番外編~凜の過去~
今回は凜の過去です
なんだか、よくわかりませんが読んでみてください
もう何年も前の話。ある女の子が孤児院で暮らしていた。きちんとしていた子だったが、なかなか引き取り手が現れず、周りから嫌われていた。
「いつか、誰か引き取ってくれるって、信じてる!」
その女の子はそれが口癖だった。その女の子の名前は凜と言った。
ある日、その孤児院に老夫婦が来た。子供も作れず、長年子供が欲しかったたという。その老夫婦は部屋を見回り、凜を見つけた。
「?」
凜はことが分からない無いと言う顔で見ている。
「その子を引き取っていただけるのですか?」
職員の方は愛想よく、老夫婦に微笑む。
「ええ。なぜみなさん引き取らないんでしょう」
「本当よね」
老夫婦は、何度もうなずき合う。職員の方も頷く。
「では、後日また……」
「ええ」
「凜さん、貴方みたいな人でも引き取ってくれる親切な方がいたみたいよ。荷造りしなさい」
「ほ、本当ですか!?」
職員はこの丁寧なしゃべり方も気に入らなかった。
「嬉しい!!」
頬を紅潮させ、とても嬉しそうに笑顔を作ってみせる。今まで凜のこんな笑顔を見たことがなかった。いつも無表情しか見たことがない。過去に何があったかは知らないが。
「ほら早く」
「はい!」
凜は捨てられたころからいつも一緒のクマのぬいぐるみや、お気に入りの本、比較的綺麗な服。そんなものを小さいバッグにぎゅうぎゅうに詰め込んだ。
「その人たちが来るのはいつですか?」
嫌われてると知っていても、目上の人には敬語、これが凜のモットーだった。
「後日と言ったけど、明日来てくださるそうよ」
「明日……」
凜はこの施設が嫌いだった。みんなはどこかへ行ってしまう。だけど、私だけ残っちゃう。それに、ご飯だって、いかにも手抜きの冷めたまずい料理なのだ。
寝るときだってそう。ガタガタのベッドに薄っぺらいシーツ一枚。これでまだ、誰か同じ部屋だったらマシだが、凜は一人隔離された部屋にいた。
こんな最悪な環境にあと一日いなければならないのだ。ため息が出る。
「ほら、夕食ですよ」
職員が言う。
「はい」
食堂に向かうと、数人がいた。その中でも凜と仲良しなのは加奈子だ。加奈子も長く残っている。
「加奈子!」
「凜!明日で行っちゃうんだね……」
なんとも悲しそうに顔を歪ませる加奈子。
「ご、ごめんね」
「いいのよ。凜が幸せだったら」
にっこり笑顔を作る加奈子。
「ありがとう……」
凜は感動していた。周りは敵ばかりじゃないんだ、と。
そこへ夕食が運ばれてきた。夕食は相変わらず、食べる気を無くすようなパサパサのご飯に、少しのおかず。
でも、このおかずともさよなら。そう思うと凜は、夕食をおいしく味わうことができた。
ついにこの日がやってきた。いよいよ引き取ってもらえる日が。
「あー、ドキドキしてきた」
独り言もどこか、明るい調子だった。それに加奈子が最後に、と言って倹約にお小遣いをためて、綺麗な水晶玉をくれたのだ。小さいけど、嬉しかった。何より思いがこもっていると知っていたから。
「凜、出なさい」
「はい!」
凜は元気よく返事をして、0歳から今に至る十三歳まで過ごした施設を離れた。
「あの、凜と申します。よろしくお願いします」
その老夫婦は見るからに優しそうだった。私みたいなヤツでいいんだろうか、と思ったぐらいだ。
「さぁ、行きましょう」
「はい」
大きな車に乗り込むと、孤児院がだんだん離れていく。あんなに大嫌いだったが、離れるときは少し悲しい。加奈子と離れるのだ。それが、嫌だった。
「悲しいかい?」
老人の男の方が聞いた。まだ、名を聞いていない。苗字は確か篠山と言ったか。
