順調な滑り出し
「お姉様、見て!このドレス、聖女様っぽくない!?」
鏡の前でくるくると回るレナは純白に金の刺繍が施された、いかにも〝清廉潔白〟を体現したようなドレスに身を包んでいた。
本来、目立つのが嫌いな私なら気後れしてしまいそうな装いだが…太陽のような華やかなレナには実によく似合っている。
「ええ。とても素敵よ、レナ。これなら誰が見ても本物の聖女様に見えるわ」
「ふふん、でしょ? さあお姉様、準備はいい?」
今日は我が伯爵領の広場で〝新聖女のお披露目〟が行われる日だ。
聖女はなにせ申告したければすればいいという緩い自己申告制なので、普通はやるとして自領でお披露目して終わり。
領民たちは我が家から聖女が出たと聞いて色めき立っている。
私はレナの背後に控え、地味な灰色のドレスに身を包んだ。
〝月の女神〟と称される私の美貌もこの地味な格好と「影を潜める」という私の強い意志によって、今はただの背景に過ぎない。
広場に出ると、割れんばかりの歓声が響いた。
「レイナ様! 」
「聖女様!」
「おお、なんと神々しい…!」
レナは満面の笑みで手を振り、聖女らしい優雅さで中央の壇上に立った。
その横で私はひっそりと目を閉じ、精神を集中させる。
『―…さあ、やるわよ』
心の中で気合を入れる。
私は服の袖に隠しながら手のひらをそっと重ね、祈る。
私の指先から溢れた魔力は目に見えないほど細い光の糸となって、壇上のレナへと繋がった。
「皆様、私の祈りを聞いてください!」
レナが芝居がかった動作で天を仰ぎ、両手を広げる。
その瞬間、私はレナを触媒にして魔力を一気に解放した。
レナの体を中心に、黄金の光が爆発するように広がった。
それは単なる光ではない。
〝治癒〟と〝加護〟が混ざり合った、神の奇跡だ。
光の波が広場を駆け抜けると、領民たちから驚愕の溜息が漏れる。
「…腰の痛みが消えたぞ!?」
「見て、あの子の傷が…ふさがっていくわ!」
「なんて温かい光なんだ。心が洗われるようだ…」
実際には私がレナを媒介にして広域に魔法をぶっ放しているだけなのだが、演出は大成功だ。
レナは光に包まれながら、慈愛に満ちた微笑みを浮かべている。
「皆様に、神の御加護があらんことを!」
その凛とした声に合わせて、私はさらにキラキラとした光の粒子を空から降らせた。
これには何の効能もない、ただの〝見栄え重視〟の魔力散布だ。
「レイナ様、万歳! 」
「聖女様、万歳!」
熱狂する群衆。
その中心で輝く妹。
私はレナの背後で微笑む。
『完璧よ、レナ。これで私は一生、聖女の姉というだけの平凡な令嬢として平穏な生活が送れるわ…』
…しかし、私は気づいていなかった。
あまりにも強力すぎる〝加護〟の光が王都まで届き、王都に設置された魔力探知機を壊して…最強と謳われる騎士団長が調査のためにこちらへ向かい始めていることを。
『偽聖女』の計画は最高の滑り出しと同時に、最大の波乱を呼び込もうとしていた。




