六分咲き
俺は染井春樹!近衛の家の庭に生えてる桜の精霊君だよ☆
小説を書いている近衛がなんだか悩んでるみたいだから、力になれるように日々考えながら過ごしているよ!
だけどあの日から近衛の様子が変なんだよね。あの日っていうのは、自室で寝ていた近衛が大きな声で俺を呼んだ日のこと。何かあったのかと思って駆け付けたんだけど、なんでもないって追い出されちゃった…。
それからというもの、近衛は俺とあまり目を合わせてくれなくなっちゃった。普通にお話はするんだけど、目を見ないようにしてるみたい。顔を覗き込んで聞いてみても、顔を少し赤くしてどこか向いちゃう。
「春樹、少し周りを散歩してくるよ。」
「はーい!俺はその間にお掃除しておくね!」
俺のことを『染井君』じゃなくて『春樹』って呼んでくれるようになったのは嬉しいかな。前よりも仲良くなれた気がする!
でも近衛はやっぱり『覚えていない』んだね。まあ、俺が『望んだこと』だし、それは仕方のないことなんだけどね。これは彼自身が思い出さなければ、伝えたところで意味がない。そういう風に出来ている。
でも俺はそれでもいいんだ。今のままでも近衛と一緒にいられることが幸せだし、変わってしまうくらいなら思い出さなくてもいい。
「思い出さなくていい…か。」
それが本心なのか、関係が壊れてしまうことを恐れているだけなのか…。思い出してくれればもちろん嬉しい。だけど変わってしまうことへの恐怖がないと言えば嘘になる。二つの思いがぶつかり合う。だけど、どちらに転ぶかは俺自身ではどうしようもない。全ては近衛次第だ。だけど時が来たら、例え意味がないとしても俺の口から…。
「やめだやめだ!早くお掃除終わらせないとね!
どうなっても、俺は君に従うよ、近衛。