「ええ、まぁ……。友達と離れるのが悲しいです。その子、すごくいい子で……。最後にって言って、プレゼントくれたんです」
「いいお友達ね。それに凜ちゃん貴方も、友達がすごく大事なのねぇ。いい子だわ」
「えっ……」
何だか変な気分だ。加奈子のことを褒めたのに自分が褒められた。くすぐったい気分だ。でも、心がフワフワしてる感じ。
そんな気分になりながら、家に着いたらしい。
家は想像していたこじんまりした家では無く、お屋敷だった。外国のお城みたい。率直な感想はそれだった。子供みたいだけど、こんな家に住むのが凜の長い夢だった。
これからの生活を思うと楽しくなってきた。
生活は上手くいっていた。凜はいい子にしていたし、篠山さん達も凜に優しく接してくれた。だが、何年経っても加奈子のことが忘れられなかった。
加奈子、引き取り手現れたのかなぁ……。
年月は経ち、凜は大学生になっていた。
最近もっぱら夢に出てくるのは、加奈子だ。どこかで会えないかなぁ?そう思っていた矢先だった。加奈子に出会えたのは。
「凜?だよね?」
「えっ!?加奈子!?」
大学の帰りに、少しお茶したいなぁなどと考えていたところに、加奈子と遭遇したのだ。
加奈子は昔より少し大人っぽくなった。前は短かった髪も今では、大分伸びている。それに比べて、凜は自分であまり変わっていない気がした。
「加奈子、よく私だって分かったね」
「もちろん。少し変わったけど、前と一緒よ。そうだ。少しお茶しない?」
「それ私も思ってた!」
凜と加奈子は久しぶりに会い、意気投合した。
凜の行きつけのカフェに入った。
「ねぇ、加奈子、里親はどんな人?」
ケーキの注文をした後、一番気になっていた質問をしてみた。
「独り立ちしたのよ」
「えっ?」
信じられなかった。あの孤児院は独り立ちできるのか?
「知ってた?あの孤児院、鉄則として、十八になったら独り立ちできるのよ。もう私の引き取り手なんてなくて……。凜がうらやましかった」
「ご、ごめん」
せっかく運ばれてきたケーキも喉を通らない。何だか、自分が責められてる気がしてきた。一人だけ先に行って……。そんな雰囲気が漂っていた。
「別にいいの。それより凜は幸せ?」
「うん!篠山さんは優しいし」
「へぇ……」
そう、凜は幸せだ。大豪邸で優しい人と一緒に暮らしている。すごく幸せ。
「さっ、行きましょ」
「え……、うん」
凜はまだケーキを半分残したまま、店を出た。何で待ってくれなかったんだろう。やっぱり怒ってるのかな?
「ごめんね」
店を出た後、謝ってみる。
「何が?」
「私だけ幸せそうにして……。加奈子は辛かったよね」
「そうよ」
その瞬間、グサッという音がした。
恐る恐る下を見ると、腹部にナイフが刺さっていた。血も出ている。通りゆく人たちも心配そうに見ている。
「何で……」
薄れていく意識の中、加奈子に質問を投げかけた。
「ずっとアンタが憎かった。金持ちに引き取られて……。アンタだって不幸な目に逢えばいいわ!」
最後に、加奈子が微笑んだのが目の端に入った。
「ん……。ここ、どこ!?」
気が付くと、どこか白い空間にいた。
「私、加奈子に会ってどうしたっけ……?」
その瞬間、すべて思い出した。加奈子に刺されたこと、凜を憎んでいたこと。
「い、嫌嫌嫌嫌!!」
思い出したくない!加奈子……信じてたのに!
その時、凜の目の色が変わった。
「復讐してやる!加奈子!」
それが占い専門店「ブラック・シャドウ」のオーナーになった瞬間だった。
凜の死後、
凜は加奈子への復讐心を忘れないため、加奈子に最後にもらったちっぽけな水晶玉を使っている。この水晶玉、加奈子の怨念のせいか、きちんと使えている。
「ブラック・シャドウ」は繁盛している。凜は永久に店を開き続ける。
加奈子が来るその日まで……。