第一話~欲望はシューズと共に堕ちていく~
読んでやってください。
もう嫌だ……。
私、日野愛は中学生。最近困ったことが一つ。私はバレエをしているんだけど、私の最大のライバル・北田奈美が、大会に選ばれたのだ。
私だって、頑張ってきたのに……。
もう今までのことだって、どうでもよくなってきた。私は脱力しながら、帰り道を歩いた。今日はやけ食いでもしようかな……。
いつもの帰る道とは違う道を選んで帰ることにした。
私は奈美の性格は苦手だ。表向きは優しく接してるけど、本当はすごくこちらを見下したような目で見ているのが気に入らない。昔は友達だったけど、中学生になってからは、全然仲良くしていなかった。大嫌いな奈美。私の方が絶対上手なのに……。
そんなことを思っていると、道に迷ったらしい。全然知らない道にたどり着いていた。
「どこ、ここ……?」
ふと顔を上げると、占い専門店「ブラック・シャドウ」とあった。黒い影だけあって、店の全体が真っ黒。ブラック・シャドウって……。確か、都市伝説で噂だって、前に奈美が言っていた。私も行きたいけど、重い悩みが無いと行けないって。奈美が行ったことのない店……。私はそれだけでも奈美に勝てることが一つだけでもありたい。私はそう思うと、その店に一歩足を近づけた。
中はもっと暗かった。何とか、奥にたどり着いた。奥にはとても綺麗な女の人がいた。
「いらっしゃい。私はこの店のオーナー、凜よ。ここに来たということは、何か悩みを抱えていらっしゃるのね?」
「はい……」
私は喋った。奈美のこと、私だって大会に出たいこと、などなど。凜さんは何度もうなずいた後、
「そう、それは大変だわ。でも、私の占いによると、貴方の願いが叶う方法はあるわ」
「本当ですか!」
「ええ」
水晶玉を眺めながら、その人は言う。紫色のベールをかぶり、すごく怪しげな雰囲気。でも、今の私はどうだって良かったのだ。そんなこと。
「あなたにこれを差し上げるわ」
その人がそっと差し出したのは、ピンク色の箱に入った、可愛いバレエシューズ。
「これは……?」
「私からのプレゼント。これは普通に履くだけで、効果があるのよ。ただし、ずっと履き続けないこと。それが守れる?」
私はこくこくとうなずいた。凜さんは笑顔になり、バレエシューズを渡してくれた。
「さぁ、行きなさい」
その言葉を聞いた瞬間、どこかの道にまた戻っていた。さっきのは夢なのか?だけど、私の手の中には、綺麗なバレエシューズが。私はそれを見つめると、家に全速力で帰った。
次の日。バレエの練習をするとき、もちろん私はあのシューズを履いて準備をした。
「愛?それ、新品?」
「あっ、そうなの。昨日買ってね」
「へぇ」
奈美はこんなことには気づくのが早い。それか、自分が大会に出れると決まったから、私に話しかける気になったのか。どちらにせよ腹立たしい。私は踊ることにした。
いつものように、ステップを踏んで。リズムよく。
だけど……、いつもより上手に踊れる。足取りも軽い。いつもより確実に上手い。先生たちの注目もいつの間にか私に浴びせられていた。
そして、一曲終わった。
パチパチと拍手が起こる。
「日野さん、いつの間にか上手になっていたのね。大会のことも考え直そうかしら」
やった!横目で奈美を見ると悔しそうにうつむいていた。でも、どんなに奈美が悔しがったところでこの魔法のシューズには敵わないわ。
その日を機に、私はエースになっていた。練習だって、少しだけで充分。すごくうれしい。やっぱりあの店に行けた私は幸運だったんだわ。奈美は到底私に敵わなくなって、大会も私に降板になった。
(やった。人生何もかもうまく行きすぎ)
誰もいなくなった、レッスン室で一人で微笑む。だけど、足音がした。顔を上げると、奈美だった。
「何?」
「愛さ、なんかあった?そのシューズ履いてからおかしいよ」
私のシューズを指さしながら言う。何?こいつ。私に勝てないからって!!
「うるさい!」
そういったら、私の意識とは別に、シューズが勝手に動き出し、奈美の足を強く踏んでいた。
「痛っ!」
「あっ…」
そこまでするつもりじゃなかった。ただ、黙らせようとしただけ……。
「最低!」
そういって、奈美はどこかへ行った。
ふん、どっちが最低よ。アイツ、負け惜しみじゃない。明日は本番だから、アイツをもっとそこへ貶めてやる!
「あらあら、これはどうなるかしら…」
凜は水晶玉を見つめながら、一人微笑んでいた。
ついに本番の日。いつもとは違う大舞台に胸が高鳴る。
「頑張ってくるのよ」
「はい!」
一歩足を踏み出し、ステージに出た。うん、いい。体が動く!今までより。私はより軽やかに踊った。会場は私に目を奪われている。審査員たちもこそこそしている。きっと優勝は私ね……。曲が終わると思った時。踊りを終わらせようとしたが、体が言うことを聞かない。ずっとくるくる回り続けている。
「いやぁ!誰か、止めて!!」
愛が止めようとしても、体は動き続ける。狂ってしまったように。
「代償はあなたの自由な体……ね」
遠くの方で見ていた凜がつぶやく。
「今回もアイテムは帰ってこないのね。まぁ、人間のダメな部分が見れて嬉しいけど」
凜は微笑みながら、ブラック・シャドウへ帰っていく。次のお客様を待つために……。
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