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第四話~可愛い人形の悪意~

「見て!見て!私のベリーちゃん!」

「私だって、リリーちゃん!」

「私も!アイルちゃん!」

 今日、私は友達の家に来た。その途端、この会話。みんな人形の見せ合いをしているのだ。まだ、私は手に入れていない人形だ。だからみんなの会話に入っていけない。

美和みわちゃん、私の人形貸してあげる」

「私も」

「私も貸すよ」

「みんな、ありがとう……」

 人形を持っていなくてもみんなが貸してくれるのがすごく嬉しかった。


「ねぇ、お母さん、私にもお人形さん買って!」

「美和、この前買ってあげたばっかりでしょ」

「あれはもう古いの!新しいヤツが欲しい!」

「当分は我慢ね」

 はぁ~、今日もダメだった。いつもこうしてお母さんにおねだりするのだが、いつも失敗に終わっている。まぁ、いつでもいいか。

 そんな呑気な私がいけなかった。


 次の日、いつもより学校に来るのが遅れた。走って学校に行くと、もうみんな登校していた。教室に入ろうとした途端、教室から聞こえてくる会話に足が止まった。

「美和ちゃんってさ、全然人形持ってこないよね」

「ホント。いつも忘れたとか言ってるけど、無いよね、アレ」

「最近、貸すのめんどくさくない?いっぱい貸さなきゃいけないし」

「確かにー!持ってんのも古い人形だしさぁ」

 そんな会話で、私の友達が楽しそうに会話していた。

「もう次から、無視しようか」

「あっ、それいい~!」

 私の目から大きな涙の粒が零れ落ちた。私のこと、そんな風に思っていたの?私は仲間外れにされるの?

 もう教室には入れなくなり、家に向かって走り出した。


「はぁ、はぁ……」

 随分遠くまで走ってきたらしい。しかも、全速力で走ったから、道を間違えてきた。

「ここ、どこ……?」

 さらに泣きそうになる。だけど、目の前にある建物を見て、涙が止まる。

「ブラック・シャドウ……?」

 看板の文字を読んでみた。

 ブラック・シャドウって確か……。前にみんなが話していた。何でも願いを叶えてくれるお店があるって……。

 その建物は真っ黒で、入るのが怖かったけど、決意して入った。


 奥へ奥へ進んでいくと、綺麗な女の人がいた。

「あら、いらっしゃい。お嬢さん。私に用かしら?」

「あの、お人形さんが欲しいんです」

「まぁ、お人形さん?」

 その人は別に驚いた風もなく、淡々と言った。

「ちょうど良かったわ。最近入荷したばっかりなのよ」

 その人は、最近見かけるタイプの黒髪で、可愛い女の子の人形を差し出した。

「うわぁ……!」

「お洋服は二十着。目の色も変えれて、お話もできるわ。満足かしら?」

「はい!」

 私はそのお人形に一目ぼれをした。ほしい。

「じゃあ、あげる。お嬢さん、この子を可愛がってあげて。ちっとも見放しちゃだめよ?その子は嫉妬しちゃうから」

「可愛がります!」

 その瞬間、私の手の中に、その子はすっぽり入った。

「さぁ、行きなさい……」


 気が付くと、道に私はいた。

 片手を見ると、しっかりお人形さんを持っていた。学校から勝手に帰ってきたのを忘れて、私は家に一直線に帰った。


「美和、学校は?」

「えーと、気分が悪いから先帰ってきちゃった」

 ささっとお人形さんを隠し、お母さんの質問に自然に答える。

「大丈夫?」

「うん、もう平気!」

 私は適当に返事をして、二階に駆け上がった。

「お人形さん、大丈夫?」

 手元を見ると、長くふわふわの黒髪も崩れていない。すごい!

「貴方の名前は……うーん、サリー!!」

「ワタシ、サリー」

「うわ、すごい!ホントにしゃべるんだ!!」

 片言っぽい喋り方で可愛い。

「私、美和っていうの」

「ミワ、トモダチ」

「サリー、私にはサリーだけだよ」

「ミワ、ワタシモ」

 本当にすごいなぁ。確か目の色も変えれるんだっけ?

 目をカシャカシャ、と操作する。

 最初、黒かった瞳が、オレンジ、ピンク、ブルーなど、どんどん色を変えていった。

 これがあれば……もう馬鹿にさせない……!


 次の日。

「ねぇ、みんな。私、新しい人形買ってもらったの。家に来ない?」

 教室に入って、いつものグループの由里ゆりちゃん、れいちゃん、そらちゃんが集まっているところに行った。

「だって、どうする?」

 リーダー的存在の由里ちゃんがみんなに聞く。

「行ってみてもいいかも」

 みんながこそこそ言い合う。きっと私を馬鹿に出来ると思っているのだろう。もう、馬鹿になんてさせないけど。



「なにこれ!?すごい!」

 私の家で、みんなは興奮していた。

「美和ちゃん、すごーい!今度さ、私の人形と替えっこしない?」

「えっ、でも……」

 一瞬、約束が頭に浮かんだ。可愛がってあげる。大丈夫、だよね?

「ほかの友達も紹介するから!」

「うん、いいよ」

 この時のことを私は今でも後悔している。


 それからの私の毎日は最高だった。新しい友達も増え、いろんな遊びを知った。次第にサリーへの興味もなくなり、いつしかゲームにハマるようになって、サリーのことを放置していた……。


「ただいまー」

「お帰り。最近友達と遊ぶ機会が増えたわね」

「うん!」

 最近は由里ちゃん達だけでなく、いろんな友達と仲良くなっていた。毎日どこかの子の家には遊びに行くようになり、お母さんも友達が増えたと喜ぶようになっていた。

 それより、借りたゲーム攻略しなきゃ。

 私はためたお金でゲーム機を買ったのだ。おかげで、ソフトの貸し借りもしている。

 二階に上がると、早速ゲームを始めた。確か、さっき第一の草原をクリアしたとこで終わったけ……。そんなことを考えながら、顔をふとあげると、

「ひっ……!」

 サリーがこちらをぎろりと睨んでいた。気のせいだよね?まさか、最近無視してたから怒ってるとかではないよね……?

「ミワ、ワタシダケッテイッタ。ミワ、ミワ」

 サリーがこちらに近づいてくる。

「いやぁぁぁ!!」

 サリーが私に飛びつき、小さい手で私の首にその指を食い込ませる。

「うっ……!」

「ミワ、ダイスキ」

 サリーの声が響いた。


「美和、夕飯よ。美和?」

 二階に上がって来た美和のお母さんが美和を呼ぶ。だが肝心の美和はいない。

「まったく、どこに行ったのかしらね……。あら、こんな人形、うちにあったかしら?」

 机の上に並べられた人形を見ながらつぶやく。

 一つの人形は微笑み、もう一つの人形は怯えた表情をしている。怯えた人形の方はどことなく美和に似ている気がするのだが……。

 気のせいだろう。

「それより、美和、どこ?」

 また美和を呼ぶ声が響く。

 美和に似た人形の方が静かに涙を流した。



「まさか、自分が人形になるなんてね……」

 凜は一人静かにつぶやく。

「まぁ、しょうがないわ。ちゃんと可愛がってあげなかったしね。それに……」

 凜は途中で言葉を切り、

「自分の大好きだった人形になるなんて、これ以上幸福なことは無いわよ」

 凜は声を立てて笑った。

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