全ての始まり
私は昔から、目立つことが嫌いだった。
妹は昔から、目立ちたがりだった。
私は昔から我儘を言わない素直な子と言われていたが、その分人への情は親しい人にしか向けられなかった。
妹は我儘放題で、でもその分誰も彼も分け隔てなく接するような優しさも持ち合わせていた。
私は月の女神と呼ばれるような大人の女性的な魅力を持っていると言われていた。
妹は太陽の女神と呼ばれるような周囲を明るくする元気溌剌な魅力を持っていると言われていた。
そして私と妹は真逆の性質を持つが故、相性が良くて仲が良かった。
そんな私と妹は伯爵家の娘。
家族は私と妹、両親と兄がいる。
兄は伯爵家を継ぐに相応しい高潔な人物で、私と妹を分け隔てなく愛してくれる。
父と母も兄にはちょっと厳しいところがあるが、兄と私と妹をとてもとても愛してくれているのは私達にきちんと伝わっている。
伯爵家としては至って平均値の我が家は、しかし今日私が『聖女』の力に目覚めたことで状況が一変した。
「お姉様が聖女!?」
「んー…なんかね、こう…回復魔法を使えるようになって、人に加護を与えられるようになったみたいで…」
「そんな何の前触れもなく…」
「あらまあ…でもベルちゃんは目立つのは嫌いよねぇ…」
「どうしたものか…」
聖女の力は極めて有用だ。
しかしだからと言って王家に召集されるとか、教会に保護されるとかはない。
何と言っても、この世界には神が複数存在するので聖女の数も限定的ではないからだ。
我が国にも他国にも、すでに複数の聖女が存在している。
せいぜい国の有事の際に力を貸すくらいで、あとは自分のところの領地領民に加護を与えるとか治癒するとかそんなくらいが聖女の仕事だ。
「…あ」
「うん?」
「どうした、ベル」
ベルことイサベル、私は閃いた。
どうせ大した仕事でもない割に、目立つ存在が聖女。
もし聖女というのが「勘違い」だったとしても、軽い罰則金程度の罪で済む。
酷い醜聞になるというほどのことでもない、たまにあるし。
ならば目立ちたがりの我儘娘、妹のレナことレイナに役目を譲ればいい!
「ねえ、レナ」
「なに?お姉様」
「お姉様の代わりに、聖女になってくれない?」
別に聖女は、先ほど説明した通り大した仕事でもないし申告の必要もなかったりする。
「国の有事の際に」聖女として召集される時は各々自己申告で参加するくらいだし。
でもみんな、国が壊れると困るから召集にはちゃんと応じるんだけどね。
つまり〝緩い自己申告制〟なのだ。
「レナを聖女に仕立て上げても、別に誰も困らないでしょう?」
「そうね、さすがお姉様!」
「それはそうだが、しかしいいのか?」
「いいんじゃないですか、アナタ。ベルちゃんは目立つことが嫌いだし、レナちゃんは目立ちたがりだし…レナちゃんがベルちゃんの代わりを務められないことはないわ」
「ですが父上、母上、有事の際にはどうするので?」
兄の言葉に手を挙げる。
「レナの付き添いとして召集に同行します」
「ベルとレナが外に嫁いだ後は?」
「それでも付き添いするくらい許されるでしょう。普段も、この実家の領地と私の嫁ぎ先とレナの嫁ぎ先全部に治癒と加護を毎日授ければいいだけです」
「そこまで強力な力を授けられたのかい?」
「はい、お兄様」
力強く頷くと、兄はため息をついてから許可をくれた。
「…ならいいか。お前我儘言わない割にこうと決めたら動かないからね」
「ふふ、お兄様ありがとう」
「じゃあ私、聖女様になれるの!?」
「ニセモノ聖女だけどね、それでもいいのかい?」
「いいわ!大丈夫!なんとかなると思うから!」
妹も乗り気、私自身も納得していて家族も認めてくれた。
ということで、これから先私は毎日この領地に治癒と加護をかけまくりレナのお手柄として宣伝することになった。
なお先程の予定通り、有事の際にはレナの付き添いをして結婚してからは私とレナの嫁ぎ先にも治癒と加護を毎日同じようにかける。
まあ、この力は極めて強力だしなんとかなるでしょう。
そんなこんなで私たちの〝嘘〟は始まった。




