表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

表現練習

三途の川

作者: 荻雅 康一



 三途の川の春だった。

 岸に生える桜の群棲は、今が全てだと訴えかけるようにその花びらを咲き誇らせている。ぼくは岸上の「登上現世駅」の川側の入り口で彼女が「地獄門」から出てくるのを待っていた。

 地獄門は入り口に大きな赤い鳥居がそびえ立っており、川から上れるように階段が伸びている。人が行きつく最後の関門だ。船が着くたび船頭に連れられ「地獄門」と大きく書かれた門紙に飛び込んでいるのが、彼女を待っているだけで何回も見れた。

 

 ひょっとしたら彼らは、ここが地獄の入り口だと知って驚いているかもしれない。

 それほど綺麗な眺めが、この岸辺には広がっている。

 現世では、三途の川は恐ろしいイメージがあるらしい。でも、そんなのは嘘だ。桜に染まった綺麗なこの景色がそんなに恐ろしく人間には、見えるのだろうか。


 それも今から初仕事で分かることだろう。

 そうこうしているうちに紅髪の彼女が出てくるのが見えた。


「さぁ、行きますよ。ほら」


 彼女がぼくを誘うように右手を伸ばしてこちらに声をかけた。

 手を伸ばす反対の手には、彼女特製の紅色の大鎌を肩に乗せている。


 桜色の風が吹き付け、彼女の耳の少し上のところで左右に碧玉を二つ付けた髪留めで束ねている紅い髪が犬の尻尾のように揺れた。彼女は、自信に満ちた顔しており、これから向かう初仕事に余裕があるのが感じる。

 首につけている勾玉が十八付いた首飾りは、去年試験受かった時に閻魔様からもらったものだ。女性の象徴は、鬼子らしく成長しており、それを天の羽衣と薄空色の着物で包んでいる。腰には、銅を使った大きな胴台を帯留めとして使用して、背中で萌葱色の帯で形よく絞めている。


 それはとても綺麗で、普段見慣れている彼女でも見とれてしまうほどだった。

 その様子に彼女は気が付いたのか、口角あげて呆れたような照れているような顔をした。

 そして、もう一度。


「さぁ、行きますよ。色ボケ君」


 もう一度手を伸ばしてきた彼女の右手をぼくは掴んで照れて逆の手で頭の後ろの方をカリカリと掻いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