七分咲き
今日は家の周りを散歩してみる。以前も小説のネタに行き詰まるとこうして気分転換をしていたが、春樹が来てからは二人でいることのほうが多かった。
一人になり、今一度落ち着いて考えてみる。僕はいつから春樹のことをす……本来男女間で抱くような感情を持ってしまったのか。自覚というか、はっきりと現象として起きてしまったのはあの夢だ。理由も話さず、声も届かず。ただ離れていく春樹を見ることしか出来ない。それがどうしようもなく寂しくて、耐えきれなくて…。
「気が付いたら名前を叫んでしまっていたんだよな。」
なんだか自分が情けなくなってきた。
もちろんこの感情は初めてではない。だが、それも幼少期のことだ。それから今に至るまで恋愛感情とは縁遠い生活をしてきた。
だからなぜ今更、そしてよりにもよって相手が同性である春樹に。
考えても答えは出てこない。もちろん春樹はいい奴だし、一緒に過ごすようになってから楽しい日々が続いているのは間違いない。だからいって、こんな感情は…。
「考えるだけでも恥ずかしい。僕はどうしてしまったんだ。」
別に彼とどうこうなりたいわけではない。むしろこの心地の良い生活を壊したくないのだ。
こんなあやふやで、自分でもよく分かっていない気持ちを彼に伝えてしまったら、どんな反応をするのだろうか。
驚くだけならまだいい、軽蔑されてしまったら?拒絶されてしまったら?この関係を保つことはまず不可能だろう。それだけは嫌だ。僕はまだ君と一緒にいたい。こんなにも色付いた人生を、楽しさを見出せた生活を、ほかでもない君と過ごしたい。
「だから僕は、この気持ちを隠していこう。自分のために、君といるために、伝えないことを選ぶよ。きっとそれが一番だよな、春樹。」
さあ、随分と歩いてきたな。そろそろ帰ろう、彼の待つ僕たちの家に。