第14話 馴れればどうということは無い!
この事態は誰にも予想ができなかったと思う。
あの冴子さんの警戒網をすり抜けてくるなんて誰も思いもしないだろう。
だから、俺はこうして非常に危険な場面に出くわせているのだ。
「い、嫌だぞ…絶対嫌だぞ!」
「諦めなさい。貴方は御主人である私の命令を無視するの?」
今までにないほど、リアナは主人らしい威厳のある声で俺に言う。
リアナの後ろにいるミルフィさんでさえ、背筋がピンっと反射的に伸びてしまうほどだ。
「そ、それとこれは関係ないだろ!」
「諦めてください、京也様。我々はリアナお嬢様のための人材なのです」
「なに、ちょっとニヤニヤしながら真面目に言ってるんですか!説得力無いですよ!ミルフィさん」
「口を慎みなさい。私の前でそのような口答えをすれば冴子に本気で訓練させることになるわよ」
「おま、それ殺人予告じゃねぇか!あの人は人の皮を被った化け物なんだぞ!………あっ」
俺のポケットの中でプルプルと震える携帯電話。
これを死の宣告なのだろう。まさに着信アリだ。
逃れることのできない死の宣告の電話。
俺はオイルの差さっていない機械のようにギリギリと恐怖の視線を感じる方へ顔を向ける。
俺の視線の先には満面の笑みをした、それは綺麗な冴子さんがいる。
「うふふ。もし、ここで私の言う通りにするなら冴子には私から話をしてあげるわ」
「うっ…」
「一時的な恥ずかしさを味わうか、三途の川手前まで行くか。どちらか選ばせてあげるわ」
リアナは完全に勝ち誇ったような顔をしながら俺に言う。
そして、俺のポケットの中にある携帯は未だにプルプルと震える。
俺に選択枠などこの世に存在しないのだ…。
俺は…リアナの手を取り、忠誠を誓う。
「お願いします。リアナ様」
「ええ。私から話はしておいてあげるわ。それじゃ行きましょうか」
俺はこうして戦場へと踏み入れたのだ。
女性下着という男立ち入り禁止地区にしてほしいレベルの場所へと。
っと、最初はこんな風に思っていたけど、1時間も居れば馴れてしまうのが人間だったりする。
「こんなのはどう?」
「大人過ぎない?リアナがそんな小さいの付けてるとか笑え…ない」
「そう。あとで覚悟しておきなさい」
口が滑ってしまった…。
リアナは俺の発言で機嫌を悪くしてしまし、ミルフィさんの方へと向かう。
「ミルフィ、京也がミルフィにはこういうのが良いって言ってるわ」
「私にですか?……ど、どうしてこんな小さくてスケスケの…」
「貴方のいつも来ているメイド服の下にこんな下着を着ているかと思うと興奮するらしいわよ」
「…………」
「ちょ、そんなこと言ってねぇ!ミルフィさんも俺の話を聞いてください!」
「京也様、少し出ていてくれませんか?貴方がここにいると何か危ない気がしますわ」
「いや、だから話を聞いてって。つか、ミルフィさんはメイド服の時点で興奮してますから!」
「………京也、冴子に殺られなさい」
「私もお嬢様に同意見です」
2人は俺をまるで汚物を見るような目で見てくる。
もし、俺がドMなら興奮材料になるのかもしれない。しかし、俺はそんなMでもないし、興奮しない。
つまり、かなり傷ついているのだ…。
俺はガクッと肩を落としながら、リアナをミルフィさんに預け、下着売り場を離れる。
どうしてだろう…、初めは入りたくなかったのに今は出るのが悲しく感じる…。
これはもしかしたら変態になったのかもしれないな…。
そんな事を考えながら距離を取って見守ってくれている冴子さんの所へ向かう。
「おや、どうしたの?」
「出ていけって言われました…」
「いや、それは知ってるけど。私が三戸くんに聞いたのはどうしてそんな悲しい顔をしているのかな?ってことだよ」
「……それは自分でも理解できないですね」
「…理解しない方が良いんじゃないかな?」
「ですね」
冴子さんだけは俺を汚物に見るような目で見ることは無い。
ただまぁ…引いてるけど…。




