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第三話~秀才は愚か者~

藤野ふじの!」

「……はい」

 私が一番嫌いな時。それはテストを返される時だ。なぜか?理由は簡単だ。私がとてつもないバカだから。勉強もすぐに集中力を切らしてしまう。

 早速返ってきたテストを見る。理科はまぁまぁ得意なんだけど……。ゲッ!四十点!?最悪だ……。補習決定だなぁ。今回のテストは特にひどかった。友達はテストの点を見せ合いっこしているが、私はそんなこと一生できない。

「ねぇ、愛結あゆ。テスト見せ合いっこしよ」

 えっ。いやですよ。

「う~ん、ちょっと……ねぇ」

「いいから、見せて!」

「あっ!」

 前の席の奈央なおから、無理にテストを奪われた。

「ちょっと!!」

「えぇ~!四十点!?」

 奈央の声が大きく響く。教室中が奈央の机に集まる。

「何何?」

「また、愛結がひどい点取ったんだ~」

 私の頭の中で何かが切れた。こういうことは過去何度もあった。今までは我慢してた。笑って誤魔化していた。だけど……、これは無いでしょ?

「何よ!私の気も知らないくせに!」

 私はテストを奪え返すと、教室から出た。私だって努力してる。だけど、どうしても無理なの――。

 

 学校から大分離れたところに来たらしい。今まで来たことがない場所だった。

「どこ、ここ……?」

 最悪。これで成績下がったかなぁ。ため息をつきながら、顔を上げた。

 そこには――。

「えっ……?」

 占い専門店「ブラック・シャドウ」と看板があった。ブラック・シャドウ……。確か、都市伝説で聞いたことがある。困ったことがあれば、目の前に現れて願いを叶えてくれるって。

「……」

 私は、ふらりと入っていった。


 奥へ奥へと進んでいくと、綺麗な女の人がいた。

「あら…、お客様かしら?」

「はい。叶えてほしい願いがあるんです」

「フフ、分かるわ。誰にだって、欲望はあるもの……」

 その人は怪しく微笑んだ。

「貴方、賢くなりたいんでしょう?」

「はい。それさえ叶えてくれたら……」

 涙が出てきた。今までのことを思い出して、悲しくなってきたのだ。

「辛かったのね。でも、これさえあれば大丈夫よ」

 その人は、瓶の中に入った、薬みたいなものを出した。

「これは……?」

「これはね、賢くなる薬。毎日二錠服用すれば、効果はあるわ。ただし、一日二錠以上服用しないこと。そうしないと、脳に影響を起こすの。それが守れる?」

「もちろんです!」

 その説明を聞き、私は嬉しくなった。ルールさえ守れば、賢くなれるのね。

「さぁ、行きなさい……」


 その言葉を最後に私は元の道に戻っていた。

 今のって、白昼夢?ううん、そんなことは無いわ。手にはしっかりと瓶が握られていたから……。


 その日の夜、いつも通り勉強机に向かい、唸っているところだった。明日は小テストなのだ。しかも、大嫌いな数学!

 でも、私は思い悩むことは無いのだ。この魔法の薬を手に入れたから!

 私は二錠きっちり出して、飲んだ。水色の薬で、見た感じ怪しい感じもしないし、味も普通の薬だ。だけど、飲んだ途端、すごく勉強がしたくなった。早く、シャーペンを持たなければ、おかしくなってしまいそうだ。

 その日、私は結局、いつもの二倍勉強した――。


 翌日、小テストの時、いつもなら問題を解く気もしないのだが、朝から薬を飲んだおかげで、問題がスラスラ解けた。なぁんだ、私って賢いんじゃん……。


 その日を機に、私は秀才へと変わった。

 小テストの点数をまた、奈央は見たのだが、良い点数だったので、馬鹿に出来なかった。

 それに、中間テストの点数だって、五百点満点だった。みんなが私に注目している。もう私を馬鹿にするやつはいない。――もっと、賢くなりたい……。


 それからは薬を五錠飲むようになった。ルールなんて、もうどうでもよかった。天才にさえなれればいいのよ。

 だけど、五錠飲んで数日経った後、学校を遅刻した。原因は通学路が分からなかったのだ。きっと、最近徹夜が続いてるから、寝不足だろう。

 そんな風に軽く考えていたのが間違いだった。


 それからも五錠以上飲み続けた。

 勉強はできるのだけど、日常生活に必要なことはどんどん忘れている。教室の場所が思い出せない、クラスメイトの顔が思い出せない、家族の顔も分からない……。


 パタッと、教科書が落ちた。教科書を拾い、顔を上げると鏡と目があった。

「えっ」

 誰だっけ、この人?自分の顔のはずなのだ。でも、どうしても思い出せない。

「何で…、何で!?」

 

「だから、忠告してあげたじゃない。二錠以上はダメだって……」

 凜は水晶玉に映る愛結の顔を見ながら、つぶやく。

「せっかく叶えてあげたのに。人間は愚かねぇ……」

 そういう凜の顔は少し寂しげだった。

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