倒すために強くなったわけじゃないよ」
「………」
「まぁ冴子がそっちの世界に行くなら僕は本気で君の両手両足を壊させて貰うけど。冴子には敵を再起不能にする方法しか教えていないからね」
ぼけーっと兄妹の会話を聞いていると最後の方になんだか物騒な言葉が出たような気がする…。
冴子さんはお兄様であるヨシヤさんの顔を数秒見ると大きく息を吐き、頭を下げる。
「ありがとうございました」
「こちらこそ。さて、京也くん、さっきの試合を見て何が分かったかな?」
「えっと…、冴子さんが恐ろしい人で、ヨシヤさんが更に恐ろしい人だった?」
「くくく、それは間違い。冴子も僕も普段は恐ろしくないよ。動きに関しては?」
「冴子さんの動きはほとんど見えませんでした。でも、ヨシヤさんの動きは動いていないからよく見れましたよ。でも、どうやって冴子さんの攻撃を避けているのかは分かりませんでした」
「ふむふむ、予想で良いから言ってみて?」
「こう、相手の攻撃を受け流すような感じですか?」
冴子さんの拳を受け止めるにはダメージが怖い。
それなら受け流すしかない。
襲ってくる拳を掌と腕で方向を変えていく風に。
「半分正解」
俺の答えに対して嬉しそうな笑顔を振りまきながら正解を答えてくれる。
「確かに僕は君の言う通り、ある程度の攻撃は受け流していたよ。だけど、半分以上の攻撃は相手が踏み込む前に潰していた。ってのが正解」
「はい???」
「口じゃ説明できないね。ゆっくり実戦してみようか」
ヨシヤさんは僕を立たせると、攻撃してくるように言ってくる。
さっきみたいに息をするのも辛いようなオーラを放っていないから俺でも殴りにかかれる。
しかし、一歩踏み込もうとすると、いつの間にかヨシヤさんの身体が近くに現れた。
「へ?」
「わかった?僕が冴子にしていたことが」
「へ?でも、なんで??」
殴れる距離にはいる。
しかし、手が出せないのだ。
決してオーラとかそういうのではない。
「人間っていうのは自分の距離感を持っている。攻撃できる距離感、防御できる距離感、回避できる距離感。もちろん、コミュニケーションを取る距離感とかね。
その距離感の内側に入られると人間は無意識の間にストレスを感じるんだよ。
つまり、今の状態は京也くんの攻撃の距離感に僕がいることでストレスを感じている」
「でも、そんなの関係なく殴れるはずじゃ」
「確かに殴ろうと思えば殴れるよ。だけど、実際に君は殴れないでいる。
たぶん、君は僕が目の前に現れた時にヤバいっ!とか思ったんじゃないかな?人は自分の身に危険が生じると堅くなる傾向があるからね」
「確かに…。つか、そんなこと俺にできるんですか?」
「ん?できないと思うよ?ねぇ冴子」
「はい。三戸君にはまずできないと思います」
「ひどっ!?」
分かっていたことではあったけど、こうして真顔で言われるのは辛い…。
「だって僕がこれできるようになったのって最近だもん」
「私はまだできませんし」
「俺は死ぬまでできそうにないな…」
こんな恐ろしく化け物染みた強さを誇っているヨシヤさんでさえ、最近できて、冴子さんはできない。
そんなの一生できるわけないじゃないか…。と大きく落ち込みながらタオルで汗を拭いた。
更新が止まってしまいすみません。とりあえず、一話だけ書けたので投稿させていただきます。
今後も更新するかしないか微妙なところですが書け次第投稿させていただきますm(__)m




