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1・流星の帰郷1
その日、部屋の窓から空を見上げていた。
夏の湿ったけだるい大気に、今までにないほどの満天の星空が映し出される。
夏の大三角形は天の河に浮かび、落ちてくる星は水平線の向こうへと消えていく。
ほのかに明るい星の夜、その下を歩かずにはいられなくなった。
部屋からそっと抜け出して、家の裏にある岬へと向かう。
その場所は、お気に入りの場所なのだ。
悲しいことや嫌なことがあったときはもちろん、星が見たくなったとき、必ずそこへ行くのだ。
夜の下を走る列車が鳴らす汽笛が遠くからかすかに響いている。
空に吊るされた月はきれいに欠けていて、地上をほのかに照らしていた。
岬までは、ほんの数分しかかからない場所ではあるが、そのような短い時間の散歩も悪くない。
夜更けに親に内緒で外へ行く興奮と、まとわりつく夏の空気で体は暑かった。
しかし、草花にうっすら香る露や、その暗がりで歌う虫の唄、昼間とは様子の違う景色に、体のどこかはひんやりと冷えていた。