第15話 予想してたら言えよ・・・
「もう買い物は終わりで良いですか?」
そろそろ夕方になる頃に、冴子さんが僕たちを集めて言う。
リアナとミルフィさんは満面の笑みで頷き、俺は大きなため息と共に頷いた。
俺の両手には花では無く、紙袋がたくさん。
俺の右手にはリアナの買った大量の服と下着。
俺の左手にはミルフィさんの買った服と大人っぽい下着…だと思う。
もし、ここで俺がどちらかを選ばなければならない状況になった時、すぐに左手に持っている物を投げ捨てるだろう。
理由は俺がリアナ大好きー!って言うことではない。決してロリコンでは無い!
もし、そういう状況になった時、俺の主人はリアナであり、ミルフィさんではない。
リアナを第一に考えるならば、左手の大人っぽい下着が入っている可能性のある紙袋を捨てなければならないのだ。そういう風に教育されてきたのだ、今まで。それは本能的にすり込まれており、理性では大人っぽい下着の方が良いと思っていても、身体がそう動いてしまう。
恐ろしい教育を受けてきたものだと思う。冴子さんは凄い。
「それじゃそろそろ帰りましょう」
「ええ。京也行くわよ」
「あぃよ」
「京也様、本当に私の分まで持っていただいてて良いんですか?」
「大丈夫ですよ。あ、でも、リアナに何かあった時は捨てることになっちゃいますけど」
「ええ。それは理解しています。お嬢様が第一ですもの」
「まぁ冴子さんが付いていれば大丈夫でしょうけど」
そんな会話をしながら冴子さんとリアナの後ろを歩く。
しばらくデパートの中を歩き、駐車場へと着く。
駐車場の中にひときわ高級な車が止まっているのがリアナの車。
俺達はすぐに車に乗るようなことはせず、まず冴子さんが車を点検する。
もちろん、この時、リアナは俺とミルフィさんの後ろに立たせて、背中側には壁を向けている。
万が一にも射撃されてもリアナに当たらないようにするためだ。
しばらく、冴子さんが車を点検し、安全だと確認すると僕たちに手を振る。
その合図で俺とミルフィさんはリアナの壁になりながら、素早く車に乗り込む。
この車に乗り込んでしまえば、対戦車級の球を使わない限り、破壊されることは無い。
そして、ここは日本。そんな物騒な物を持っていれば速攻で警察がやってくる。
つまり、この車に乗れば98%ぐらいの確率で安全なのだ。
「そういえば京也は何も買っていないの?」
「ん?ああ。だってお金持ってないもん」
「どういうこと?」
「財布置いてきた」
「カードも?」
「かーど?そんなの持ってないよ?」
「それじゃ今まで何で買ってきたの?」
「何ってお金。ニコニコ現金払い」
「………あの屋敷ってネットで買った商品はミルフィ達が受け取りしているのよね?」
「ええ。そうです」
「ミルフィは京也からお金を預かっているの?」
「いいえ。私は特に京也様のお金は預かっていませんが?」
「……それじゃあのパソコンはどうやって買ってきたの?」
「あのパソコン?あ~、あれは俺がミルフィさんに許可を得て、ガルフさんと一緒に」
「……つまり、あなたは私の許可なく外に出たってことよね?」
「え?京也様はお嬢様の許可を得て出たのではないのですか?」
きょとん…とした顔で俺の方を見てくるミルフィさん。
ちょっと呆れたような顔をするリアナ。
あれ…俺、なんかヤバい事した?
「いや、リアナにはサプライズでパソコンをあげたかったから何も言わずに」
「はぁぁ、やっぱり」
「………」
リアナは大きなため息を吐くとミルフィの方を見る。
すると、ミルフィさんは冷や汗を出しながらリアナの方に頭を下げた。
「す、すみません!お嬢様!!」
「別にミルフィのせいじゃないわ。京也はまだ馴れていないだけだから」
「ちょ、なんでそんな謝る必要が?」
「いえ、私が教育できていなかったために起きた事態です。申し訳ありませんでした」
「どうしてそんな謝る必要が?」
「どうしてって…」
ミルフィさんが絶句しながら俺の方を見る。
その眼は今まで見てきた中で、一番怖い目だ。
俺でもこの後の展開は読める。ミルフィさんが本気で俺にキレるんだろう。
しかし、俺の予想は外れる。
リアナがキレる寸前のミルフィさんに「しょうがないことよ」と一言言い、どうしてミルフィさんがここまでキレるのかを説明してくれた。
「京也は私の専属執事よね?」
「そうだな」
「ミルフィは私のなんだと思う?」
「メイドさん」
「そう、冴子は?」
「騎士」
「正解。なら、京也、ミルフィ、冴子に共通しているものはなんだと思う?」
「ん?リアナの下っ端?」
「まぁそうね。私に仕える人ね。貴方達の主人は私なの」
「ふむふむ」
「つまり、京也たちが何かする際には私の許可が必要なの。貴方達のすべての決定権は私が持っているの」
「それは分かってる。でも、今回はサプライズプレゼントを」
「それは許されない事なのよ。例え、私にプラスになることでも、主人に黙ってすることは許されない。罰せられるの」
「そこまで厳しいのか」
「まぁね。だから、今後なにかする時は私に聞いてくれるとありがたいわ」
「わかった。とりあえず、悪かったな。 ミルフィさんもすみません」
「ミルフィ、許してあげて。今回の事は水に流します。京也は元々こちら側の人間では無いのだから。そして、これが一番京也らしい。私はこういう事をしてくれるから京也を専属執事にしたんだもの」
リアナがミルフィさんに言うと、ミルフィさんは納得できていない様子で俺とリアナを見る。
しかし、理性でそれを抑え込み、リアナに「分かりました。今回の事は申し訳ありませんでした」と言う。
ちなみに、後で冴子さんに教えてもらったことなのだけど。
もし、この行為をミノリア王国でして公になった場合、俺は良くて解雇。運が悪ければ禁固刑らしい。
ミノリア王国では主人が絶対であり、それを裏切る行為は反逆罪と同じらしい。
そんな大罪をしてしまった俺を優しく許してくれたリアナに感謝をして、屋敷に帰ったあと「ほんっとにすまなかった!」と全力で謝ると…
「まぁ予想はしてたから。絶対やってくれると思っていたし」
と楽しそうな笑顔を交えながら言ったリアナだった。




