第12話 何歳なんだろう?
「ふわぁぁぁ~~~……」
今日は訓練が休息日。
冴子さんが本国で行われる騎士集会に参加しているのだ。
ちなみにリアナは自分の部屋で俺が教えてあげたオンラインゲームに勤しんでいる。
「平和だな~、こういう平和な日は数カ月ぶりぐらいじゃないかなぁ…」
真っ青な雲ひとつない快晴の下で俺は自分の布団を干しながら、その影の元で寝転んでいる。
そりゃもう、普段なら近寄りもしない子鳥さん達も俺の近くに来て様子を窺ってくる。
ちなみにリアナのオンラインゲームの話だけど、彼女は廃人の素質があったらしく、すでにもう1人で狩れるレベルである。もちろん、そこまで成長しているのも俺が貸してあげている装備の影響もあるんだろうけど…。
「言ってくだされば私たちが干しておいてあげましたよ?京也様」
「ん?あ~、ミルフィさん。この楽しい時間を奪っちゃだめですよ?」
「うふふ、本当に面白い方ですね。京也様は」
クスクスと笑いながら、俺の横に座る。
「お嬢様にパソコンゲームを教えになったのは京也様ですか?」
「えと、あの…はい」
楽しそうにしているミルフィさんの顔。
しかし、声はどこか怒っているような感じが含まれている。
つまり、顔は笑ってるのに声がマジなのだ。
「えと、パソコンを買う許可は得たと思うんですけど…」
「ええ。パソコンは非常に便利なモノです。まさかゲームのためにするとは思ってませんでした」
「…で、でも楽しそうですよ?リアナ」
「知っていますか?あの子、夜に京也様が部屋を出て行った後、こっそりやっているんですよ?」
「なっ!?」
俺は一応、リアナの専属執事であり、リアナが寝るまで部屋の中で見守る義務。みたいな物があるらしく、彼女が寝るまで俺はリアナの部屋に居る。
そして、リアナには「23時を過ぎたらやらない」という約束をしているのだ。
なぜ23時というリミットがあるのか?というと、リアナの就寝時間が23時だから。
そして、就寝時間を決めているのはミルフィさんである。
ちなみに俺の就寝時間はだいたい1時程度。
風呂入ったり、明日のスケジュールを見たり、身体のストレッチをしたり…などなどをしている。
「あの子、だいたい1時ぐらいまでやっているらしいんですよ。だから最近、訓練でも動きが悪い気がしませんか?」
「あ~…そういえば欠伸が多い気がする…」
「対策、してくださいますよね?もし、お嬢様の体調に異変があれば…」
「あれば…?」
「専属執事である京也様にすべて責任が行きますので考えておいてください」
「すべてですか?」
「はい。執事は御主人のすべてを担う役割です。もちろん、勉学や訓練の面では考慮していますので私と冴子でしていますが、体調の面はすべてお任せしているはずですよ?」
「……ご、ごめんなさい」
「いえ。分かっていただければいいのです。あと」
「ま、まだあるんですか?」
「京也様はちゃんとTPOを弁えていますが、くれぐれも公の場でリアナ。と呼び捨てにしないようにお願いしますね」
「それはもう!ちゃんと弁えますから!」
「ええ。私たちには呼び捨てでお願いしますね?本来は京也様が私たちより上の立場になるのですから」
「それはどうにかなりませんか?」
「善処していただけるとこちらとしても嬉しいです」
「わかりました。なるべく善処します」
たぶん無理だろうけどね…。とは口に出さずに布団を叩く。
ミルフィさんは布団を叩く俺の姿を見ながら、いつもと違う感じの、普通の優しい女性の顔をする。
「それにしても、京也様は本当にすごいですね」
「へ?何がですか?」
「言ってはなんですけど、あのお嬢様の心をたった1日で開いて、ここまで仲良くなれるんですもの」
「俺自体はタメ口で話してただけですけどね」
「お嬢様にタメ口をできるということが私には凄いと思います。今でも友達のようにふれ合ってらっしゃいますし」
「それがリアナの求める事なら俺は何でもしますよ?まぁ命を投げ捨てろって言われたら反抗はしますけど。でもまぁ、喧嘩してほしいっていうなら喧嘩しますし、遊びたいっていうなら遊ぶ相手になりますし。あ、喧嘩って言っても口喧嘩ですよ?」
「うふふ、お嬢様に暴力をすれば私や冴子が黙っていませんよ」
「いや、リアナに潰されますから」
実力では完全にあっちの方が上だし…。
道場で何度も潰され掛けられているし…。
ちなみに俺の中の強さランキングで行くとすれば冴子さんが群を抜いていて、次にミルフィさん、リアナ、俺という形になると思う。
ミルフィさんと俺が戦ったとしたら、子どもと戯れているようなレベルだと思う。
たぶんそれぐらいミルフィさんは強い。特に針を投げる精度は冴子さん以上かもしれない。
あとあと、メイド服着てるからナイフとか扱えそうだし。
「さて、私はそろそろお仕事に戻ります。あと3時間もすれば曇り始めると思いますのでそれまでに取り入れてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
ミルフィさんがパンパンとスカートに付いた草を払い、立ち上がる。
そして、太陽のような笑顔を俺に振りまいてから屋敷の方へと入っていく。
俺はその後ろ姿を見送りながら、あの人は一体何歳なのだろう?と疑問を持った。
リアナの小さい時から知っていると確か言っていたから、リアナとは歳が離れていると思う。
それにこの屋敷のメイド長であるのだから地位も高い。
となると…30ぐらいになるのか?
「30…あんな綺麗な人が30?ないな。うん、ないない。 聞いてみたいけど…」
たぶん、それが俺の遺言となりそうだし…。
白い雲が流れる青い空を見上げながら、自分でもバカなことを考えているなぁと思い、苦笑いをしながら、太陽の温かさを身体全身で浴びた。




