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9・水の故郷
広い海原のあちらこちらに深緑色の塊が繁っている。
それは、夕闇に包まれていく。
空には、きらめく星。
あの海のどこかに、ほしのクジラがいる。
宇宙の星は死んでも、その欠片から新しい生命が生まれ、輝き、そして旅立つ。
ほしのくじら。
宇宙を旅する宇宙の一部。
再び果てしない星の海を旅する日が来るのだろう。
それは、気の遠くなるほどの、時の流れを必要とするのだろうか。
列車は海の上に差し掛かる。見慣れた景色が見えてくる。
ここを越えてしまえば、もう別世界だ。
見知らぬ土地から、見知った土地への。
電車の窓をあけ、顔を出した。夕闇に染まった息が、ごうっと後ろのほうへと流される。
駆け抜ける風の中、思わず叫んだ。「さようなら! さようなら!」と。
――声は列車の音の中に消えていく。